フランクとエシェルの距離
生物の実験では、先生が用意した植物の葉を、グループ単位で薬につけて変化を記録する。
フランクのように男女混合のグループもあるが、ほとんどは男子学生同士、女子学生同士である。
シェルもサリタを含めた女子だけの5人グループだ。
「エシェル様、お変わりになりましたね」
誰かが言えば、他の令嬢が答える。
「寡黙な方で、真面目なタイプでしたのに」
「ご自分から、フランク様にお声をかけているのを見てましたわ」
シェルとサリタは実験をしながら聞いている。
「あの噂は本当かもしれませんね。婚約が解消になると・・」
女子学生はシェルを見て、口を閉ざした。
「シェル様、申し訳ありません」
女生徒の一人が頭を下げれば、他の女生徒も頭を下げようとして止められる。
「王太子殿下が婚約解消するとしたら、私が原因だと思われても仕方ない状況だから、気にしてないわ」
ギルモンドがシェルに夢中なのは、誰もが知っている。エシェル・ユーラニアとの婚約解消が近いと思うのは当然だろう。
今までも、どうして婚約が続いているか不思議なくらい、ギルモンドはエシェルを避けていた。
「エシェル嬢のことは、よく知らなくって。どういう方ですの?」
シェルはマルクが調べさせた調査報告の内容を知っているが、実情とずれているかもしれない。
エシェルが邪教によって意識操作をしていると思われる生徒は、あれから増えていない。エシェルが増やそうとしていないのか、増やしたくとも出来ないのかはわからない。
「私もよく知っている訳ではないのですが・・」
そう言って、お茶会などで会うユーラニア伯爵夫人と令嬢について話し出した。
王太子殿下は夜会には婚約者を同伴せずにいつも一人で参加していたとか、エシェルは王妃の公務に付き従う事も多いとか、次々と教えてくれる。
「エシェル様は王妃様のお気に入りですが、王太子殿下は気乗りされない様子でしたもの。
私達は、殿下とシェル様を応援してます」
そう言われれば、ありがとう、とシェルは応えるしかない。
エシェルが葉を刻んで銀皿にいれると、皿の色が変わる。
「毒性が認められました。フランク殿下、こちらもお試しください」
エシェルから他の葉を渡されて、フランクが受け取る。
「これが毒を持っているって、よく知っていたな」
感心したようにフランクが言えば、エシェルが少し微笑む。
「この植物が生息する地域の本を読んだことがあって・・」
エシェルの周りの男性は限られている。
王太子からは毛嫌いされ、フランクのように普通に接してくれたことはない。
もしかして、フランクがエシェルに好感を持つように無意識に意識操作した? けれど触っていないし、最初に操作できた6人以外、触っても出来てない。だからフランク殿下も操作されてじゃなく、本心で言ってくれている。
また、儀式をすれば他の人間も私に好感をもたせられるはず。
そうしたら、フランク殿下にも私はするのだろうか、とエシェルは思う。
「なんだ?」
フランクはエシェルの視線に気がついて、笑った。
同じグループの生徒がエシェルの指示に従順に従っているのを、精神感応の薬を飲まされていると思ってみれば納得できた。
薬の効力の魅力に、フランクは惹き付けられた。
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