アイリスの受難
学院の生徒会室には、授業を終えた役員が集まって来る。
「やぁ、今日も早いね」
書類を整理をしているアイリスの後ろに立つのは、グイント・シェイドラ公爵子息、アイリスの一つ上の学年だ。
どうして後ろに立つ?という言葉は何度も繰り返した。それが、改善されたことはない。
耳に息がかかりそうなぐらい近くに、グイントがいる。
「1年生は、先輩方より早く授業が終わるようです」
グイントから身をかわすように、書類を持って歩き出す。
気に入られているのはわかるが、ハッキリ言うと迷惑である。
グイントは王太子の幼馴染であり、側近だ。王太子の婚約者一家にこれからしようとすることを、知られるわけにはいかない。
王太子は婚約者を守ろうとするだろう。
だが王太子から、婚約者の話を聞いたことはない、政略的な婚約で仲が悪いのか?
「アイリスちゃん、剣術大会にエントリーしたって?」
アイリスの後ろを付いて来て、棚に書類を戻すのを手伝い始めるグイント。
「その、ちゃん付け止めてもらえませんか? もう何回も言ってるでしょ」
「エントリーなんて止めた方がいい。ケガするかもしれない。綺麗な顔に傷がついたらどうするんだ」
グイントは、アイリスの苦情は無視して話し出す。アイリスをお姫様のように扱うのだ。
同じ部屋に他の生徒会役員もいるのに、止めようとする者はいない。それどころか、女子生徒達は小さな音まで聞き逃すまいと聞き耳を立て、興味ない振りをしながらこっそり見ている。
なんだこいつら、公爵家の力か、と憤った事もあったが、すでに諦めモードのアイリスだ。
グイントには、上位の貴族に対しても、学院の先輩としての敬語はすでにない。
「どうせ、男にしては小柄だからと思っているのでしょ。返り討ちにしてやりますよ。
僕は強いですから」
「へぇ」
「妹を守るために、強くなる必要があるので。妹はすごい美人なんです」
「アイリスちゃんが、一番美人だよ。けれどアイリスちゃんの妹なら、美人というのも納得だな」
侯爵家という高位貴族であるのに、アイリスは学院に入学するまで秘匿されていた。首位入学するほどの頭脳をもっているなら、なおさら不思議である。
グイントとギルバートは調査結果をみたが、後妻の連れ子という以外に情報がでてこないのだ。
入学してから観察しても、真面目という言葉以外はない。
ランボルグ侯爵も、この数年は清廉で事業も堅実である。以前は付き合いのあった紳士クラブにも出ていないらしい。
まるで、調べられても不穏なことがないように身ぎれいにしているようだ、とギルモンドが言ってたが、グイントも同じ意見だ。
そして、剣術大会の当日になった。アイリスは周りの予想に反して3回戦まで勝ち進んでいた。
だが、3回戦目の対戦相手は優勝候補のグイントである。
アイリスは先手を取って打ち込むと、グイントは難なく避ける。
だが、アイリスは返す動きでさらに打ち込んでいく。
機敏なアイリスの攻撃に、グイントも余裕をなくしていくが、グイントが反撃に動じるとアイリスが僅かに避ける。
細身の身体のアイリスが、グイントを追い込んていく様子に、観客もアイリスの味方になって歓声する。
だが、優勝候補と謂われるだけの実力のあるグイントが、アイリスの動きを読んで打ち込みに来たアイリスの剣を跳ね飛ばした。
カーン!
飛ばされたアイリスの剣が地面に刺さって、試合は終わった。
「ありがとうございます」
試合後の挨拶にアイリスが頭を下げる。
「いい腕だった。 身体のハンデを克服するにはかなりの努力をしたのだろう。
いつか生徒会室で言ったのは、失言だった。悪かった」
グイントが試合後の握手をしながら、謝る。
それはグイントの本心であった。 アイリスが剣を振るう姿を綺麗だと思った。
決勝戦は、予想通りグイントとギルモンド。
白熱の試合で、時間切れで引き分けとなったのは、去年も同じらしい。
アイリスも試合に感動したのだが、その後、練習だといってグイントに付き合わされるようになるとは知らない。
読んでくださり、ありがとうございました。
すみません、編集中に削除してしまい抜け落ちていた部分を追加しました。