図書室 後編
ところで松田くんが図書室にいるっていうのは確かなんだろうか。
松田くんは、あの大人しさと妙に品のある感じから読書好きな人間に見えがちだが、国語は苦手だし字も汚い。
疑問に思いながらも、気付いたら僕は図書室の前に立っていて、片思いの行動力に感動した。
中には椅子に座って、何かを真剣に読んでいる松田くんがいた。授業中にしかかけないメガネをしている松田くんがどちゃくそに格好良くて、わざわざ図書室に来た元を取れた気がする。
心臓が口から出そうなくらい緊張してるのに、なんてことないフリをして、前髪を整えてから声をかける。
「松田くん、何してるの?」
松田くんは顔を上げて、僕の顔を見ると一瞬驚いたような顔をして眼鏡を外した。
『なんでいるの?』
質問が質問で返ってきたことに驚いた。松田くんが私に疑問形で問いかけるなんて珍しい。
場所を教えて貰ったなんて言ったら松田くんは嫌がるだろうから、僕はたまたまを装うことにした。
「小説借りにきたの、松田くんは?」
幸い僕は本当に小説を読む人で、昼休みでは無いけれど図書室にもよく来る方だった。
『クラスうるさいから』
と、英単語本を読むのを再開しだした。やっぱり読書じゃなかったらしい。
「昼休みまで勉強って凄いね」
その声は聞こえているはずなのに、ちゃんと無視されて少し腹が立った。
無視は松田くんの会話終了の合図で、分かっているんだけど折角来たのだからもう少し話したかった。
僕が松田くんの横に座って、話しかけるタイミングを模索していると、松田くんが僕の方を向いて煽るように言った。
『小説、ここにはないけど』
「え?いや…あの…」
僕が困っている顔を見て、松田くんは笑っている顔を隠すように向こうに顔を向けた。
だが、小刻みに方が揺れてて、笑っているのは丸わかりだった。
松田くんは、松田くんって人は、意地悪だ。
自分の顔の良さも、僕の恋心も、何もかも全部分かってて、それを弄んでる。
だけど、松田くんに至れば、それさえも可愛い。
僕は今日も松田くんに片思いをしている。