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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界で安寧の地を求めるのは間違いなのでしょうか?

女騎士は鬼神に愛される

作者: 猫淵光

「ねえ、私たち結婚しない?」


「お、おい、待てそれは俺がいう事だろう?」


クスクスと笑う女の髪先で遊ぶ男の指が急に止まった。


「だって、早く落ち着きたいじゃない?このままどこか他の国で2人で暮らしましょうよ。」


男は頭を抱える。


「だから、それは俺のいう事だって…」


ベットの上で話される甘い話はそう長くは続かなかった。





出会いは騎士団の訓練中だった。つまらなそうな顔で訓練をしていたり、明らかに手を抜いて打ち合いをしている姿を見て、女が男を叱責したのだ。


彼は身分のある身で誰からも叱責など受けた事がなかったようで、目を丸くしていた。


女は貴族の息子に対して暴挙をしたと折檻部屋に入れられ、一夜を過ごす事となった。


その夜男が一つの握り飯を持って折檻部屋へとやってきたのだ。


「なあ、悪かった。これ食え。」


「ごめんなさい。両手が塞がっているの。」


女は繋がれた鎖を見せた。顔や体には無数のアザが見える。


「もう、俺に関わるな…」


握り飯を食べさせながら、男は悲痛の面持ちで決して視線は合わせずに言った。


「あら、私は間違った事はしていないわ?だってそうでしょ?騎士は国の要。家柄がどうであろうとも一介の騎士が訓練に手を抜く事は国を蔑ろにしているのと一緒。」


国へ忠誠心を誓う女に取ってそれは普通の事であった。

男は女を見ると、女の口についた飯を自分の口に入れる。


「戻る。とりあえずまた痛い思いをしたくなければ、俺に関わるな。」


そう言い残すと男は去って言った。


「そんな、悲しい目で何を一人で抱え込んでいるの?」


女は体の痛みではなく。男の心に寄り添えないことに涙を流した。







その後も女は何をされようとも男の事を構い続けた。

何度折檻部屋に送られようと、体がアザだらけになろうとも気にしなかった。

男はその度に無表情で折檻部屋に握り飯一つを持ってきて食べさせてくれる。


だが、その日はいつもと違った。女の姿を見ると目に涙を溜めて、握り飯を食べさせる。


「もうやめてくれ。」


男の悲痛な声に、女は答える。


「あなたが真面目に訓練を行えば、私だって何にも言わないわ。」


目に大きなアザができた顔で女は微笑んで見せる。


「俺は実力を出す気はないんだ。分かってくれ…」


男はとうとう涙を流した。人前である事を気にせずに泣く。


「ねえ、なぜそんなに実力を出すのが嫌なの?私に話してくれない?」


じっと女に見つめられた男は少しずつ言葉にしていく。


「俺は貴族の息子とはいえ、妾の子なんだ。俺が目立てば、父は間違いなく俺を跡取りにする。」


「あなたは跡取りになりたくないの?」


女は小首を傾げ見つめる。


「あんな腹の探り合いしかしない奴らのところで生きたいと思えない。」


男の話によると妾の子ということもあり、家族から日常的な悪口や暗殺未遂が幼い時からあり、貴族たちの宴でも散々言われていたそうだ。

父親からも見て見ぬふりをされ続けていた。

国をいったん出て他の都市で勉学に励み優秀な成績を収めれば、掌を返したように父親が関わりを持ってくるようになったそうだ。

兄が二人いるそうだが、正妻が甘やかして育てたため、家の主としては心許ないらしい。


「幼い時から命を狙われるなんて…とても辛かったょう。平民の私ではあなたの本当の辛さは分からないわ…でも少しでもあなたの心に寄り添わせて…一人で悩まないで!」


女も涙を流す。男は泣き止み女の涙を指で拭い、そのまま女を抱きしめた。


「なあ、何でそこまで俺に構うんだ?」


女は泣きながら男の肩に寄り添う。

冷えた折檻部屋でお互いの体温を感じ心が落ち着く。


「好きになったから…はじめは実力があるのに本気を出さないあなたにただ腹立たしかったの。でもあなたを見ているうちに何か一人で抱えているのが分かったわ…」


男は少し体を離し、女の顔を見る。


「私はあなたのそばにいたい。あなたを一人にさせたくないの。」


再び男は女を抱きしめ、ずっとその温もりを感じていた。







朝日が小さな窓から入ってきて、二人は目覚めた。


「そうだ。あなたが騎士団の中枢に潜り込めばいいじゃない。騎士団から抜けられないように強くなればいいのよ!」


「朝から急に何を言っている。」


男は眠たい目を擦り、朝一で理解し難い話をする女を睨んだ。


「だって騎士として力を持てば、騎士団だって手を離さないわ!家になんて戻らなくて済むんじゃないかしら!」


男は頭をかきながら「そう、簡単にいくか?」といえば、女は即答する。


「大丈夫、もうお父さんに目をつけられてるなら、やるだけやってみなさいよ!」


「何だか、お前の勢いには負けるわ…」


女の勢いに押された男は本領を発揮し、騎士の務めを真面目にやるようになった。

才覚を見せいつの間にかに騎士たちの中心になるようになったのだ。


二人の関係も良好で事あるごとに女から男は叱責されるが、それも騎士団の名物となっていった。

折檻部屋行きも無くなっていた。






そんな中、二年の歳月が経ち、二人が未来を誓い合った後、国の内紛による遠征が決まった。


「ねえ、この戦いが終わったら、本当に国を出ちゃおっか?」


遠征を明日に控えた2人はソファにもたれかかっていた。


「全く、だから俺に言わせろ!」


男は片膝をつき女の前に小箱を取り出す。

箱を開ければそこに入っていたのは、ペアリングだ。


「俺と結婚してくれ…俺はお前以外の女と添い遂げる気はない。」


女は目に涙をため、男に抱きついた。


「はい。よろしくお願いします。」


それからリングをお互いの指にはめ合い、微笑んだ。


「じゃあ、遠征が終わったら退団してどっかの小さな町の傭兵でもするか!」


「ふふ。悪くないわね傭兵も!」


「待て、お前も傭兵になる気か?」


てっきり家庭に入るものだと思っていた男は唖然としている。


「何よ!私はいつでもあなたの側を離れないわ!私がいないとすぐに怠けるでしょ?」


女は男の鼻を指で突くと男は困った顔になる。


「大丈夫だよ。全く…まあお前から騎士を取ったら何も残らないしな!」


「一言多いのよ!」


家事全般が苦手なため痛いところをつかれたのだ。

男はクスクス笑い女の頬を手で包む。


「なあ…」

「何?」

「愛してる。」


面と向かって初めて言われた言葉に女は戸惑い顔を赤面させる。


「きゅ、急に何よ!」


男の手から逃れ逃げ出そうとしたところを、男に手を引かれ体制を崩した所で、男の膝に座らされ後ろから抱きつかれた。


「愛してる。」


耳元で囁かれる甘い響きに女は振り返り潤んだ瞳で答える。


2人は口づけを交わし、永遠の愛を誓った。






次の日、男は激戦地へ、女は少し離れた砦の守備をするため城を立った。


男は他の騎士達を率いる立場になっており、戦地を駆け回っていた。


こちらが優勢と事がうまく進めば、悪い知らせが入ってくる。


「おい、砦に進軍が…」


男は頭に血が上るとその戦地を仲間に預けて、すぐさま砦へと向かった。





「左から増兵!」


砦の見張り台から嫌な言葉が響き渡る。


先ほどから女は砦前で交戦中だ。

増援を呼んでいるが、おそらく間に合わないだろう。


敵の数が増え、とうとう女は倒れた。


走馬灯のように男との思い出が流れる。

根っからの騎士だった女の考えを変えた男。国を出てでも二人のどかな生活をしたいそれは国に忠誠を誓っていた彼女からでる発想ではなかった。

家に囚われた男と添い遂げるためにはそれしかなかった。


「神様どうかいるなら、彼を1人にしないで…願わくば、誰か彼に寄り添ってくれる存在が現れる事を…」


女は心からそう願い、腹に手を当て涙をし目を閉じた。






砦はすでに別働隊により奪還されていたが、そこに並ぶ遺体の中に女の姿があった。


「ミアー!!!」


男は怒り叫び。元の激戦地へと戻り鬼神と呼ばれる存在になった。


血飛沫で涙を誤魔化し、敵をドンドンと斬り伏せていく姿は鬼そのもの。


一人で何百人もの人間を殺し、全身を返り血で染めたその狂気じみた姿を同じく戦場で戦っていた仲間がそう名付けたのだ。


だが鬼神はそれ以降どの戦にも名が出てこなかった。







鬼神と呼ばれる男の胸には二つのペアリングがいつも寄り添っている。


「こらー。お前たち早く席につけ!」


「はーい。」


男の周りには沢山の子供たちが彼を慕い、毎日賑やかな生活をしていた。

孤独とは程遠い日々を送っている。


彼の枕の下には今も彼女の写真と手紙が眠っている。








この手紙が読まれているという事は私は貴方のそばを離れているのでしょう。


貴方は私に女の幸せを教えてくれました。


永遠の愛を貴方と誓い合えたことは本当に幸せです。


だから、私も貴方には幸せになってほしい。


いつまでもウジウジ考えるな!これをバネにして生き続けろ!


私の代わりに生きて…幸せになって。


決してまた1人にならないで…。


それだけが私の望みです。


愛してる。


ミアより




一人で晩酌する男が手紙を見て笑う。


「俺に直接愛してるなんて言わなかったくせに、手紙でばっかり…ミア、俺は一人じゃないぞ…毎日手のかかる生徒に頭を悩ませてる。」


男は手紙を置くと、酒をすする。


「俺も愛してる。ミア。」






これは1人の教師が1人の生徒に出会う前の物語。


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