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君と誓いの月夜  作者: violet
19/98

エシェル・ユーラニア伯爵令嬢の想い

王妃の茶会は、顔なじみのメンバーが揃っていた。

婦人達だけでなく、令嬢も集まって華やかな茶会になっている。

「エシェル、今日は一段と美しいわね、いいことがあったのかしら?」

娘のいない王妃はエシェルを可愛がっていて、ギルモンドとの仲を取り持つのに積極的である。


コトリ。

エシェルの母親のユーラニア伯爵夫人が、テーブルに小さな小瓶を置く。

「エシェルも、この化粧水で肌を整え始めましたのよ。夜更かしで本を読むものだから、お肌が弱ってましたの」

ユーラニア夫人の美貌は年を重ねても(おとろ)えることなく、夫人達の間では美容法が噂になっている。

「私が調合した化粧水です。合わないといけませんから、最初は手の甲でお試しになってくださいませ」


夫人達が目配せして、王妃に献上する。

王妃は小瓶の(ふた)を開けると、一滴を手の甲に()らした。

強い花の匂いが漂うが、すぐに消える。

「領地の栄養の高い泥土を含んでますので、花の匂いを強くつけてますけれど、すぐに気にならなくなりましたでしょう?」

ユーラニア伯爵夫人ロクサーヌは、花の匂いで誤魔化した成分があると説明する。

それが本当に泥土であるかは、ロクサーヌにしか分からない。


「ありがとう、とても嬉しいわ」

王妃は侍女に小瓶をさげさせると、エシェルを近くの席に呼ぶ。

「最近は学院から帰るのが遅いの。もう少し待てるかしら?」

「はい」

エシェルは王妃に満面の笑みで答える。


お茶会が終わる頃になっても、ギルモンドは帰って来なかった。

「帰りは遅らせるから、エシェルは預かるわ」

王妃は公務に戻るのも、エシェルを連れて行く。エシェルはまだ14歳だが、少しづつ王妃の仕事に慣れさせようとしているのだ。


王妃の横で書類整理をしながら、エシェルは王妃に話しかける。

庭で咲いた花の事、メイドが失敗した話、新しいドレスの色、それは王妃を喜ばせ、王と王子達が渋っているのも分かっていながら、エシェルを可愛がるのであった。


「母上、お呼びと聞きましたが」

侍従に案内されて入って来たのは、ギルモンド王太子だ。

ギルモンドは部屋にエシェルがいるのを見たが、驚いた様子も見せずに取り繕うのは慣れたものである。


「待っていたのよ。

エシェルに手伝ってもらったお礼に、夕食に招待したの。食堂までエスコートしてちょうだい」

婚約者でしょう、と念を押しながら王妃がギルモンドに強要する。


「わかりました」

ギルモンドは腕を差し出すと、エシェルが手を回す。

それだけでなく、胸を押し当て接触を多くする。瞳を(うる)ませてギルモンドを見上げるように見つめるが、ギルモンドの視線がエシェルにくることはない。


「食事の後は、殿下とお話がしたいです」

声をかければ、ギルモンドもエシェルを見ないわけにはいけない。

ギルモンドとエシェルの視線が交わった瞬間、ギルモンドの目の奥が痛いような感覚に見舞われたが、()びたような臭いがして、視線を外す。


食堂の席にエシェルを案内すると、ギルモンドは自席に着席しなかった。

「申し訳ないが、生徒会の仕事が残っていて、処理をするために食事も部屋でしなければならない。

母上と食事を楽しんでくれたまえ」

エシェルが手を延ばそうとしたのを振り切って、ギルモンドは食堂から出て行く。


途中で、弟のフランクとすれ違う。

「食堂に、あの女がいる」

ギルモンドの言葉に、フランクも気がついた。

フランクも聖祭の秘儀に出席していたのだ。

あの見事な銀髪のユーラニア伯爵夫人と令嬢が、いつの間にかブルーネットの他人になっていた。

しかも、それが兄の王太子の婚約者になっていて、兄はその婚約者を嫌っている。

幼い頃は訳が分からなかったが、今では父と兄の行動はわかる。

銀髪の夫人と令嬢に何かがあって、他人が成り代わっている。


聖獣がついているのだ、二人は生きている可能性が大きい。

だが、ユーラニア伯爵を刺激して二人に危険を及ぼすわけにいかないから、今は沈黙しているのだ。

兄が休みの(たび)に、近隣地方に出かけているのを知っている。

きっと、二人の手がかりを探しているのだ。

「僕も、部屋で食事をすることにするよ」

フランクも食堂に向かわずに、引き返した。

幼いあの日、聖獣の姿に感動した。同い年の令嬢に目を奪われた、美しくって、(まぶ)しくって。

聖獣と共にいる姿は神々しかった。忘れえぬ光景。

令嬢に誓いをたてる兄に嫉妬(しっと)した。



一人食堂に残されたエシェルは怒りに燃えていた。

どういうこと、私の目を見たはずなのに、どうして離れて行くの。

今回は最大の捧げものをしたと、お母様が言っていたわ。

眼の奥が熱くって、エシェルは手で目を覆う。

力が渦巻いているのがわかる。

ギルモンド王太子が欲しい。

次は、もっと接触部分を多くして、力を伝えるのよ。

私を見て。

私を見てくれるなら、なんだってするわ。


お読みくださり、ありがとうございました。

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