復讐の始まり
殺したはずの妻の姿。
そんなことは絶対にない、あれは誰だ?
ユーラニア伯爵はきっとこう思っているわよね。
シェルは馬車の背に身体を預けて、考えていた。
「楽しそうだね?」
そういうアイリスも楽しそうだ。
「ええ、やっとアイツを追い詰められる。
今頃、どうしているかしらね?」
「あの様子じゃ、ただの似ている人間がいた、ぐらいに思っているかもね」
アイリスもシェルと同じ時間、復讐することを準備してきたのだ。
「やっと、復讐を始められた」
6歳の子供では、どうすることも出来なかった。
「そうだね」
アイリスも笑顔で応える。
ランボルグ侯爵邸に戻れば、ルミナスが心配して玄関で待っていた。
マルクも馭者として待っている間に、ガーウィッグ伯爵邸を探っていたらしい。アイリスも庭での様子を報告する。
「もう9年も経っているんだ、生きてるなんて思ってないんだろう」
9年前のあの時、息をしていないのを確かめて森に捨てたのだろうから。
翌日、登校するとグイントに絡まれた。
シェルをクラスに送り、アイリス、グイント、ギルモンドの3人になった途端、グイントがアイリスの腕をとったのだ。
「やめてくれ、人目があるだろうが」
通りすがりの学生が驚いて見ているので、アイリスは腕を掴んだグイントの手を振り払おうとする。
グイントは身体を寄せて来て、他の人間に聞かれないように小声で言う。
「女装したんだって? どうして俺を呼ばないんだ。危険だろうが!」
危険を心配しているよりは、女装を見たかったが前面に出ている。
「グイント様には関係ないことです」
何でしっているんだ? と思ったが、シェルには王家の護衛が密かに付いているんだったと思い出し、ギルモンド経由で知ったのだろう、とアイリスは結論づける。
「侍女姿がよくお似合いで疑う者などいないでしょう、って報告を受けたら心配するだろう。
夜会に来ている男なんて、見目麗しい侍女がいたら無理強いするようなヤツもいるんだ」
真剣に心配しているらしいグイントに、アイリスは溜息が出た。
「教室に着きましたので、これで失礼します」
反論しても余計に言われそうで、アイリスは逃げる事にした。
侍女に言い寄るような男に思い知らせる武術は身に付いている。シェルが一緒にいるんだ、そんな男を近づけさせたりしない。
教室に入って行くアイリスの後ろ姿を見送るグイントの肩にギルモンドの手が置かれた。
「不自然ではなくシェルの側にいるための、アイリスに執心の役ではなかったのか?」
まるで本気だぞ、と言っているようなギルモンドだ。
「お前こそ報告を受けた時は、事前に知らされてなかったことにショックを受けていたじゃないか。
俺達にまだ信頼がないのは分かっているだろう?」
「それもあるが、シェルはどうやって名前を取り戻すつもりなんだろう?
危険が多い事をするんじないか?」
グイントとギルモンドは、同じことを思っていた。
さらに目が離せないな。
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