図書室 前編
「え、いないんだが」
合同の授業が終わって即教室を出る松田くんを、僕は今日も追いかける。
そのはずが、
教室を出る直前に先生に声を掛けられたのがタイムロスで、教室を出て階段を上がっても松田くんは居なかった。
その時間はちょうど昼休みで、松田くんの教室に行っても姿はなくて。
もう今日は諦めようとしょんぼりしながら帰っていると、突然話しかけられた。
〈 松田くんなら、図書室にいるよ 〉
それは松田くんのクラスの男の子で、合同授業が一緒の子だった。でも話すのは初めてだし、まず僕は松田くんを探してるなんて言ってないし。
「え、なんで」
〈 いやー、あの松田くんと喋るヒマリさん凄いって、俺たちの中でも話題になってるよ 〉
「え!嬉しい!いやぁ、でも、喋るとか全然そんなことなくて、かなり一方的というか、僕の」
〈 へー!本当にボクっ娘!てか、松田くんがヒマリさん以外の女の子と話してるの見たことないよ?〉
「えっあの、」
〈 そう言えばうちのクラスの女子が、松田くんって顔をよく見るとイケメンだねって、盛り上がってたなぁ 〉
「ええ、まじで」
〈まじまじ。あ、てかそれより今は、図書室!行ってきたら? 〉
「あっありがとう!」
訳の分からないまま完全に向こうのペースに乗せられて話していたけど、名前も知らない人からなかなか色んな松田くん話を聞けてラッキーだったな。
振り返るとそのコミュ力お化けが大きく手を振ってくれていて、僕は控えめに振り返した。