ユーラニア伯爵領という担保
シェルが入学して、アイリスは注目されるようになった。
アイリス自身が目立たないように行動していた事もあるが、シェルと一緒に行動するアイリスは表情豊かになり、美貌が引き立つようになったのだ。
そして、グイントがかまうようになると尚更である。
「シェル」
アイリスが昼休みに教室に迎えに行くと、他のクラスからも見に来る生徒もいるが、教室の外で待っているグイントに蹴散らされる。
「お兄様」
シェルがアイリスに駆け寄って行くと、それは一対のお人形のようである。
教室の外で待っているグイントも、二人が教室から出て来る時を楽しみにしている。
「お待たせしました」
アイリスがグイントに言うと、グイントはアイリスが持っているランチバッグをさりげなく取り上げて、グイントが持つ。
最初はアイリスも、令嬢扱いするなと怒っていたが、グイントの態度が改まらないので諦めた。
3人がギルモンドの待つ部屋に向かうのを、通りがかりの生徒達が見ている。
グイントは、アイリスに視線を送る生徒がいて面白くない。
部屋に着くと、ギルモンドはすでに資料を読んでいた。
部屋の資料を片付けるのに、読みながらなので
なかなか進まないのだ。
けれど、石板だけでなく、他の地域の遺跡から邪教らしき宗教の話がかかれた書類もみつけた。
全員が揃うと、情報交換をしながらのランチである。
「ユーラニア伯爵が担保にしたものだ」
ギルモンドが机に広げた紙には、ユーラニア伯爵領の一部の地域が書かれていた。
「私は、聖獣とユーラニア伯爵家とのつながりは、ユーラニア伯爵領にあると思うのです」
シェルが指さしたのは、紙に掛かれた地名の一つだ。
「この地名を見て、母が何度も口にしていたと思い出しました。
コレを手に入れたら、行ってみようと思います」
「ユーラニア伯爵は、我が家の系列の銀行から資金を借りている」
そう言ったのは、グイントである。
ユーラニア伯爵の投資が失敗したら、担保は銀行が回収することになる。
「これは偶然ですか?」
アイリスが片眉を上げて、グイントを見る。
「まさか! リースちゃんだってわかってるだろう」
シェイドラ公爵家が、ユーラニア伯爵を優遇して他銀行から資金を借りないようにしたのだ。
邪教に関して、シェイドラ公爵家が危機感を持っているのはわかるが、ユーラニア伯爵領が他に奪われないように手を回しているのは、シェイドラ公爵家でなくグイントであるのは明白である。
「リースちゃんに貸しを作りたいからね」
グイントは、大げさに両手を広げた。
「それは、ありがとうございます」
アイリスは、目を潤せてグイントを見上げる。
「お前、わざとだろう!」
グイントが口元を手で押えて言うと、アイリスがニヤリと笑った。
シェルは、二人の様子を静観しているが、グイントがユーラニア伯爵領を一部とはいえ取り上げてくれるのは、助かる。
ユーラニア伯爵家などいらない、ランボルグ侯爵令嬢として生きると決めても、ユーラニア伯爵領が手に入るなら、それに越したことはない。
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