選別される者
医務室で処置を受けていると、飛び込んで来たのはアイリスだ。
「シェル!」
ケガをしているシェルよりも痛そうな顔をしてシェルにへばりつく。
「お兄様、授業中でしょう?」
それより、どうやって知ったのかと思ったら、理由は後ろから来た。
アイリスの遅れること僅かで、ギルモンドが入ってきたからだ。護衛からの情報なのだろう。
ギルモンドはフランクを見たが、存在を無視してシェルに詰め寄る。
「どうして、こんな傷を!?」
「兄上、いい加減にしてください。婚約者でない女性に何してるんだ」
フランクがギルモンドを近づかせまいとして、ギルモンドに払いのけられる。
「どうして、お前がここにいる?」
「僕はクラスメイトです。ケガ人を連れて来るのは当然だろう」
兄弟で睨み合っているが、ギルモンドの凄みに、フランクがたじろぎながら答える。
9年間シェルを探して国中をまわっていたギルモンドと、何も知らず王宮で過ごしていたフランクの違いだ。
「フランク、お前は忘れてしまっているのか? 僕は9年前、彼女に求愛した」
ギルモンドが9年前と言って、フランクは記憶をたどる。
聖祭のあった年だと思い出すと、聖獣のインパクトが強く忘れていた記憶の欠片を思い出そうとする。
ギルモンドが医務室にいる医官に目配せをすると、医官は部屋から出て行く。
それを見て、フランクは兄の求愛は聖獣に関係あって、秘匿のことだと考える。そして、聖獣のところに銀髪の人間がいたことを思い出す。
「銀髪・・」
「僕はエシェルにプロポーズして、父上も認めている」
「どういうことだよ! 兄上の婚約者は、エシェル・ユーラニア伯爵令嬢じゃないか!」
「うるさい」
ギルモンドとフランクの一触即発な会話を、シェルはぶった切る。
「え?」
令嬢の口からそんな言葉を聞いてフランクは硬直するが、ギルモンドは慣れている。
病弱な母親との暮らしと違い、ランボルグ侯爵領での9年間は、シェルを大きく変えた。復讐の為に訓練するシェルが優しいおしとやかな令嬢に育つはずがないのだ。
「大体ね、初めて会った人間にプロポーズするのも、あれから9年ぶりに会ったのに、気持ちが変わらないって変でしょう?」
シェルの口をアイリスが手で押さえる。
「ダメだよ、この人達にそれは通じないから。それどころか、何でも可愛いってなってるんだから」
この人達? 複数形にシェルは、ああ、シェイドラ公爵子息もか、と思い当たる。
「そんなことはどうでもいいけど、どうしてケガしたの?」
王子二人をどうでもいい、と言うアイリスも見かけに反して図太い。
「ああ、これね。わざと」
医官もいないし、フランクは事情を知らないけど王族だし、いいかと判断して、シェルは続ける。
「エシェル・ユーラニアを犯人にした時、エシェルを擁護するのは誰か知りたかったの。 誰が従属しているか見かけでは分からないから」
フランク以外は、シェルの本意を理解したが、納得はできない。
「それで、ケガする必要性はないだろう」
アイリスとギルモンドの意見が揃う。
「男二人と女三人だったわ」
アイリスに怒られ慣れているシェルは平気である。
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