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浮き沈み七度

「綾。これお願い」

 春子は綾子に木工用ボンドを手渡した。

 綾子は、行灯になど興味も無かったしボンドが手につくのも気に喰わなかったが、気分は悪くなかった。

「あと一枚!」

 春子は、黄色に塗られた半紙を両手で構えた。それを見て、別に指示された訳では無かったが、綾子はボンドを骨組みに塗った。

「よーっし、完成ーっ!」

 わっ、と歓声が湧き上がる。少々遅れながらも、綾子のクラスの行灯が完成した。

「ありがと、綾」

 春子はそう言って微笑んだ。

「いや、別に」

 普段、礼などほとんど言われる事の無い綾子は少し対応に困った挙句、照れ臭そうに言い捨てた。

「良い出来だ」柳沼が行灯を見上げて言った。「当日が楽しみだな」

 突然綾子が作業に加わった事を、快く思っている者はほとんどいない。綾子を受け入れた春子にまで、その嫌悪感の矛先は向かっている。綾子は、それを理解していたし気まずい雰囲気も残っていたが、とても爽やかな気分だった。


 ***


「本当? ちゃんと参加したんだ」

 その日の放課後、綾子は川越に話をした。

「うん。頑張ったー」

「えらい」

 川越はそう言って綾子の頭を撫でた。

「当日が楽しみだな」

「もちろん、一番は康介のライブだけどねえ」

 綾子はにやけた笑みを浮かべて川越の顔を覗き込んだ。

「本当かよ」

 川越は笑った。

「あ、信じてない?」

 綾子は口を窄め、頬を膨らませた。

「冗談。信じてるって」

 そう言って川越はもう一度綾子の頭を撫で、爽やかな笑みを浮かべた。

(学校祭って、真面目にやれば結構楽しいんだ)

 綾子は、初めての感情を抱くと共に、去年ほとんど参加しなかった事を少し勿体無く感じていた。

 夕焼けに映える彼氏の顔が、いつになく綺麗に見えた。


 ***


 ――その夜、郊外にある病院の一室で、綾子の祖母は静かに息を引き取った。

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