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君と誓いの月夜  作者: violet
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新しい生活の始まり

明るい日差しの下で、たくさんの人に混じりエシェルは、結婚式に参列していた。

横にはアイリスがいる。


それは再婚同士で簡素だとはいえ、貴族の儀式に(のっと)った正式な結婚式であった。

マルク・ランボルグとルミナス・マサラッティの結婚式だ。


ルミナスは王都近くに小さな領地があるマサラッティ伯爵家の娘だが、領地の収入は少なく貿易業で成り立っていた。北部との取引きの関係で、ルミナスは北部の伯爵家の次男に嫁いだのだ。

夫は兄の補助をし、領地の管理を手伝っていた。

アイリスが生まれて3年が経った冬、夫は吹雪で視界が悪い中、崖から落ちて亡くなってしまった。

悲しみがおさまらないうちに、夫の兄である義兄がルミナスに愛人になるよう(せま)ってきたのだ。

ルミナスはアイリスを連れて婚家から逃げ出し、実家の領地の片隅にある小さな館に住んで貿易の仕事を手伝うようになった。それが、エシェルが助けられた館である。


マルクは10年連れ添った妻を病で亡くしたが、二人の間に子供はなく、領地に管理人をおき王都で暮らしていた。侯爵ということで後妻の話も多かったが、再婚することはなかった。

そんな時に、取引先として仕事を手伝うルミナスに出会ったのだ。

美しいルミナスにマルクが一目惚れして、すぐに婚姻を申し込んだが断られてしまった。

だが、マルクは王都からマサラッティ伯爵家に通い、ルミナスにアプローチを続けていた。ルミナスも最初は断ったものの、アイリスがマルクに(なつ)いたこともあり、最近はマルクとデートをしたりしていた。



王都ではなく、ランボルグ侯爵領で結婚式が()り行われたのは、エシェルをユーラニア伯爵から隠す意味でもあった。

銀髪がいないわけではないが、エシェルの見事な銀髪は目立つ。王都近くにいれば噂になるかもしれない。

王都にいるより、ルミナスがランボルグ侯爵家に馴染みやすくなると考えたこともある。

マルクは人任せにしていた領地の管理を自分でする事にしたのだ。

王都から離れるが、ユーラニア伯爵家のことは調べて、情報収集を続けるつもりでいる。



マルクは領地管理に力を入れ、貿易の知識があるルミナスがそれを手伝うということで、想像していたよりも順調な生活が始まった。

広大な侯爵領なので、未開の地も多い。開拓の為の機材の購入にルミナスが活躍した。それは、ルミナスの自信になり、侯爵夫人としての地位を固める事になった。

アイリスとエシェルには家庭教師がつき、15歳で入学する貴族学院にむけての勉強が始まった。

それと同時に、アイリスには武術、エシェルにはマナーの講師もついた。



マルクは王都から届いた報告書を読んでいた。


『ユーラニア伯爵領での大規模な水害の為に、ユーラニア伯爵は王都に夫人と娘を残して領地に向かった。

温暖で王国でも指折りの豊かな地域、と有名なユーラニア伯爵領で過去にみない規模の大規模災害が起きたもようである』


エシェルの話と、ロクサーヌの横にたたずんでいた聖獣の姿を思い出して、マルクは仮説を立てていた。

ユーラニア伯爵家のことは、調べられる限り調べ尽くした。

王家と同じく、愛人と子供をユーラニア伯爵邸に連れ込み、妻と娘と名乗らせたのは簡単に結論が出たが、証拠がなかった。愛人が妻とは別人というべき、妻の姿を誰も知らないのだ。

マルク自身でさえ、夜会でユーラニア伯爵から妻と紹介された女性が愛人などと思いもしてなかった。妻は別人というのは、6歳のエシェルしか証人がいない。


元々は湿地帯が広がる地域であったが、ユーラニア伯爵領となって気候が落ち着き、適量の降雨になると湿地帯の堆肥が農作物を育て、大穀倉地帯となった。


だが、ユーラニア伯爵領を守っていた聖獣が、離れたのだ。


エシェルは聖獣については、何も言わなかった。

あれは、聖獣自身の意思表示だ。エシェルの言葉が正しいと証明し、エシェルを守れと伝えるためと、ロクサーヌの死を悲しんで姿を見せたのだ。

ユーラニア伯爵家の秘密であったなら、入り婿の現伯爵は知らないのかもしれない。

もし、知っていたら、ロクサーヌ夫人を殺さず、監禁したに違いない。

これから、ユーラニア伯爵家には恩恵がない。


すぐにはエシェルには教えるべきでない、と報告書を閉じた。

まだ6歳、母の死のショックから立ち直るのは遠い先だろうし、知識もない。

しばらくは安心した生活をさせてやりたい、とマルクは思うのだった。


「マルク様、お食事の準備ができてますわ」

ノックをして、ルミナスが執務室に入って来た。

「子供達を待たせてすまないね。すぐに行くよ」

マルクがルミナスの肩を抱くと、ルミナスから笑みがこぼれる。

新しい家族は、お互いに歩み寄り始めたばかりだ。


読んでくださり、ありがとうございました。

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