親の愛
桜は、自分の家に帰って来ていた。
お母さんが、ご飯を作っているのが見える。
「お母さん...!!!」
桜はお母さんのもとに飛んでいった。
背中から抱きつこうとした。
でも、つかめない。
なんども何度も、試してみたが、触れられもせず、お母さんの体を通り抜けるだけだった。
しかし、お母さんは、異変に気付いた。
なんとなく、桜の声が聞こえた気がしたのだ。
「桜?帰って来たの??」
玄関に向かって話しかける。
しかし、シーンとしている。
「気のせいかしら...」
お母さんは、なんだか胸騒ぎがした。
"虫の知らせ"というものだ。
料理をしている時に、背中に冷やっとした感覚があった。
「.....」
お母さんの手がとまった。
「お母さん、ごめんね。私...」
桜は、お母さんに何も言えないまま、死んでしまったことに、涙が流れてきた。
「私、お母さんに何も感謝の言葉を伝えてない!!」
思い出すのは、お母さんが桜のためにご飯を作ってくれたことや、赤ちゃんの時に可愛がって育ててくれたこと、悩んでいる時はそっとホットミルクを持ってきて寄り添うように話を聞いてくれたこと...
沢山、お母さんの愛が思い出されては涙がボロボロと出てきた。
桜は、自分が恩知らずだったことをただただ悔やんだ。
その後、ほどなくして家の電話が鳴った。
「はい、川島です。」
お母さんは、電話の相手が話していることをじっと聞いていた。
「まさか、桜が...」
お母さんは、その場に泣き崩れてしまった。
嗚咽して泣いていた。
桜は、その姿が目に焼き付いて、胸がえぐれるようだった。
お母さんは、電話が終わった後もしばらく放心状態で何も出来なかった。
お父さんが帰ってきた。
「おーい、帰ったぞー」
お母さんのもとに駆け寄って、事情を聞いた途端、お父さんもお母さんと一緒に泣いた。
声を押し殺すように、泣いていた。
桜もボロボロ泣いた。
お父さんは、いつも無口で、桜の成長をただ見守っていた。一生懸命働いているのも、ぜんぶ家族のためだった。
でも、家の中では一切、愚痴はこぼさない、
偉そうに威張ったりもしなかった。
ただ、黙々と家族のために働き、家族を養える力がついていくのを密かに楽しんでいるお父さんのことをとても尊敬していた。




