運命の出会い
ワンワン!ワン!
「どうしたの、こんな夜更けに鳴き止んでよ。
母さんに怒られる」
アイリスは愛犬ジェシーが鳴きやまないので、ベッドから起きだした。
いくら町はずれの家とはいえ、ジェシーの鳴き声は深夜に苦情が来るかもしれない。何より、すぐに母親が来そうだ。
アイリスが扉を開けるとジェシーは飛び出したが、戻って来てアイリスの服の袖をくわえて引っ張り始めた。
「ジェシー、服が破れちゃうよ、止めて」
それでも止めないジェシーに根負けたように、アイリスは夜の庭に出た。
庭の垣根から裏山に向かう、ジェシーはドンドン奥に入って行く。
アイリスは、この山に捨てられていたジェシーを拾った。素から落ちたヒナ鳥も拾ったが生き延びなかった。ケガをしたリスも拾った。変わった色の蛙も捕まえた。リスは2年、カエルは冬を乗り越えらなかった。
アイリスが拾ってきて、生き残っているのはジェシーだけだ。大きく育って、母親が餌代がかさむと愚痴るが、家族として受け入れている。
「ジェシー、真っ暗で怖いよ」
昼間は遊び場となっている山だが、深夜に入るのは初めてである。ビクビクしながら山の中に進む。
何かある、アイリスは暗闇に違和感を覚えて躊躇したが、ジェシーは突進していき、そこで吠え出した。
「ジェシー、止めてよ」
アイリスも仕方なしに近づいて、それが人間であると気がついた。
雲居の間から月が照らし出す。
ドレスを着ている大人と子供が倒れている。
二人の銀の髪が月明かりに照らされ幻想的である。
一瞬見惚れたが、今はそうしてられないとジェシーの後に続く。
「大丈夫!?」
声をかけるも反応はない。恐る恐る近づくも動いてはいない。
死んでる!
あわてるアイリスが転びかけて、子供の身体に触れた。
「ぅ・・」
呻き声がして、子供の身体が震えた。
「君! 大丈夫!?」
アイリスが子供の手を取ると、握り返してくる。
「助けて・・」
その声はアイリスに届き、アイリスがその子を起こそうとするが、7歳のアイリスでは抱える事はできない。
「ジェシー、この子を運べる?」
アイリスに応えるように、ジェシーは身体を伏せてその子を背に乗せやすくした。意識を失っているその子をジェシーの背に覆うように乗せて歩き出した。
その子がジェシーの背から落ちないように支えながら、アイリスは呼びかけた。
「絶対に、助けてあげるから」
「アイリス」
暗闇で名前を呼ばれて、アイリスは飛び上がるほど驚いた。
そこには、家から出て行くジェシーとアイリスを見て追いかけてきた母親のルミナスがいた。
「母上!」
飛びついてきたアイリスを抱きしめながら、ルミナスはジェシーの背に覆い被さって運ばれている子供を見た。
「母上、この子、森で見つけた。生きているんだ。大人の女の人もいたけど、死んでいた」
絶対に訳ありであろう子供。
ルミナスは見捨てることも出来ない、と溜息をついた。
「ともかく連れて帰りましょう」
家に運び込み灯りの元で見ると、その子供の服が血まみれであることに悲鳴をあげた。すでに乾いているが尋常な状態ではない。
ルミナスは、その子をベッドに寝かすとアイリスの服に着替えさせた。吐いたであろう血が顔にこびりついているのをお湯で拭きとって綺麗にする。
アイリスより少し小さいその子に何があったのだろうか、と思うとルミナスの瞳から涙が零れ落ちた。
アイリスはいろいろなものを拾ってきたが、人間は初めてである。
こんな夜中に森で倒れているなど、不審であることは間違いない。犯罪に巻き込まれた可能性も高い。
けれど、放り出そうとは思えなかった。
横に椅子が置かれて、アイリスがベッドの横に居座る。今夜はついているつもりらしい。足元にはジェシーが蹲っている。
ルミナスは立ち上がって、アイリスの髪をなでた。
「私は、明日も早いから寝てくるわ。この子が起きたら知らせて」
アイリスが頷くのを確認して、部屋を出た。
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