ユーラニア伯爵邸に忍び込む準備
ランボルグ侯爵邸に戻ると、アイリスとシェルは準備に入る。
シェルは亡くなった母親の振りをして、ユーラニア伯爵と夫人を脅迫しようとしている。
ロクサーヌとシェルを殺した時の二人の会話も、躊躇いなどなかった。
今更、あの二人が後悔するなどしないと思える。
だが二人を殺した頃から、領地は天候不良で災害が続き、投資も失敗が続いている。
領地はともかく、投資はマルク・ランボルグ侯爵が、レオルド・ユーラニア伯爵が失敗するように買収や虚偽申告で誘導していた。
巨大損失をだしたレオルドは、損失を回収するべくさらにリスクの高い投資に手を出し、損失を増やしている。
二人を殺して、愛人を妻にした時期と、損失が始まった時期が重なる。
娘が王太子の婚約者になったものの、娘は王太子からは拒絶され、レオルド自身も王に呼ばれることがなくなった。
レオルドにとって、愛人と娘を家に入れてから続く不運。不信を持っているはずだ。
そこに、ロクサーヌが姿を現すことで、ロクサーヌの恨みのせいだと思い、愛人と揉めるかもしれない。
内輪もめになると確信していたが、愛人が邪教の信徒となると難しいかもしれない。
レオルドが愛人に支配されている可能性があるからだ。
だからといって、レオルドを許したりしない。
ユーラニア伯爵邸の使用人の数人を買収してあり、ユーラニア伯爵家の動向の報告と、シェルとアイリスの侵入の補助をすることになっている。
ルミナスがシェルにメイクをしてドレスを着せれば、ロクサーヌが出来上がる。
侍女のお仕着せを着たアイリスが付き添い、用意してある馬車に乗ろうとして、馬車の馭者がマルクでないと気がつく。
馭者に扮していたのはグイントであり、馬車の中には侍従に扮したギルモンドが待機していた。
シェルに付けている護衛が連絡したのであろう。
様子を見ればわかる。王太子とシェイドラ公子が事情を知っている、と協力を願い出れば、マルクは受けいるしかない。
「リースちゃん、よく似合っている」
馭者台から降りて、グイントがアイリスをエスコートすべく手を差し出す。その手をパチンと振り払い馬車に乗ろうと扉を開けると、中からギルモンドがシェルの腕を掴み引き入れようとして、シェルに頭突きをくらわされた。
鼻を手で押さえて背中を丸めるギルモンド。
「あれは痛いぞ」
哀れんだ視線をギルモンドに向けるグイントは、アイリスの方がやっぱり優しいと振り払われた手を見る。
「もう、ヘアースタイルが乱れちゃったわ。せっかく死人ぽい髪型にしたのに」
変な事を言うシェルだが、本人は真剣である。
「僕とシェルは伯爵の執務室に行きますから、その間に伯爵の私室を探っていただきたい」
アイリスが私室を探ろうと思っていたが、人手があるなら使わない手はない。
「伯爵は、ユーラニア家の印籠をどこかに隠し持っているはずです」
ロクサーヌがレオルドに預けた印籠は、ユーラニア伯爵家の正式な書類には必要だ。
それがあるから、レオルドはユーラニア伯爵家の資産を担保に投資を続けていられるのである。
レオルドは夕方に来客があり、夫人は一人で夜会に出席している。客が帰った後は、レオルドが一人でいるはずなのだ。
「儀式をする隠し部屋がどこかにあるはずだ」
ギルモンドがユーラニア伯爵邸に忍びこむもう一つの理由をあげると、シェルの眉があがる。
先祖が建てた館であるが、改築され、変わってしまっているのだろう、と切なくなる。
馬車がユーラニア伯爵邸付近に来ると、グイントは馬を静かに歩かせ人目がないところに止める。
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