第一章7 『騎士団長』
ギルに案内され、訓練所の待合室に案内される。
騎士団長を呼んでくるといい、ギルは部屋を出ていった。
ケイもギルにはずっと緊張していたみたいだった。
「どうした?ケイはギルのことにがてなのか」
ケイは少し返答に困ったような顔をして
答える。
「あの人はきっと、醜いところがないんだろうなって思うと
少し自分のことと比較してしまって・・・」
俺がギルに対して嫌いだと思うところも同じようなものだ。
少しもマイナスなところがないやつは
卑屈な考えを持ってしまう俺らからしたら、眩しすぎるのだろう。
少しの嫉妬心を持つことさえ、自分を醜く感じてしまう。
「そっか。」
とだけ答えた。
変にそこをほじると、俺も精神的にダメージを喰らってしまう。
ノックの音が聞こえる。
ギルと団長が部屋に入ってくる。
団長の見た目は黒髪短髪の強面のおっさんだ。
ガタイも良く絶対に喧嘩とか売られないだろう見た目をしている。
何より怖いのは目だ。
絶対に目を逸らさない。普通目と目があった時とか
沈黙が続いた時とか目が少しブレたりするもんだろうが
一切ブレない、見たいところを惜しみもなく見る。
「こちらの方が転移者のケイ殿です。」
ギルは団長に向かい説明する。
「団長のガノフだ。これからよろしく頼む。」
声も渋い。
「ああ、よろしくな。」
俺がそう言うと、ガノフはまっすぐこっちを見る。
怖い。
俺は誰に対しても敬語を使わないようにしている。
案内人として、この人を殺し切る能力があることによって
誰かに弱みを見せるわけにはいかないからだ。
でも、今すぐ謝ってひれ伏したい欲に駆られている。
がこちらも目を逸らさない。
「ふ、若いな。」
そう言って、団長はギルにお茶を持ってくるように目配せをする。
俺は呼吸をしていなかったことを思い出す。
息を乱すと負けた気がするので、ゆっくり呼吸を戻す。
「お前、入団試験にいたな?案内人」
団長はケイよりも俺に興味があるようだ。
魔獣と転移者の話をしたかったのだが・・・
「ああ、そこのギルに無様に殺されあっさり落ちたけどな」
ケイはそれを聞き驚いた顔をする。
無理はない。ケイがいた世界では人が死ねば生き返らないのだから
一回聞いただけでは特に理解し難いだろう。
「そうだったな。ギルとお前をマッチさせたのは俺だ」
団長は続ける
「お前と他のやつ戦わせて、本当の死人を出すわけにはいかなかったからだ。
ギルはその時の入団志望者の中で頭ひとつ飛び出てたから死なないと判断した。」
「人が悪いぜ。」
そう言って、苦笑いを浮かべようとした時
「だが、お前ならいい勝負をするんじゃないかと思ったがな」
予想外の言葉で、俺は唖然に取られる。
ギルはさして驚きもしない。
知っていたと言わんばかりの顔だ。
「お前、殺すことにビビったな?」
ガノフは凄む、迫力がありやはり少し恐怖を覚える
「剣もロクに逃げれない俺とギルがいい勝負するわけがないだろう」
ガノフは鼻で笑う。
「戦闘において必要なものは、剣の技術だけではないだろう。
お前が一番わかっているはずだぞ。そうじゃなかったら最終選別まで
残れるわけがない。」
ガノフはお茶を啜る。
「運が良かっただけさ。」