シェルの仕掛けた罠
シェルが教室に戻ると、フランク王子が声をかけてくる。さりげなくサリタが側に来て、不測の事態に備える。
ギルモンドは、実の弟のフランク王子まで危険人物として指示しているのか、とシェルは思う。
「ランボルグ侯爵令嬢、領地から来たばかりで家族と一緒だと安心するのかもしれないけど、たまにはクラスメイトとランチしたら? クラスで浮いているよ」
フランクの言うことは尤なことで、心配して言ってくれている。
「殿下、ありがとうございます。兄が心配性で、しばらくは一緒にランチをしないと」
シェルはクラスメイトと慣れあう気などないが、ここは穏便におさめようとするが、フランクはそうではなかった。
「僕達、以前に会ったことはない?」
フランクは儀式のことは覚えていても、儀式をおこなった少女とは距離があったので顔を覚えていないのだ。
「それに、王太子を狙っていても無駄だ。婚約者のいる男性と懇意にするのは恥ずべきことだ」
片手を机につき、顔を寄せてフランクは言う。
慌てて、シェルが身を引くと面白そうに見てる。
サリタがシェルとフランクの間に和ってはいった。
「殿下、近すぎます。ランボルグ侯爵令嬢が驚いています」
興が冷めたとばかりに、フランクはシェルとサリタから離れて、自分の席に戻った。
サリタはギルモンドに報告するのだろうが、シェルはフランクの真意を考えていた。
9年前の儀式の時に第2王子がいたが、シェルも顔を覚えていない。初めて聖獣を見たのと、ギルモンドのことでいっぱいだったのだ。
そして、クラスメイトのどれぐらいがエシェル・ユーラニアの支配下にあって、その中にフランク王子がいるのか?
エシェルの取り巻きは支配下にあるのだろう。先日、襲ってきた男子学生2名もそうだ。あと、どれぐらいがそうなのだろう?
「サリタ、これから私がすることは黙認してちょうだい」
シェルはサリタに声かけして、机の中に手を入れた。
「きゃあ」
叫び声とともにシェルが手を出すと、その手には傷ができていて血が出ていた。
「シェル様!」
サリタがかけよりハンカチで手の傷を縛り、シェルを医務室に連れて行こうと動かした時に、机の中からペーパーナイフが落ちた。
カタン、と音を立てて床に落ちたそれには、ユーラニア伯爵家の家紋があった。
呪符の事があってから、シェルの机は警護の者が確認しており、そんなものは入ってなかったのをサリタは知っている。
「これは? 家紋がついてます。ランボルグ侯爵家の物ではないようです」
それでも、サリタはペーパーナイフを拾って、シェルの叫び声に振り向いたクラスメイト達に聞く。
ユーラニア伯爵家に忍び込んだ時に、拝借してきた物の一つであるが、サリタは知らない。
シェルの自演であるが、サリタはそれに乗ってくれる。
シェルがケガをしたのを見て、フランクが駆け寄って来た。
「医務室に連れて行こう」
そして、サリタの手にあるペーパーナイフを見て、
「ユーラニア伯爵家の紋?」
その言葉に、クラス中がエシェルを見た。
「違う! 私じゃない!」
エシェルは言うが、王太子のことでエシェルがシェルに好感を持っていないと誰もが思っている。
フランクがシェルとサリタを連れて教室をでるのと入れ替わるように、教師が教室に入って来た。
「ケガ人を医務室に連れて行きます」
フランクが教師に言うと、教師もクラスの騒めきの理由がわかったようだ。
犯人が確定しない、皆の中に不信を残して、シェルは教室から出て行った。
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