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君と誓いの月夜  作者: violet
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裏切りの晩餐

ロクサーヌは出迎えに出ている夫のレオルドと抱擁し、レオルドはエシェルを抱き上げて館に入る。

「お父様、ピアノが上手だと先生に褒められたのよ」

「ああ、それは楽しみだ。まずは食事をしよう。ずいぶん疲れたろう?

食後にピアノを聞かせてもらおうかな」

エシェルとレオルドが楽しそうに会話するのを、ロクサーヌは笑顔で見ていた。


ユーラニア伯爵家の直系のみが伝えられる秘儀は、入り婿であるレオルドには知らせていない。

だから、領地から直接大聖堂に行ったことも秘密である。

ロクサーヌとエシェルは、領地から王都のユーラニア伯爵邸に着いたばかりという事になっている。10年に一度の大祭に、参拝するために各地から貴族が集まって来る。ロクサーヌとエシェルも、明日家族で参拝する予定だ。ロクサーヌの体調が良ければ、祭りで賑わう街を楽しむつもりでもある。


「あら、ダレスの姿がないわね?」

3年ぶりに王都に来たロクサーヌは、屋敷を任せている老執事のダレスの姿が迎えに無いのをみつけた。何より、出迎えに使用人の姿がない。

ロクサーヌは、3年ぶりに王都の屋敷を訪れたユーラニア伯爵家の当主である。使用人が並んで出迎えるものだ思っている。

「ああ、ダレスは最近体調が悪いらしく、休養させているんだ。久しぶりなんだ、僕が出迎えて親子水入らずで過ごしたいじゃないか」

レオルドが先読みしたように、出迎えに使用人がいない理由を告げる。

ダレスはロクサーヌが子供の頃からユーラニア伯爵家で働いている古参で、引退してもおかしくない老齢だからだ。


「荷物は部屋に運ばせるから、まず食事にしよう」

レオルドの提案にロクサーヌも異存はない。

大聖堂の秘儀で疲れていた。


食堂にはすでに食事が用意されていて、席に着くとレオルドは祝杯をあげる。

「明日の祭りは、天気がいいらしい。10年に一度の大祭に各地から人が集まっているし、大通りは露店で大賑わいだ。領地からの道中は疲れたろう。ゆっくり食べて疲れを取れば、明日の祭りを楽しめる」

メイドの給仕が終わると、レオルドは使用人を全て下げた。

食堂にはレオルド、ロクサーヌ、エシェルの3人だけだ。楽しそうな声の会話が続く。


明らかに機嫌がいいレオルドが、ロクサーヌの杯に炭酸酒を注ぐ。

久しぶりに揃った家族が楽しく所食事をしている時に、それは起こった。

ロクサーヌが急にむせて咳き込んだ。喘息(ぜんそく)のロクサーヌは、王都の空気は息苦しいのだ。

エシェルは、ロクサーヌがいつもの喘息の発作だろうと薬を出そうとして振り向いた。だが、それはいつもの発作ではなく、真っ赤な血を吐いて苦しむ母の姿だった。

「お母様!」

駆け寄ろうとしたエシェルも、ガクンと身体が揺れて膝から倒れる。


ゴホッ! ゴホッ!

エシェルも血を吐きながら咳き込む。

身体が苦しい、熱い、エシェルの意識が朦朧(もうろう)としてくる。


レオルドに手を延ばそうとしても、思うように動かない。

助けて、お父様。

ぼやける視界で父親を見るが、レオルドが近寄る気配がない。


「遅効性の毒とはいえ、時間がかかったわね」

レオルドの隣から女性の声が聞こえる。

「ずっと領地に引きこもっていればいいものを。

いつかは、こうする予定だったけど、あっけないものね」


「ああ、こいつを知っている使用人は全員入れ替えてある。客人として迎えられたなどと思いもしてないだろう。明日の朝に、すでに旅立ったと使用人に言えば、いなくても疑う者はいない」

レオルドの忍び笑いの声がエシェルの耳に響く。

「3年前からこの屋敷で暮らしているロクサーヌ・ユーラニア伯爵は私。王都では知り合いがないというのは便利だったわ。貴方の横でロクサーヌとエシェルと名乗れば、誰もが疑問をもたないのだから」

「俺の妻と娘はおまえ達だけだからな。俺は伯爵家の三男だから爵位を手に入れるには、こいつは都合がよかった。俺を伯爵家の仕事をさせる奴隷と思っているような女だった。高慢でつまんない女だったよ」

ハハハ、フフフ、と笑い声が聞こえる。


ピクリとも動かない自分の体、苦しさも感じない、自分は死んだのか?

エシェルは薄れゆく意識の中で、外の言葉を聞き逃すまいと集中する。


「人目につかないように、馬車に運ぶのを手伝え。

王都の外の森に捨てれば、野獣が食い散らして遺体も残らない」

父親と女が、母親と自分を運ぶのを感じながら、馬車に乗せられる頃にはエシェルの意識はなくなっていた。


許さない!

絶対に・・・・・・・・・・


読んでくださり、ありがとうございます。

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