エシェル・ユーラニアに広がる闇
少しグロテスクな箇所があります。
絶対にわざと転んだ。私は罠にかけられたのだ。
エシェル・ユーラニアは、エシェル・ランボルグの表情を思い出す。
痛いのを我慢しているように、周りの同情を買っていた。
きっと、ギルモンド様も騙されているに違いない。
私室に戻って閉めた扉にもたれかかり、エシェル・ユーラニアは状況打開を考える。
ギルモンド様と結婚して王太子妃になれば、誰よりも地位が高くなるけど、それまで待てない。
私はお母様に連れられて、幼い頃から社交をしてきたわ。それが貴族の娘として当然だもの。あんな田舎から出て来たばかりの娘、思い知らせてやる。
私がギルモンド様の婚約者なのだから。
扉を開けてメイドを呼び、母親が帰って来たら教えるよう指示をだす。
今日は、王妃陛下と観劇に行かれているはず。もうすぐ帰ってくるだろう。
ロクサーヌ・ユーラニアが館に戻ると、すぐに娘が部屋に来た。
王と王太子が王妃を疎外していると、王妃が嘆いていた。それと関係あるのかもしれない、とロクサーヌは思う。
「お母様、教えてくださいな」
エシェルは思いつめたようだった。
「どうして、お父様は娘の事を信じてくれないの?
生意気な女生徒に、私が王太子の婚約者だと思い知らせるには、どうしたらいいの?」
エシェルは母親に学院での出来事、父親に言われたことを伝える。
イヤリングを外し終えたロクサーヌが使用人達を部屋から下げて、部屋にはロクサーヌとエシェルの二人になった。
「私は銀髪が大嫌いよ。入学式の馬車寄せで会った娘よね?
名前がエシェルで侯爵令嬢なんて、腹立たしいわ」
「エシェル、使用人であっても他人がいるところで、あんなこと言っちゃだめよ」
ロクサーヌはエシェルを近くに寄せると、耳元で囁く。
「私がいいものをあげる」
ついて来なさいとばかりに、部屋の中を移動する。
クローゼットから宝石で飾られた箱を取り出して、そこから1枚の紙を取り出す。
「呪符よ。これをその女生徒の持ち物に紛れ込ませなさい」
その前に、と呟いたロクサーヌは部屋の鳥かごから小鳥を1羽掴みだした。
「ぴー・・」
小鳥は小さく鳴いてこと切れた。ロクサーヌが小鳥の首を折ったからだ。
ポトリ、ポトリ、小鳥の口から血が滴り落ちて、呪詛の紙に血の染みを作る。
けれど、まるで吸われるかのように血の染みは消えていく。
「呪詛の願いは何?」
ロクサーヌが紙をエシェルに手渡す。
「エシェル・ランボルグが学院から消えることよ。事故に合えばいい」
「着替えるから出て行ってちょうだい」
疲れたとばかりに、ロクサーヌはエシェルを部屋から出す。
母親の部屋からでたエシェルの手には、呪詛の紙。
お母様が小鳥が逃げたと言って、新しい小鳥を飼うのは、小鳥を生け贄にしたからなのね。
私も小鳥を飼いましょう。
エシェルは手にした呪符が万能の札に見える。
明日の朝、エシェル・ランボルグの机の中に忍ばせよう。
お読みくださり、ありがとうございました。