エシェル・ユーラニアの手段
いつもの4人でランチをするのは定番になっていた。
そこで、シェルはサリタのことを話す。
「ギルモンド様、ありがとうございます」
「あれ、ギルと呼んでくれないのかな?」
すでに報告がいっているとばかりに、ギルモンドはシェルを揶揄う。
ギルモンドが親密さを強調するが、シェルにあしらわれてしまう。
「はいはい」
それはどうでもいいから、とばかりに部屋の整理を続ける。
食事の後は、散らばった資料や遺物の整理にいそしんでいる。邪教の石板があったことから、他にも有用な物があるかもしれないからだ。
捨てようと思ったユーラニア伯爵領だが、シェルが生まれ育った地である。
もう顔を忘れたが、多くの使用人がいた。
それが邪教に支配された人間が治めているとなると、複雑な気持ちがわきでてくる。
石板に描かれていた生け贄の儀式、それをユーラニア伯爵邸でしていると思うと吐き気をもよおしてくる。
邪教は生け贄と教義によって、人心掌握をする。
ユーラニア伯爵夫人を調べる過程でわかったことだが、王都にも多くに信者がいる。
国の基盤を揺るがすようなことであるから、ギルモンドは慎重である。
古い時代の教義は情報が少なく、少しでも手がかりが欲しいのだ。
エシェル・ユーラニアは校庭の片隅に、二人のクラスメイトとともにいた。
「王太子殿下は、あの女に惑わされているだけよ」
「エシェル様、そうお嘆きにならないでください。エシェル様の苦しみの原因を必ず排除してさしあげます」
男子生徒がエシェルに恭しく礼をする。
もう一人の男子生徒も、同じように礼をしてエシェルの元を去る。
二人とも、シェルとエシェルの争いに巻き込まれないよう、遠巻きにしていたはずだ。それがエシェルの下僕のようにしている。
エシェルは二人が去っていくのを見送って呟く。
「期待通りの働きをしてくれるのを待っているわ」
王太子の婚約者なのに王太子に敬遠されていると噂されるエシェルは、二人が自分に傅くのが気持ちいい。
これでシェルを排除できると思うと、気持ちが高揚して身体が熱くなる。
楽しい。
お母様の言うことは正しかった。
もっと生け贄を捧げれば、もっと願いを叶えてくれるにちがいない。
エシェルから離れた二人は、計画をたてていた。
「ランボルグ侯爵令嬢が一人になる時間を作らないといけないな」
「そうだな」
クラスメイトとはいえ、入学してからまだ馴染みもない二人。それが旧知の友のように片寄せ合って話をしている。
周りから見ると普通の景色だが、その普通の中に危険が潜んでいるのだ。
シェルは常にアイリスと一緒に行動している。一人になるのは授業中ぐらいのものだ。
午後の授業は歴史で、思わず眠くなるような時間に眠くなるような話を聞くのだ。学生にとっては忍耐の時間でもある。
先生が史実の供述をしている時、それは起こった。
一人の男子学生が立ちあがり、シェルに襲いかかったのだ。突然のことにサリタも対応が間に合わない。
だが、シェルは復讐の為に武術を訓練していた。普通の侯爵令嬢ではない。
襲いかかる学生をなんとか避けて、身を横に転げると、そこにはもう一人の学生がいた。手には握りしめた鋏。
それをシェルの顔めがけて振り降ろしてくる。
ガーン!
その学生が吹き飛んだ。
シェルの隣の席の男子学生が、襲ってきた学生を蹴り飛ばしたのだ。
教室に響く、机が倒れる音、女生徒の悲鳴、駆け寄る足音。
最初にシェルを襲った学生はサリタに取り押えられた。
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