私の不思議体験談
誰しも不思議な体験ってありませんか?
私の不思議体験の話です。
座敷わらしの宿は、全国的に有名な旅館ではないでしょうか。残念ながら私自身そちらの宿に宿泊した経験はありませんが、幸運が訪れるならあやかりたいものです。
世の中には、不思議なことが溢れているものですが、今回書き込んだのは、高校生の夏休み中に私が体験した不思議な出来事。今から30年以上前の実母の誕生日の日にあった出来事で、今でも鮮明に覚えています。(実母の誕生日の出来事の為、家族でこの話をしたのは妻だけです)
当時の家族構成は両親、私、弟の4人家族。ごく一般的な昭和生まれの世帯。両親は夏休み期間を毎年2週間前後とり、あちこちに家族で旅行をするのが好きだった。しかし私はその年は一人で留守番をすることにした。旅行に行かなかった理由はものすごく単純で、当時付き合っていた彼女と遊びたかったってだけ。
暑かったあの日も彼女と遊んだ後、一人実家のリビングでダラダラと過ごしていた。何となくテレビを点けっぱなしにし、本を読んだりお菓子を食べたりって感じで、今思うとだらしなかったです。
一人でいるとダラけてしまうもので、今日は何だか面倒臭いなぁという気分と両親もいない事もあって、リビングのソファでこのまま寝てしまおうと、タオルケットを腹にかけてそのまま寝てしまった。しかもテレビも照明も消さずに。
――ピンポーン。ピンポーン。
深夜1時にあと数分というタイミングでインターホンの呼び出し音で起こされた。
しかし出るのが面倒臭い……。
玄関の照明も点けっぱなしだったので、普通に考えてみると、居留守をしても意味がないのだが、寝惚けているとどうでも良くなってしまうもので、私は無視してそのまま再び目を瞑り、タオルケットを頭までかぶり直してから寝てしまうことにした。
――ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
しかしインターホンの呼び出し音がしつこい……。
観念した私はインターホンの受話器をとり、外に向かって応答した。
「はい。どちら様?」
「…………」
「どちら様ですかー?」
「…………」
いくら待っても返事がこない。外に出る気は毛頭なかったので放置することにした。
深夜に起こされた上、イタズラかと若干のイラつきとともにテレビを消し、再びソファに座り目を閉じる。目を閉じてから体感で20分ほどの時間が経過した後、ピンポーン、ピンポーンと再び鳴り響くインターホンの呼び出し音。
深夜のイタズラにしては正直質が悪い。
少し頭にきていた私は、直接文句を言ってやろうと、インターホンの受話器を取らずに玄関に向かった。そして防犯対策に玄関の土間に置いてあったゴルフクラブを握りしめ、外に出た。
玄関ドアを開ける直前まで、ピンポーンという電子音が聞こえていたものだから、塀にあるインターホンの直ぐ側の門扉前に訪問者はいると思っていた。しかし誰の姿も見えない。私は家の前の道路まで出て、左右を確認したがやはり誰もいない。
実家の前は左右に続く一本の道路しかなく、見通しが良いのだが、人っ子一人いやしない。しかも隣の家も比較的塀が高いので、一瞬で飛び越えるなども現実的ではない。何より深夜で静かなものだから、行動を起こせば何かしらの音が聞こえても可笑しくない。それなのに誰の姿も見えない。若干の気持ち悪さに、しばらく立ち尽くしてしまった。
しかし、いつまでも待っていたからといって誰かが出てくるわけではないので、家の中に戻ることにした。ただ、モヤモヤとした気持ち悪さが続き、玄関の鍵をかけた後、各部屋の戸締まりを確認した。
何となくでも安心感が欲しかったのだ。
全ての戸締まりを確認した私は再びリビングに戻った。すっかり目が冴えてしまったから。そして何となくの予感。インターホンはまた鳴る気がする。何故か確信に近い感覚があった。気持ち悪さと怖さが混ざったような、そんな不思議な心境のなか、その時を待ち続けた。
時刻は深夜2時になるのに5分を切った頃、再びインターホンの呼び出し音が鳴った。
――ピンポーン。ピンポーン。
私は今度は放置することにした。どういった行動を起こすのか興味があったのと、応答すると逃げられるという不思議な勘みたいなものが働いたからだ。
照明の点いたリビングでソファに座る私。
――ピンポーン。ピンポーン。
しつこく鳴るインターホンの呼び出し音。
時計を見ると深夜2時をまわった。
インターホンの呼び出し音が止まった。
そして玄関ドアをガチャガチャと動かす音が聞こえ始めた。最初に脳裏に過ったのは泥棒の文字。しかし、わざわざインターホンをしつこく押し続けるだろうか? だんだんと怖気が走り始める。夏場にも関わらず、ゾワゾワと鳥肌が立つ。その日は暑い夏日だったのに。
インターホンの受話器を取り、声を張り上げた。
「おい。誰だ!! 警察を呼ぶぞ!!」
しかし警告はまるで意味がなかった……。
ガチャガチャと玄関ドアを動かす音は止まらない。そして鍵が開くカチャンという音が響いたのだ。
次に聞こえた音は玄関ドアの閉まるバタンという音。
当時、生意気盛りの私とはいえ、何で鍵が開くんだと大いに取り乱した。焦り、慌てて固定電話の元まで走り、受話器を取った。
ぶるぶると手が震える。
侵入者はタッタッタッと軽快な足音とともに2階へとつづく階段を駆け上がった。
家に人がいると分かっていて、堂々と玄関から侵入するのだから、かなり頭のおかしい人物に違いないと恐怖した。そして、たった3回ボタンを順番に押すだけなのに何度も失敗する自分に苛立ちと焦りが募る。
それだけ取り乱していたのだ。
受話器の向こうから何度も聞こえるポペーとかペポーとかいう1と2のボタンを同時に押してしまった時の間抜けな音が神経を逆撫でする。
何度も繰り返した。
そして、ふと視線を感じる。
振り向くと少年とも少女とも言えるような不思議な雰囲気の子供がいた。
電話の受話器を床に落したガチャンと響く音。
その子供は太めのボーダー柄のシャツを身に着け、半ズボンを穿いていた。色は白黒。子供の肌の色も白い。
子供が口を動かし、手招きをする。
しかし絶句している私は身動きが出来なかった。
何故ならその子供の顔にはマーブル模様のような渦が蠢いていたからだ。顔のパーツでハッキリ分かるのは口元だけ。子供は私に向かって2歩近づき何か伝えようと口を動かした。
私は目を見開き、口の動きを確認することしか出来なかった。
『きょうはいえにいること。よいことがある』
子供の口の動きはこう言っていた。
「今日は家にいること。良いことがある?」
子供の声は聞こえなく、私が子供の言葉を声に出すまで、何度も同じ口の動きで言葉を繰り返していた。
私が「今日は家にいることにするよ」と告げると、子供の口の動きは止まり口角を上げた。そして顔にあるマーブル模様の渦が少しずつ広がり子供は消えた。
私はあまりの出来事に気を失った。
日中になり電話の呼び出し音で目が覚めた。実母からの電話だった。電話の内容はサマージャンボの抽選結果が知りたいと言うものだった。抽選結果を教えた後、私はこう言った。
「誕生日おめでとう。宝くじも当たったんでしょ? それもおめでとう」
「あら、良くわかったわね。どっちもありがと」
実母のその言葉で、深夜に訪れた子供はイタズラ好きの座敷わらしだったんだと何となく思った。宝くじは一等とかの高額当選ではなかったみたいだが、あの時の嬉しそうな実母の声は今でも忘れない。
しかし、何で私に座敷わらしは伝えに来たのかは今でも謎だ。あれ以来一度も見てないし。そして玄関の鍵は閉まっていた。座敷わらしは電話の受話器を戻し、戸締まりをしたらしい。夢でなければとても親切だ。もしかしたら夢だったのかもしれないが、もし夢ならばこんなにも鮮明に夢の内容を覚えているのは、やはり不思議だ。
拙い文章を最後までお付き合いありがとうございました。