第一章9 『案内人の理由』
ガノフの質問の意図は分かっている。
俺がケイを殺せば、すぐに解決するからだ。
魔獣は転移者のトラウマや恐怖心から生まれている
だから、その魔獣が生まれた原因を消してしまえば
魔獣自身が消えてしまうと言うわけだ。
そして、この世界で人を殺し切ることができるのは
俺だけだ。それが案内人の使命だからだ。
「その時がきたら、殺すが無駄な殺生はしたくないんでね。」
そう言って俺は部屋から出た。
部屋を出るとギルがいた。
ギルに目を向けると、少し悲しげに俺のことを見た後言う
「あの二人なら先に、人力車に言ってもらってるから
今の会話は聞かれていないよ。」
俺のちょっとした不安まで見抜き、気を遣ってくる
この見透かした態度も俺は気に入らない。
でも人の好意を無下にできるほど俺の芯も強くない
「ああ、ありがとう。」
それだけ言い、俺も人力車に向かう
「なんの話だったの?」
エレナは俺に尋ねる。
ケイの手前言いにくい。
案内人がどう言うもので、転移者が死ねば魔獣が消えるといった
話を今すれば、きっと俺に不信感を抱くだろう。
それを話すにはまだ、信頼関係を抱けてない。
「ちょっとな。」
そう言った時、エレナは察したのかそれ以上何も言わなかった。
人力車に乗り、運び屋の店に帰っている時
ケイは質問する。
「どうして、エレナさんが人力車を引いてるんですか?」
単純な疑問を投げてきた。
「ああ、馬を買うお金がないのとラグナは力も体力もないから私が引くしかないの」
まあ、転移者が現れた今なら馬は無料で手に入るんだが
意思疎通がしやすく、馬より賢いエレナの方が何かと使い勝手はいいのだ
それを聞いたときケイはさらに疑問を投げた
「この世界では、男より女の子の方が力が強かっったりするんですか?」
俺の力の無さが、この世界を勘違いさせてしまった。
案内人失格かもしれない。
「いや、エレナは”身体強化”と言うスキルがあるから特別強いんだ。」
エレナはドヤ顔をしていた。
ちょっとムカついたが、ここからエレナに手が届かない。
「スキルってこの世界の人みんな持ってるんです?」
次から次へと、疑問が止まらない。
まあ来たばかりだし仕方ない
「いや、スキルがないものもいる。」
「じゃあ、ラグナさんはスキルを持っているんですか?」
・・・ここは正直に言わない方がいいだろう
「いや、ないよ。あと俺らに敬語は使わなくていい。」
エレナもうなずく
「え、いいんですか?あ、分かった。」
この時の答えが、後々面倒くさいことになることは
俺には分かっていなかった。




