二章
時々考える。
もしも、俺の心臓が悪くならずに··········福子とずっと一緒に過ごすことができていたら··········どんな「未来」になっていたのだろうか?
彼女の「笑顔」が今よりもたくさんみれていたかもしれない。
楽しい思い出がもっとつくれていたかもしれない。
お互いの「気持ち」が通じ合っている仲になっていたかもしれない。
きっと··············そんな幸せな世界があったのだ。
「さ~ち~む~らっ!」
聞きなれた声が脳内に響いてくる。
「いつまで寝てるのさ!
今日は僕とのデートの日でしょ!」
眠っていた意識を覚醒させ、俺はまぶたを上にあげた。
「······お······はよう·······福子········」
「起こしに来て正解だったね!
待ち合わせにしてたら寝坊して大遅刻だよ?」
「···········悪い。
楽しみで眠れなかったんだ」
「もう·······そんなこと言って·····許さないからね?」
「その服いいな」
「ふぇっ!?」
「スゲェ可愛い」
「·····あ····え·······うぅ········」
「フフ~ン♪フフ~ン♪」
「随分とご機嫌だな」
「だってだって!楽しいんだもん!」
あの後、俺は福子に連れ回されていた。
バッティングセンター、スポーツ用品店、ゲームセンター、ショッピングモールなど········とにかくたくさん············いろんなところに連れ回されていた。
元気一杯な彼女についていくのが大変だったが···········少しも苦には感じなかった。
むしろ楽しい。
こいつが笑顔をみせるたびに············こっちまで元気になってくるような気がした。
「僕さ·····昨日、夢をみたんだよね」
「夢?」
「うん。すごく悲しい夢」
切なそうな表情になりながら··········彼女は言葉を紡いだ。
「幸村が悪い病気にかかっちゃって········ずっとずっと············入院してる夢」
「················」
「怖かった。
たとえ夢だとわかっていても········このまま·······幸村が············僕の前から消えちゃうんじゃないかって···········」
「·················」
「目が覚めて本当にほっとしたんだ。
夢でよかったって·······現実じゃなくてよかったって··········」
「·················」
俺は福子を·······おもいきり自分の方へと抱き寄せた。
突然のことに驚き、彼女は頬を赤く染めてしまう。
だがそんなことなど気にもせず··········目の前の綺麗な瞳だけをみつめながら·······俺は言った。
「ここにいるから」
「·················」
「俺はどこにもいかない」
「·················」
「お前を一人にさせるつもりはないからな」
「·····っ!····うん·····うんっ!!」
まるで子供みたいに、彼女は陽だまりのような笑顔を浮かべるのだった。
誰かに手を握られている。
優しく包み込まれていて、とてもあたたかい感触。
眠気に沈んでいた意識を浮上させる。
目を開けるとそこには··········。
「おはよう幸村」
穏やかに微笑み、こちらをじっとみつめている福子がいた。
「福子··········おはよう」
「すごい気持ち良さそうに寝てたね!」
「·················」
「寝顔が可愛かったから····僕、つい手を握っちゃったよ·········えへへへ」
「·················」
「幸村?」
「夢をみてた」
「······夢?」
「あんまりよく覚えてねぇんだけど········なんか······泣きたくなるような夢だった気がする」
”ギュッ”
俺の手を握る彼女の力が強くなった。
「福子?」
「そんな寂しそうな顔しないでよ」
「·················」
「こっちまで悲しくなるじゃんか」
「············ごめん」
「絶対に·········絶対に·········良くなるから········」
「·················」
「僕が傍にいる」
励ますように·········安心させるように········福子は、どこかでみたような陽だまりの笑顔を浮かべた。
その笑顔はとても綺麗なもので··········しばらく目線を外すことができなかった。
(可愛いなぁ)
ベッドの上で横たわっている彼の寝顔をみて·········僕はそう思った。
普段の格好良い幸村と違って、寝ている時は昔から可愛いのだ。
「幸村··········」
また彼に会いたくなって···········病室に来てしまった。
気待ちよさそうに寝ていて·········今日は話せなくて残念だと思ったけど···········これはこれでいいかもしれない。
「·················」
幸村の寝顔をみつめるのは好きだ。
好きだ············好きだ··········好きなんだけど·············時々、怖くなる。
このままずっと、目を開けてくれなかったらどうしよう。
あの声がもう聞けなくなるなんて嫌だ。
あの凛々しい笑顔がもうみれなくなるなんて嫌だ。
僕のことを呼んでくれなくなるなんて········そんなの堪えられない。
胸の内に秘めていた想いが溢れ出る。
気がついたら僕は·············彼の手を握りしめていた。
両手でしっかりと············優しく包み込むように·············。
幸村がどこにもいかないように。
「信じてるからね」
また二人で···········いつも一緒にいられる日々が戻ってくる。
·············いつか··········きっと·············。




