ユーラニア伯爵家の秘密の話
アイリスが急いで扉を開けると、マルク、ルミナス、エシェルが立っていた。
「どうぞ、中に入ってください。会長が人払いを済ませているようです」
他の生徒会役員がいないことを伝え、アイリスは家族を部屋の中へと促す。
エシェルとルミナスが大きなソファーに座り、一人掛けのソファーは正面がギルモンドとグイント、横にマルク、反対の横にアイリス。
全員が座ると、ギルモンドが指導権を握るかのように話し出した。
「エシェル、グイントに事情を話してもいいだろうか? たぶん、この中でグイントだけが知らない」
エシェルは頷いて、マルク、ルミナス、アイリスを見た。
「母の葬儀の時に、この3人はお姿を見ています。私も言ってないことがあるので、この機会に話したいと思ってます」
「そうか。ユーラニア伯爵夫人は亡くなっていたのか。
二人とも生きているのを願っていたが、陛下が知れば、悲しまれるだろう」
ギルモンドの言葉に、グイントは驚くばかりで声を抑えるが精一杯だ。
アイリスの妹の母が亡くなっていて、ユーラニア伯爵夫人だと? ユーラニア伯爵夫人はいるのに、どういうことだ?
「王家と教会、ユーラニア伯爵家には深い繋がりがある。それは、王家と教会はユーラニア伯爵家を守る立場なのだ。ユーラニア伯爵家に危害が及ばないよう、普段は極力接点を持たない。そして地方領主の一人という目立たない立場が、ユーラニア伯爵家の希望でもあった」
ギルモンドは、グイント、マルクを見て表情を確認する。二人とも冷静を装っていると感じられるので。ランボルグ侯爵にも話していなかったのか、と確信する。
「ユーラニア伯爵家は、代々見事な銀髪だ。今のユーラニア伯爵は入り婿にあたる。彼にユーラニア伯爵家の血は一滴も流れていない。
血統こそがユーラニア伯爵家が重要である所以なのだ」
アイリスは、ロクサーヌの葬儀で見た聖獣を思い出していた。王太子のいう血統の重要性は、聖獣と関係しているとしか思えない。
「殿下、続きを説明してよろしいでしょうか? 義家族に話していない所を、言いたいのです」
「もちろんだとも。僕も君の話を聞きたい」
ギルモンドの許可を得て、エシェルが話し始めた。
「母のロクサーヌは身体が弱く、領地の澄んだ空気でないと生きていけない体でした。
なので、父は月の半分は王都で仕事をし、半分は領地に来て家族で過ごすという生活でした。
9年前、聖祭の為に母と私は王都に来たのです。
王都の屋敷で優しく出迎えてくれた父に、違和感などありませんでした。
父と母と私の3人での夕食の時に、事件は起こりました。
突然、母が血を吐いたのです。駆け寄ろうとした私も痛みに襲われ、吐血して倒れました。
薄れゆく意識で聞こえて来たのが、父と父の隣に立つ女性の会話でした。
『遅効性の毒とはいえ、時間がかかったわね』
『俺の妻と娘はおまえ達だけだからな。俺は伯爵家の三男だから爵位を手に入れるには、こいつは都合がよかった』
父は、私と母を馬車に乗せ、王都の外れにある森に捨てました。
『王都の外の森に捨てれば、野獣が食い散らして遺体も残らない』
その森で、私を見つけてくれたのがお義兄さまです」
話の途中でギルモンドは立ちあがり、エシェルの前に膝をつく。
「君は一度、死んだのだね? どんなに苦しかったろう」
「死んだ? 仮死じゃなかったの?」
茫然とアイリスが言葉にするが、訳がわからないのはグイントである。 生き返った?
「一度、生き返る加護を与えられた」
エシェルの代わりに、ギルモンドが答える。
「なんだよ、それ! 分かっているなら死なないようにしてくれよ!
見つけた時、エシェルは弱っていて苦しがっていた。
二度目は生き返らない、ってことだろ!?
エシェルの母君の遺体に寄り添って頬ずりしていたんだぞ!
どうして聖獣は助けてくれなかったんだよ、そんなに大事な人間なんだろう」
『聖獣』
アイリスの言葉で、グイントの中で全てが繋がる。
読んでくださり、ありがとうございました。