第2王子への説明
唸ったのはフランクである。
「どういうことか、分からない」
クラスメイトであるフランクの協力があった方がいいのだ。ましてや王族が邪教に陥るなど許せることではない。フランクにも聖水を持たせて防御するべきなのだが、ギルモンドが乗り気でない。
ギルモンドが言わないのを、シェルが肘で突く。
「どういうこと? 弟がエシェルの毒牙にかかっていいの?」
王族っていがみあっているの?
「いや、そういうわけではないんだが」
ギルモンドの言葉は歯切れが悪いが、シェルに睨まれて続ける。
「あいつ、入学式でずっとシェルに見惚れていた」
「はぁ!? バカじゃないの?」
怒鳴ったのはシェルで、バレてたのかと思ったのはフランクだ。
「では、俺が説明した方がいいようだ」
どこから聞いていたのか、グイントが医務室に入って来る。
「先生方には、家族がケガをしたと言って授業は休むことを連絡したぞ。医務室は人払いをしてある」
グイントはいろいろ手続きをしていた為に、ギルモンドより遅れて来たらしい。
そうして、グイントはフランクに説明を始めた。
「じゃ、ずっと僕は蚊帳の外にされていたのか。兄上の視察は、彼女を探す為であったと」
脱力したように、フランクはその場に座り込んだ。
ガシガシと頭をかくさまは、フランクにしては珍しい。
たしかに9年前の自分は、儀式で聖獣以外は見ていなかった。
儀式で聖獣を見て興奮した僕は、王宮に戻ったあとも疲れたと文句を言って寝た気がする。
その時彼女は、父親と父親が連れ込んだ愛人に毒を盛られ、森に捨てられたと言うのか。兄上は婚約したのが彼女の名前を騙る別人だと分かっても、彼女と母親に危険が及ぶ可能性があるためにどうすることもできなかったと?
「エシェル・ユーラニア伯爵令嬢は、本人ではないと?」
今まで、名前を騙っているなど思いもしなかった。何年も兄の婚約者で、母のお茶会に来ていた。
「生まれた時はローザと名付けられたようです。ユーラニア伯爵家に入ったのが6歳。本人に昔の記憶があるかどうかは分かりませんが、ローザと呼ばれていたことは覚えていないかもしれません」
グイントの説明は、エシェル本人も騙している感覚はなく、自分がユーラニア伯爵令嬢ではないと思いもしないのだろう、と言うことを意味する。
「レオルド・ユーラニアは入り婿で、対外的に伯爵を名乗っているが実際は、ロクサーヌ・ユーラニア伯爵であり、今、エシェル・ユーラニアと名乗っている娘はレオルドの娘であっても、ユーラニア伯爵家の血統ではない」
「それなら、レオルド・ユーラニア伯爵をユーラニア伯爵家乗っ取り、正夫人殺害で処罰するべきだ!」
フランクは、どうして処罰しないのか、と問う。
「すでに10年以上、今の夫人と娘がユーラニア伯爵夫人と令嬢と、広く認知されています。
単純に、王がそれは偽物だと処断しても、反対に王家がユーラニア伯爵家を陰謀で陥れたと問われます」
グイントの言葉に、フランクも理解するしかなかった。
「昔のユーラニア伯爵家は豊かでしたが、今のユーラニア伯爵家を没落寸前にまでさせれば、ユーラニア伯爵を処断しても得る利益がないので信憑性を増すでしょう」
アイリスはフランクには言わないが、ユーラニア伯爵の没落の一員はランボルグ侯爵家だ。マルクがユーラニア伯爵の投資が損失するように動いている。
既に資金が無くなっているユーラニア伯爵は、領地や別荘といった資産を担保に金を借り、その金で投資をしている。マルクが仕掛けたハイリターンに見える投資に、ユーラニア伯爵が投資している。それは必ず失敗する詐欺のような投資だが、ユーラニア伯爵と正式な契約を結んでいるので、投資の失敗としてしか認識されない。損失を挽回しようとするユーラニア伯爵は、さらにハイリターンの投資に手をだすのだが、それはハイリスクでもあるのだ。
そうしてランボルグ侯爵は、ユーラニア伯爵が金融機関から借りて投資につぎ込んだ金を巻き上げて、ユーラニア伯爵が担保とした領地や別荘を買い取っている。
シェルは、ゆっくりと微笑んだ。
「処刑? そんな楽なことさせない。一瞬で終わるなんてさせない。
母と私に毒を盛って幸せを得たなら、その幸せが失敗だったと後悔させて、苦しませたい。
精神的に追い詰めて、全て騙していたのだと社会的信用も何もかも無くさせる。処刑はそれからよ」
フランクは入学式で見惚れた令嬢が、実は魔物ではないかと思えた。
邪教については王宮に戻って、王から説明を受けるということで、医務室では話さなかった。
ギルモンドは弟の様子を見ていた。
弟であっても、シェルを狙うようなら潰す相手になるからだ。
邪教に汚染されたといって処断するのもいい、とさえ思っている。
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