第2王子フランク
さすがは王太子、エシェルの言わんとしたことを察したのだろう。
「僕が動けば目立ちすぎるか・・・。だが、どうやって名前を取り戻すつもりだ?」
エシェルはルミナスと視線を合わす。
「それはまだ言えません。けれど、レオルド・ユーラニア伯爵が妻だと紹介したがために偽物がまかり通っているの・・」
エシェルの言葉の途中で、生徒会室の扉がノックされる。
中の返事を待たずに扉が開いて、フランク王子が入ってくる。ランボルグ侯爵一家を見ると、口笛を吹く。
「フランク、客がいるのだ。勝手に入って来ては困る」
ギルモンドが弟をいなすが、フランクの方は慣れているのだろう、気にした様子はない。
「王族は生徒会役員が規定になっているんだから、ここに来ないといけないんだろう?
主席の彼女も役員で、両親と来ているのか?」
第2王子ということで、予想以上に自由に育ったようだ。
マルクとルミナスが立ちあがり、フランクに礼を取る。
「第2王子殿下にご挨拶いたします」
王族とはいえ地位のない第2王子には、侯爵であるマルクはそれ以上の挨拶は必要ない。
フランクもわかっているので、何も言わない。
「殿下、今日は娘は連れ帰ってよろしいでしょうか?
初めての登校で疲れているようです」
フランクが来たことで白々しい空気になって、マルクがルミナスとエシェルを連れ帰ろうとする。
「ああ、素晴らしい入学者代表挨拶だった。 ゆっくり休んでくれたまえ」
そういうギルモンドは握っていたエシェルの手を離し、両親と共に出て行くのを見送った。
「どういうこと? 兄上は婚約者がいるんだよ」
フランクが空になったソファーに座る。
フランクは、生徒会役員として残っているアイリスがエシェルの兄とは知らない。
「彼女、綺麗だよね。銀色の髪が特にいい。ランボルグ侯爵令嬢なら身分も問題ない、婚約者のいる兄上は引いてよ」
ドン。
ギルモンドの握りこぶしがテーブルを叩いた。
「彼女は物じゃない。彼女の気持ちが重要なんだ。なにより、僕がひくことはない」
ギルモンドに睨まれて、フランクが怯む。
同じ両親から生まれたのに、先に生まれただけで全てを手に入れる兄。
フランクだって、ギルモンドが王太子教育で自分にはない苦労をしているもの知っている。だが、卑屈さはぬぐい切れない。
聖祭で見た聖獣と幼い少女。それも、兄が手に入れようとした。
だが、兄が婚約者としたのは、あの少女ではなかった。
彼女の方が、あの時の少女に似ていないか?
記憶も朧気で、少女の顔も名前も覚えていないが、銀髪であったのは覚えている。
「今日は、生徒会の仕事をする雰囲気じゃないようだね。出直してくるよ」
フランクは立ちあがると返事も待たずに扉に向かい、アイリスの前で立ち止まった。
「生徒会役員なら上級生か? 男性のようだが、綺麗だな。兄上は顔で役員を選んでるのか?」
ははは、と笑いながら去っていくのを、アイリスは無言で通した。
ギルモンドが行動するより早く、グイントがいきり立った。
「あれを第2王子として敬えというのか!?俺はごめんだぞ!」
「僕も無理だな。僕のエシェルに目を付けた」
ギルモンドの言葉をグイントは聞いていた。ずっと探していたのは、彼女だった。エシェル嬢は思うところがありそうだが、ギルモンドが引くことはないだろう。
「ねぇ、アイツこそ、顔しかないの?」
アイリスが片手をテーブルにつき、上目遣いにギルモンドとグイントを見る。
「エシェルと同じクラスだよね。バカは強硬手段に出そうで心配だよ」
アイリスはギルモンドを煽るが、ギルモンドよりグイントの方が反応していた。
「絶対にエシェル嬢とアイリスに手を出させないから」
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