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  作者: KASA
2/10

肉体の死

桜は、自分の肉体が道路に倒れているのを見た。


「私、死んだの...?」


死んだらどうなるんだろうと疑問に思っていた事があったが、まさに今、死んでいる。


いや、肉体が死んでいるだけであり、

何事かを考えている自分がある。

物事を眺めている自分がある。


死んだのだけど、桜という意識は存在している。


肉体の死を迎えただけで、魂は、死なない。


顔が青ざめた状態のトラックの運転手と、

事故を目撃した人たちが上から見える。


誰かが救急車を呼んでくれたみたいで、

遠くからサイレン音が聞こえてくる。


パトカーもやってきた。


桜には、色んな人の心の声が聞こえてきた。


「俺は、なんてことをしてしまったんだ...。

この子の家族にも、俺の家族にも、顔向けできない。人生、終わりだ...。」

トラックの運転手は、罪悪感と絶望に打ちひしがれていた。まだ20代半ばといったところだろう、髪の毛は金髪でピアスもつけている若い男性だった。


警察官は、トラックの運転手に淡々と事情聴取をしている。

「この男、居眠り運転だったのか?

女の子も、不運だったな。家族も気の毒だな。」

こういう事故は沢山経験しているためか、何万件もある事故の内の一件、ということで、この警察官もあまり同情しないようにしているらしい。

仕事柄、仕方のないことかもしれないが、桜は少し寂しかった。

この警察官は、背が高く、歳は40代後半くらい、顔は落ち窪んだ頬に、目が鋭かった。毎日様々な事件や事故を取り扱っているのだろう。


気づけば、事故の現場を見に、人だかりが出来ていた。


「可哀想に。まだ若い学生さんぢゃない。

ご家族も気の毒だわ。」

おばちゃんが、同情していた。


「え、やばくない?うちの学校の制服なんだけど。誰?誰?」

同じ学校の女子学生は、ひどく動揺していた。

携帯で友達に連絡をして、事故の話をしていた。


桜は、色んな人の気持ちが聞こえて、複雑だった。

「肉体を抜けると、人の心の声が聞こえるようになるのね。色んな人の気持ちが聞こえると、聞きたくないことも聞こえてしまうような気がする。なんだか、複雑だわ。」


空を見上げると、太陽が眩しい。

雲が太陽に照らされて、金色に光っている。


「私、死んだのに、どうしてこんなに冷静でいられるのかな。私の家族に会いに行かなきゃ。」

桜は、家族の顔を思い浮かべた。

と同時に、自分の家に帰ってきていた。

瞬間移動でもしたかのようだ。

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