生徒会長ギルモンドと副会長グイント
アイリスは入学前試験が主席だったので、入学式では新入生代表として挨拶をすることになった。
壇上には生徒会長のギルモンド王太子と副会長のグイント・シェイドラ公爵子息が控えており、アイリスの挨拶の後に、生徒会代表の挨拶をすることになっている。
二人の前を通る時、アイリスは軽く礼をしたが、それだけだった。
アイリスは王太子に並々ならぬ関心があるが、親交を持とうとは思っていない。
アイリスにとって、エシェルを殺しかけ名前を盗ったユーラニア伯爵の娘を婚約者としている王太子だ。
敵の一人の認識である。
アイリスはエシェルと共に、貪欲に知識を吸収した。
ユーラニア伯爵を引き摺り落とすという目的があるから、子供であっても深い知識を求めた。
アイリスはエシェルを守れるよう剣の訓練もしたが、身体の細いアイリスには不向きだった。その代わり、スピード重視で短剣の技術を極めた。
アイリスは男性にしては細い身体と美しい顔で、エシェルと一緒にいると姉妹に間違われる事も少なくない。
だから、ギルモンドとグイントがアイリスの視線に機敏であった。
あれが男か、どうせそんなことを思っているのだろう、とアイリスは歯牙にもかけない。
「・・・・・以上をもちまして、入学の挨拶とさせていただきます。
新入生代表、アイリス・ランボルグ」
新入生代表と生徒会長が挨拶の交代のために、壇上でアイリスとギルモンド、グイントがすれ違う。
グイントがアイリスを目で追うのに対して、アイリスは礼をするものの、振り返ることもなく去って行く。
「おもしろいな」
ギルモンドがグイントに言えば、グイントも頷く。
生徒会長挨拶のため、スピーチ台の前に立つ。
王太子教育の一環である張りのある発声で、他者を自分の話に引き込むように話し出す。
うまいな。
それが、アイリスがギルモンドにいだいた第一印象である。とても16歳とは思えぬ話術、と先見のある内容。
ギルモンドもグレンも、アイリスとは対照的に男らしい体格で、剣術もかなりの技術があるのであろう。
入学式の後は、各教室でオリエンテーリングの初日が終わった。
「ランボルグ君」
教師が呼び止めるから、何事かと思えば、生徒会室に来るように、との伝言だった。
主席入学だと聞いた時から、生徒会に入ることになるとは覚悟していたが、王太子の姿を思い出して、簡単にできる相手ではないと思う。
「はい、わかりました。これから向かいます」
廊下を生徒室に向かうと、様々な視線を感じる。
ランボルグ領で過ごしていたが、マルクに連れられて王都や他領も訪問した。それは情報収集を兼ねた査察ともいえるものだった。
そこでも、同じような視線を感じることもあった。
生徒会室は、学舎の最上階にあり中庭を見渡せる場所にある。
扉の前に立つと、アイリスはノックをした。
返事もなく扉が開かれると、そこにはすでに会長と副会長がいた。
「お呼びとのことで、アイリス・ランボルグ参りました」
アイリスは一歩部屋に入り、ギルモンドに礼をする。
「ああ、堅苦しいのはいいから。中に入ってくれ。
僕は、ギルモンド・ブルーゲルス。王族は在学中は生徒会長をすることになっているんだ。
来年の卒業まで、僕が生徒会長になる。
そして、各学年の成績上位者は生徒会に属することになるが、拒否もできる」
会長の机に肘をつき手に顎を乗せて、ギルモンドが鑑定するようにアイリスから視線を動かさない。
ギルモンドの後ろには、仁王立ちのグイントがいる。
「それで、僕はお眼鏡にかないましたでしょうか?」
アイリスはギルモンドの前に立ち、後ろ手に組むと笑みを浮かべる。
それは美しい顔に似つかわしくない、悪意を秘めた笑みだ。
ギルモンドも気づいたらしく、生意気なアイリスを処そうと動こうとしたグイントを片手で制す。
「疑ってしまう性分なんだ、すまなかった」
アイリスはギルモンドが謝ったことに驚き、生徒会役員を受ける事にした。
王太子の婚約者を探る為にも、生徒会役員はアイリスには都合のいいポジションでもある。
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