フランク王子とエシェル・ユーラニア伯爵令嬢
エシェルは服装チェックをして、馬車に乗り込む。
朝食には、父も母も来なかった。自室で取るのか、屋敷にいないのかは知らない。
一人の食事だったが、今朝は機嫌がいい。
フランク王子に接触を持つという目的がある。
王太子殿下から避けられているのは分かっているが、フランク王子は嫌みを言っても避けられはしない。
ましてや、クラスメイトになり接点は多くなった。
クラスに着くと、数人の女生徒が寄って来てエシェルを取り囲む。元からの取り巻きと、新しく取り巻きになった令嬢達である。
高位貴族達からは、王太子に相手にされないのに婚約者を辞退しない令嬢と呼ばれているのを知っている。
今更、婚約が無くなっても新しい婚約者は簡単には見つからない。多くの貴族は婚約者がおり、この婚約にしがみ付くしかないのだ。
エシェルはクラスメイトに笑顔を向ける。自分が必要とされているのが嬉しいのだ。
彼女達と朝の挨拶をかわし、何気ない会話が楽しい。
「やぁ、おはよう」
フランクが教室に入ってきて、クラスメイト達と気さくに挨拶をしている。
「殿下、おはようございます」
エシェルは女生徒達を引き連れて、フランクに挨拶に向かった。
「エシェル嬢、クラスメイトだ、ここでは殿下は止めてくれ」
フランクがこういうのは想定していたエシェルは、笑顔を向けて返事をする。
「わかりましたわ。フランク様」
「へぇ、そういう顔もできるんだ。いつも暗い表情しているから」
フランクが知るエシェルは、兄のギルモンドからは遠ざけらて王宮で見る姿は笑顔などなかった。母の王妃といる時は、淑女として控えめな笑顔だった。
「その方がいいじゃないか」
思いもしない言葉に、エシェル自身が戸惑ってしまう。
王妃のお茶会で会うことはあったが、哀れんだ視線とからかうような言葉の記憶しかない。
「あ、ありがとうございます」
目的を忘れて、エシェルは照れてしまった。
王太子の婚約者として、おだてられたり、見え透いたお世辞も言われてきたが、フランクの言葉は心に響く。
もしかして、王太子殿下に相手にされない私を心配して言ってくれていたのかもしれない、と思ってしまう。
入口がざわついたので、エシェルがそちらに視線を向けると、王太子がシェルを送って来ていた。
あ。
言葉は音にならなかった。
フランクがエシェルの横をすれ違いざま「気にするな」と声をかけてくれる。
エシェルは泣きたくなった気持ちを引き締める。
王太子の態度に傷つかない人間はいない、それに反してフランクの言葉が心に染みる。
笑顔のギルモンドがシェルに何かいっているようだけど、シェルは愛想なく答えている。
私なら、嬉しくってそんな表情はしない。
エシェルの心に黒いドロドロした気持ちが渦巻く。
シェルの周りには、王太子だけではなくシェイドラ公子と兄のアイリスがいる。
どうして、あの女ばかりが・・・
シェルが鼻を手で押さえてクラスから出て行った。それを王太子、シェイドラ公子、アイリスが追うのが腹立たしい。
エシェルの気迫が出てしまったのだろうか。
フランクがエシェルの横に立って呟く。
「あれは兄上が悪い。もっと婚約者を気をかけるべきだ」
ありがとう、と言いたいのに、エシェルの口からは出ない。
ただ王太子が出て行った扉を見ていた。
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