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君と誓いの月夜  作者: violet
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秘匿された部屋

ノックもなく扉が開いて、フランクが入って来る。

「あれ、どうしてランボルグ侯爵令嬢がここにいるの?」

グイントには目もくれず、フランクはエシェルの横に座ろうとするが、アイリスに邪魔をされる。

「殿下、申し訳ありませんが、ギルモンド殿下に呼ばれて僕達はここにいるので、そこにはお座りになりませんよう」


「兄上の席だというのか? だから、どうしたっていうんだ。いないじゃないか」

フランクが座った途端、エシェルが立ちあがりアイリスの横に移動する。


「申し訳ありません、王子様。王太子殿下の機嫌を(そこ)ねるわけにいかないのです」

心の中で舌をだしながら、エシェルは気弱そうな振りをする。


様子を静観していたグイントだが、エシェルが嫌がっているのを察すると嫌味がでてくる。

「せっかくのアイリスちゃんとのランチなのに、もめに来られたのですか、殿下?」

この部屋は使えないな、と考えながら別の部屋を算段する。


フランクはグイントが苦手らしく悔しそうな顔をしたが、すぐに笑みを見せる。

「へぇ、そいつは綺麗な顔をしていても男じゃないか。公子がそんな趣味とは公爵も落胆されるだろう」


「ええ、女性よりも綺麗でしょ?」

グイントが肯定すると、フランクに返す言葉はない。

グイントは主導権を握ると立ち上がって、アイリスとエシェルにも促す。

「我々は場所を空けますから、殿下はどうぞごゆっくりなさってください」

あっけにとられるフランクを置いて、グイントはアイリスとエシェルを連れて部屋を出て行く。

扉を閉めた途端、部屋の中から壁を蹴る音が聞こえたが、グイントは無視して歩みを止めない。


「あの部屋はもう使えないな。生徒会室もダメだろう」

グイントが考えながら歩いているのを察したアイリスが提案する。

「王太子殿下は午後から来られるのなら、学院で昼食は食べられないのですよね?」

アイリスが確認するのは、ギルモンドが昼食を食べるなら4人分の食事が必要だからだ。


「たぶん、選抜には時間がかかるから、午後の授業ギリギリにこれるかどうかぐらいだろう」

グイントは、ギルモンドがこちらに向かう馬車の中で食事を済ますだろうと思っている。

「でしたら、こちらへ。僕が一人で食事する時に使う場所があります」

アイリスがエシェルの手を引き、グイントにもついて来るように誘導する。


アイリスはこの1年、エシェル・ユーラニアを婚約者とする王太子の観察や、王都の情報収集の為に気配を隠すことが多かった。

その為に、身を隠しやすい場所をいくつも調べてある。

図書室を通り過ぎ、教員専用地区に入り込む。

「ここは、歴史学のフェイラー先生から資料整理を条件に借り受けている部屋です。

後で、整理するのを手伝ってくださいね」


部屋の中は雑多に本や紙類が散らばっているだけでなく、遺跡から発掘されたような古びて土まみれの品があったりする。

部屋の一角は仕切られ、ネームタグが貼られた棚が並べられている。これがアイリスが整理しているものだろう。


「こんなとこがあるとは知らなかったな」

グイントが感心したように、周りを見る。


「会長も副会長も、下っ端教員なんて興味ないからでしょう。

フェイラー先生は廃棄された教会とか遺跡とかを調べるのがお好きで、授業のない日は地方に行かれて留守にすることが多いんです。整理を条件に、この部屋を借りてます」

座ってくださいとばかりに、アイリスは椅子を持って来て席を作る。

持っていた篭をテーブルに置くと、ナプキンを広げる。

「食堂から食事は運べませんから、これで我慢してください。

僕とエシェルのお昼用に持ってきたものですが、3人分ぐらいありますから」


ギルモンドの分まではないから、ギルモンドに昼食が必要か聞いたのか、とグイントは納得する。

篭から出て来たのは、サンドイッチである。

アイリスは戸棚から茶器を取り出し、3人分の茶を淹れる。

「ありがとう、僕まで悪いな」

サンドイッチを受け取って、グイントは頬張る。


「美味しい。久しぶりにお兄さまのお手製を食べたわ」

エシェルの言葉に、グイントは手にしているサンドイッチを見る。

「屋敷の料理人が作ったのではないのか?」


「朝からお兄様が作っていたから、お昼を楽しみにしていたの。領地では料理をよくしてくれたのよ」

エシェルは、自分もしていたとは言わない。エシェルは、料理はできない。


「普通に美味しいだろう? 僕は母と暮らしていた時は、料理の手伝いをしていたから」

嫁ぎ先から戻って来たルミナスは実家の手伝いをして働いたが、最小限の使用人しか雇えなかった。だから、幼いアイリスは料理をしてルミナスを助けていた。


「すごく美味い。アイリスちゃん、本当に俺の嫁にならない?」

グイントは地が出ていて、自称が俺になっている。


「ならない。僕は女の子と結婚する」

アイリスの即答に、笑い出したのはエシェルだ。

「シェイドラ公子様の気持ちわかります。お兄様は綺麗だし、賢いし、お料理だけじゃなく裁縫も得意なの。いいお嫁さんになるわ」


「アイリスちゃん、エシェルちゃん、グイントって呼んでくれないかな? シェイドラ公子とか副会長って堅苦しい。俺も、リース、シェル、って愛称で呼びたいな」

エシェルが二人いるから紛らわしいと、呼び名を変えるのは名前を捨てるようで許せないだろうが、愛称ならとグイントは言うのだ。


アイリスはグイントを見たが、グイントの策に乗るのも悪くないと思う。

「エシェルのシェル、可愛いよ」


読んでくださり、ありがとうございました。

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