ユーラニア伯爵の動揺
「殿下のお手を煩わせるほどでもありません」
エシェルがチラリと自分の足首を見ると、集まっているクラスメイトも見る。エシェルは足をひっかけられて、転倒したように思わせる。
「私は何もしてません」
エシェル・ユーラニアがフランクに反論するが、フランクがそれを信じるはずもない。
「エシェル?」
名前を呼ばれた二人が後ろを振り向けば、アイリスがいた。
「ケガをしたの?」
アイリスはフランクを押し退けるように駆け寄り、エシェルの足を見る。
ユーラニア伯爵邸の様子を確認する為にも、ランボルグ侯爵夫妻がユーラニア伯爵邸を訪れる理由が欲しいのだ。
そのために、エシェルが言いがかりをつける予定だったが、エシェルがケガをするなら必要ない。
「殿下、ありがとうございました」
エシェルは、迎えに来たアイリスの手を取ると立ち上がり、わざと片足をかばうように歩く。
「皆様、ごきげんよう」
エシェルが部屋を出るのを確認してクラスメイト達も散らばっていく。
クラスの外にはグイントだけだったので、ギルモンドは登校できなかったのだ。
少し残念に思う自分がいる事を、エシェルは知っている。
グイントはランボルグ侯爵家の馬車に一緒に乗り、事情を聞く。
グイントはアイリスとエシェルを送ってから王宮に向かうらしい。
ランボルグ夫妻は、エセルから話を聞くと、すぐにユーラニア伯爵邸に向かった。
この好機を逃すわけにはならない。
娘から聞いてなかったユーラニア伯爵は、急にランボルグ侯爵夫妻が訪ねて来て対応に追われた。
入学式の時にもトラブルをおこしている相手である。
娘が転ばされてケガをした、と言われても、娘に確認するから時間が欲しいと答えるしかない。
ただ、クラスメイトの多くが目撃していると言われれば、立場がなくなる一方である。
マルクとルミナスはユーラニア伯爵邸の確認だけではなく、ユーラニア伯爵自身にエシェルの存在を気にかけさせる意味もあるのだ。
ランボルグ侯爵夫妻が帰ったあと、ユーラニア伯爵は娘のエシェルを呼んで事情をきいたが、ランボルグ侯爵から聞かされた話と娘の話では大きく違う。
ケガも大した事はないらしいが、ここでの対応は貴族社会での位置づけに大きく響く。
投資の失敗続きで、ユーラニア伯爵の信頼は大きく落ちた。そこに、娘が格上の相手にケガをさせたとなったら・・
従来なら、王太子の婚約者である娘の方が尊重されるのに、王太子から疎遠にされているのは周知の事だ。
ユーラニア伯爵は、娘が学院に通いだしてから続くトラブルに頭が痛いばかりだ。
「私は、転ばせたりしていません」
父親に疑われて、エシェル・ユーラニアは怒りで震えた。
読んでいただき、ありがとうございました。