滅んだあとの世界で、死神が願うこと
世界が滅んで、死神の私は職にあぶれてしまった。
生まれた時のことは遥か昔すぎて覚えていないし、刈り取った命の数も三桁を越えてからは到底数え切れなくなった。私が刈り取られる側だったらおばあちゃんと呼ばれていいような歳なんだろうから仕方がない。そろそろ死に時だ。そんなことを思っていたのも物凄く昔の話なので、死に時はとっくに逃した大大大大大大おばあちゃんなのだけれど。
印象に――記憶に残っているのは、死に方の傾向だ。
死因ってやつである。
私は殺人鬼でも殺し屋でもなく死神なので、あくまで死んだ後の魂を持っていくのが仕事だ。たぶん。ともあれ生まれつき、そういう事をしなければならないという感覚がずっとある。
なので誰かを殺したことがあるわけじゃない。あくまで死んだ相手を見つけるだけ。持っていくだけ。だから死に方というのは私が決めてはいなくて、とても個性的にバリエーションに富んでいる。
富んでいた。戦争だか――あるいは最終戦争だかというので、世界が滅んでしまうまでは。
今ではバリエーションも何もあったものではない。
誰も死なない。生きていないのだから死にようがない。
やれやれ、と太陽が沈んでは昇るだけの、穏やかな廃墟の世界を眺めて溜め息を吐く。
いつかまた、私の仕事は現れるのだろうか?
いつかもう一度、この世界に死ぬことができる誰かは生まれてくるのだろうか?
そうだったらいいなと、無責任に私は願う。
彼らは死にたくなんてないんだろう。わかってはいる、つもりだ。
だけど私は彼らを看取る側だから。死ぬということは、生きていたということだと、ずっとそれを見てきたから。滅んだ彼らが、確かにここに居たのだと、私は知っているから。
だから死神の私は無責任に願う。
いつかまた、私が仕事をする日が来ますようにと。
死ぬことが決まっているから。死神にいつか看取られるから。
それまでを懸命に生きていた彼らともう一度。
いつの日か。再開できますようにと。
滅んだ世界に昇る朝日に、死神は願った。
いつまでも、その日まで。