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四十 オダイカンサマ、誕生

 今、目の前の人物は何と言ったのか。ぽかんと立ち尽くすティザーベルに、ヤードはもう一度ゆっくりと言った。


「俺達と、パーティーを組む気はないか?」

「え……それって……ええー?」

「言っておくが、あの連中関連だけじゃないぞ」


 あの連中とは、ティザーベルに執拗な勧誘をしてくるエルード率いるパーティーメルキドンの事だ。


「オテロップの一件で、やっていけそうだと判断した」

「まあ、俺等と組んで益があると嬢ちゃんが判断すれば、だけどな。正直、これからメルキドンの連中みたいなのはわんさか出てくると思うぞ。何せ、魔法士は本当に少ない」


 ヤードとレモの言葉を聞いて、嬉しいやら納得するやらだ。自分も半分同じ事を考えていたのだから、ここで話に乗っておいて損はない。


 確かに、メルキドン以外のパーティーからの勧誘の危険もある。別に魔法士である事や、ソロでもやっていけるだけの実力持ちなのも隠していない。それらが、他のパーティーからの勧誘合戦に繋がるとは思わなかったが。


 ――地元じゃ、まず「余り者」って時点で勧誘されなかったしね。


 ラザトークスを出る前に絡んできた馬鹿はいたけれど。あの余り者という考え方も、地元以外では通じないもののようだし、自分と組んだからといってヤード達にデメリットは発生しないのかもしれない。


 考えたのは、短い時間だった。


「うん、私も、二人と一緒に組みたい」

「よし」

「じゃあ、このままギルド行ってパーティー組んだ事を届けておくか」


 ヤードとレモのやり取りを見つつ、ティザーベルは窓から見える帝都の景色に目を移す。いつも思う事だけれど、話が決まる時というのはあっという間に決まるものだ。


 これで二人と組んだことが知られれば、メルキドンだけでなく他のパーティーからの勧誘も消える。それに、彼等と組めば難易度の高い依頼も楽に達成出来るだろう。やはり、この話にはメリット以外感じられなかった。




 店を出たその足で、ギルドへと向かう。パーティーを組んだ事は、ギルドに申し出ておく必要があるからだ。


 この時間帯のギルドは人が少ないとはいえ、全くいない訳ではないので、珍しい組み合わせに周囲からの視線が痛かった。


 カウンターに行くと、いつぞや対応してくれた男性職員がいる。彼も驚いた表情をしていた。


「……珍しい組み合わせですね。今日は、どういったご用件で?」


 依頼票を手にしていない事から、依頼を受けにきたのではない事はわかりきっている。一瞬、ギルド内の空気が緊張したように感じた。


「パーティーを組んだので、届けを出しに」


 ヤードの言葉に、そこかしこから低いうめき声が響いてくる。何故か、カウンターの内部でも軽いどよめきが起こっていた。


 ――……何で?


 首を傾げるティザーベルの前で、男性職員は驚きつつもしっかり仕事をしてくれる。


「で、ではこちらに必要事項を記入してください」


 カウンター上部に出されたのは、パーティー申請書だ。これにメンバー構成やパーティー名などを書いて登録しておくと、パーティーの等級やギルドでの信用度によっては指名依頼を受ける事になる。


また、パーティー申請を出したギルドが本拠地扱いになるので、ティザーベル達のパーティーの本拠地は帝都という事になるのだ。


 ギルド支部によっては、より等級の高いパーティーに登録してもらうべく、支部側で特典を付ける場所もあると聞いた。もっとも、帝都は数多くの冒険者やパーティーが集まる場所なので、必要ない事だが。


 申請書をちらりと見たヤードは、そのままレモに渡した。彼が代表して記入してくれるらしい。メンバーであるヤード、レモ、ティザーベルの名前とメインで使う武器、等級などを書き込む。


ちらりと覗きこむと、二人の等級は三等級らしい。四等級以上は上がるのが難しいと言われているから、この二人は相当「出来る」冒険者なのだ。


「そういや、嬢ちゃんの等級は?」

「七」


 レモは「そうか」と言っただけで、申請書に記入し続ける。てっきり低いと言われるかと思った。ラザトークス生まれで大森林が側にあったにも関わらず七等級なのは、ユッヒの存在と余り者というあの街独特の考え方があったからだ。


 多分、ティザーベルがソロで森に入った方が実入りは良かっただろうし、等級ももっと上にいっていただろう。ユッヒが殊更酷い訳ではなく、魔法を使った移動手段を豊富に持つティザーベルが特殊なのだ。


 素早く移動出来れば、それだけ多くの獲物を狩る事が出来る。採取にしても同様だ。でも、あの頃はそれでいいと思っていた。


 等級にはこだわらなかったし、一生ラザトークスから出ないのならその方が都合が良かったのだ。ただでさえ、余り者という事でいらない波風が立つのだから、変に目立つ要素は排除した方が生きやすかった。高い等級には、嫉妬と恨み辛みがつきものだという。


 それで七等級に留まり続けた結果が今だ。


 ――まあ、いっか。これからガンガン稼いで等級を上げていけばいいんだし。


 難しいと言われる四級以上に上がれるかは謎だが、積極的に依頼を受けていけば五級までは行けるだろう。


 申請書を記入しているレモが、ふと顔を上げてこちらを見てきた。


「そういや、パーティー名はどうするんだ?」

「あ……」


 忘れていた。決まっていない場合、届け出るのは後でもいいのだが、どうせなら今出してしまいたい。


 その時、ティザーベルの脳裏にふと思いついた名前があった。故郷にいた頃セロアとよく言っていた、自分達以外にいるかもしれない転生者の存在。そんな人達を見つける為にも、そして彼等に見つけてもらう為にも、この名前がいいのではなかろうか。


 きっと、これを知らない日本人、及び元日本人はいないと思う。


「……私が決めていい?」


 そう聞いた時の彼女の顔は、きっといい笑顔だったはずだ。レモだけでなくヤードまで引き気味なのは気になるが、とりあえず申請書をこちらに渡してきたという事は、ティザーベルが決めてもいいという意思表示と見なす。


 彼女はカウンターでペンを借りてから、申請書にある名前を記入した。


「よし!」


 書いた名前は「オダイカンサマ」。日本語を帝国で広く使われている言葉に変換して書いてある。いってみれば、ローマ字で「ODAIKANSAMA」と書いたようなものだ。


「……何て読むんだ?」

「オ……ダイカン……サマ? どういう意味だよ嬢ちゃん」


 ヤードとレモに聞かれ、ティザーベルは一瞬答えに詰まる。


「えーと……ふ、古い言葉で偉い人の事よ」


 本当は中間管理職らしいが、時代劇では権力を握っているように描かれる事が多いので、これでいいのだ。


 ティザーベルの言葉に、ヤードとレモは微妙な表情を見せているが、特にパーティー名にこだわりはないようで、文句は言われなかった。


 そのまま申請書を提出し、これにてパーティー「オダイカンサマ」は結成となる。手続きとしては、簡単なものだ。


「この後はどうする? 三人だけで結成式でもやるか?」


 レモの提案に、反対するものはいない。そのまま三人で先程の店に戻り、上の部屋で飲んで食べてパーティー結成を祝った。


 店に入ったのが午後の三時過ぎ、そこから日がとっぷりと暮れるまで楽しんだ。


「わー、夜の帝都も綺麗ねー」


 等間隔に並ぶ外灯は、それだけで幻想的な景色を作り出す。照らし出される建物の影がまた美しい。そんな帝都を縦横無尽に走る水路では、この時間でも小舟が行き交っていた。


「船で帰るか?」


 そう聞いてきたのはレモだ。


「ううん、そんな距離でもないから、歩いて帰るよ」

「送っていく」


 何だか、数日前を思い出すやり取りだった。あれから十日も経っていないのに、しつこい勧誘やらパーティー結成やら色々とあったものだ。


 ヤードと並んで歩きながら、夜の帝都を眺めていく。帝都は石材が豊富なのか建物は石作りが殆どだ。道も石材で舗装されいてるので、雨が降ってもぬかるんだりしないだろう。こうした細かい所で、故郷との差を思い知る。


 時折通り過ぎる店先からは、陽気な声が響いてきた。


「どこの街でも、酔っ払いは変わらないねえ」

「だな」


 自分達も、先程まであんな風に騒いでいたのだ。故郷で飲む相手は主にセロアだったが、彼女とはどちらかと言えば静かに飲んでいる事が多い。このままザミとシャキトゼリナと交友関係を続けられるなら、セロアが帝都に来た時に紹介しよう。


 そこまで考えて、何かを忘れているような気がした。何だったか……


「あ!」

「何だ?」

「忘れてた……」


 思い出した。ヨルカ浴場であったパーティーモファレナの面々に、ザミを説得してほしいと頼まれていたのだ。つい、パーティー結成やらなんやらで今の今まで忘れていた。


 時刻は既に夜の域だ。下手をしたらザミはもう寝ているかもしれない。頭を抱えるティザーベルに、隣のヤードが困っているのがわかったが、それに構っている余裕はなかった。

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