みみずく
「あっ、あれってふくろう?」
「あれはふくろうの仲間でみみずくっていうんだよ」
「みみずく?」
「ほら、頭の両側に猫みたいな耳がついてるだろ。あれがみみずくの特徴なんだ」
「へえ、そうなんだ。あれってみみずくなんだ」
今日は日曜日です。真理子はお父さんと一緒に美術館に来てました。その中で真理子がとても気になる絵が一点ありました。
それは大きなとぐろを巻いたような木の根にぽつんと一匹だけとまっているみみずくの絵でした。他の動物達の姿はなく、みみずくだけがひとりさびしく、じっとこちらを見つめているのです。真理子はみみずくに何かを言われているような気がしました。でもそれが何か分かりません。
一通りの絵を観終わると、お土産屋さんのコーナーにあのみみずくの絵はがきがありました。真理子はお父さんに言って、そのはがきを買ってもらいました。
家に帰ると、真理子は自分の机の上にその絵はがきをかざりました。やっぱり何かを言おうとしているように見えます。不思議ね。そう思っていると下からお母さんのごはんよという声が聞こえてきました。真理子は絵はがきをそのままにして下へとおりて行きました。
夕飯は真理子の好きなカレーでした。お父さんが今日観てきた美術館の絵の話をしていました。真理子は口をはさみました。
「ねえ、みみずくってうちの周りにもいる」
「みみずく?」
お父さんはきょとんとした顔をしています。
「この辺りにはふくろうもみみずくもいないわよ」
お母さんが何の気なしに言いました。
「どうして」
「どうしてって、森がこの辺りにはないでしょ。だからいないのよ。お母さんが小さかった頃は森があったからふくろうがほーほー鳴いてたわ」
お母さんはとてもなつかしそうに言いました。
真理子は今までふくろうがほーほー言うのも聞いたことがありません。なんとなくおもしろくなくて、真理子はカレーを食べるとすぐに自分の部屋へと行ってしまいました。
自分の机の上にはあの絵はがきがあります。
「ねえ、あなたは私に何か言いたいことあるの」
みみずくは鋭い目つきで真理子を見ます。
真理子もじっとみみずくを見ます。けれども何も答えはありません。
そのうち夜の眠る時間になりました。真理子はパジャマに着替えるといつものように寝ました。
すると真理子は夢を見ました。みみずくのいたあの森に真理子は立っていました。見ると木々は天まで届くかと思うほど背が高く、幹の太さも何人もの男の人が囲んでもとどかないぐらい大きいものでした。
「大きいっ」
真理子が目を丸くして叫ぶとそこにばさばさっと大きな鳥が飛んできました。それはまぎれもなくあのみみずくでした。
「やあ、人間がいるなんて珍しい」
みみずくは急にしゃべり出しました。
「人間なんてここにはもういないと思ってたよ」
「違うわよ。人間がいないんじゃなくて、あなたがいないのよ。だってうちのお母さんが昔はいたけど今はもういないって言ってたもの」
「君ら人間がそうしたんだよ」
「私ら人間が?」
「君らは木を切るだろう。そうして森がなくなったんだ。君らは森のなくなった場所に住んでいるんだよ」
真理子は黙ってみみずくの言うことを聞いてました。
「君らは僕達の居場所を奪い、僕らをこの絵の中に閉じ込めた」
みみずくはふうっとおおきなため息をつきました。
「絵という記憶の中に閉じ込めて僕らが、かつていたことにしたんだよ」
「ここは絵の中なのね」
「そうさ絵の中さ。死んでしまった僕らの悲しい記憶」
それを聞いた真理子は急に悲しくなりました。
「もし森がまたできたら、あなた達は森に来てくれる」
「それはもちろん、行くとも。僕らは森とあるのだから」
「分かったわ。私、森を作るわ。あなたや木が住めるすばらしい森を」
「それは期待しないでおくよ」
みみずくはふっと笑うとどこかへ飛んで行ってしまいました。
夢からさめた次の日、真理子は突然お母さんに言いました。
「私、森を作る」
「森?森だなんてたいそうなこといって、いったいなんなの」
「でも私森を作るって決めたの」
「それなら観葉植物から育てることから始めなさいよ」
「そんな小さいのじゃあ、駄目よ。もっと大きい木がいい」
「どれらくらい?」
「天に届くぐらいがいい」
真理子は窓の外を見ながらそう言いました。ちょうどその頃、真理子の机の上にあった絵はがきに、みみずくの姿はありませんでした。
おわり