新入生、集まる
式典後、生徒会室に行く約束を取り付けてギルモンドはエシェルを離した。
涙目のギルモンドに、エシェルがハンカチを渡して笑顔を見せた。
「王太子殿下は婚約者がいらっしゃるのですから、このような事はもうおやめください」
エシェルの意趣返しである。自分を覚えていてくれたのは嬉しいが、他の女性を婚約者にしたギルモンドを許すのも腹が立つ。
「では、殿下ごきげんよう」
アイリスが入学式に向かうために背を向けると、ランボルグ侯爵とルミナス夫人、アイリスが脇を固めて歩く。
ハンカチを握りしめたギルモンドが固まる音が聞こえた。
グイントはギルモンドが探していたのがアイリスの妹だと瞬時に分かったが、理由は分からない。だが、ギルモンドが入れ込んでいるのは理解した。
「ギルモンド、俺達も行くぞ。さっきのは大勢に見られていた、どうするつもりだ?」
馬車寄せに王家の馬車が入って来てた。乗っていたのは第2王子のフランクだ。彼も今年の入学生である、
「兄上、迎えに来てくださったのですか?」
驚きながら馬車から降りて来るフランク王子。
「いや、他の用事があったのだが、丁度よかった。
会場まで案内しよう」
まるで何もなかったかのようにギルモンドが対応するのを見て、いつものギルモンドだと安心するグイントである。
王家の兄弟は無言で会場に向かい、グイントが付き添う。
入学式が始まり、新入生代表でエシェルが壇上に登場するとどよめききが起こる。
馬車寄せでの騒動を知っている者、話に聞いた者、いろいろである。
そんな中でも特に強い視線をエシェルに送っているのが、ギルモンド、アイリス、フランク、そしてエシェル・ユーラニアだ。
そして、壇上のエシェルが見ているのは、エシェル・ユーラニアである。
新入生代表の挨拶が終わると、生徒会長の歓迎の挨拶があり、予定説明と続く。
保護者席にいるランボルグ侯爵夫妻は、ユーラニア伯爵夫妻を見ている。マルクとルミナスにとっても長い9年間であった。
周知されている人物が偽物だと証明するのは、確実な証人や証拠がないと難しい。
それを、これからするのだ。
エシェル本人の証言しかない、ユーラニア伯爵を追い詰めて白状させる予定であったが、先ほどの王太子の様子は、あきらかにエシェルを知っていた。
「私は、早々に陛下に謁見をしようと思う。君も同伴してくれ」
王妃はユーラニア伯爵と繋がりが深いが、王の真意を探ろうと思ったのだ。
マルクの意見にルミナスも同意する。
入学式が終わり、クラスへと移動になる。
そこで帰る保護者が多いが、クラスでは簡単な挨拶と説明だけなので子供を待って一緒に帰る保護者もいる。
昨年のアイリスは保護者の列席はなかったので、生徒会室に挨拶に行った。
今年のエシェルは、生徒会室に呼ばれているので、マルクとルミナスも一緒に行くつもりだ。アイリスも来るだろう。
生徒会室では、すでにギルモンドとグイントが待機していた。
グイントはギルモンドに事情を聞きたかったが、ランボルグ侯爵家が来たら聞くことになるだろうと待っている。
入学式の当日は、在校生は授業がなく休みである。そこに来たのは、アイリスだ。
「妹はクラスでの紹介が終わると、両親と来る事になっています」
アイリスは生徒会役員として1年間王太子と接してきた。
冷静で感情を表すことが少ない人だと思っていた。 それがエシェルを抱きしめて泣いていた。
二人は知り合いだ、エシェルの様子もそうだった。
エシェルとグイント、二人とも聞きたいことがたくさんあるのに、様子を伺うことで止まっている。
コンコン。
生徒会室の扉がノックされる。
エシェルが来たのだ。
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