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百九十九 待ち人来たる

 バーフの屋敷で待っていると、程なく待ち人が現れた。詰め襟の黒服は、いかにも聖職者といった風だ。


「よく来たね」

「マレジア様には、ご無沙汰しております」

「本当だよ」


 マレジアの軽口に、相手は苦笑する。気安いやり取りに、二人の交流の時間が見える気がした。


 挨拶がすむと、マレジアはティザーベルに向き直る。


「さて、こいつが話していた協力者だ」

「フォーバルです。クリール教の司祭をしております」

「ティザーベルです。魔法士で、冒険者をしています」

「冒険者? 聞き慣れない職業ですが……」


 フォーバルの言葉に、やはり、という思いが広がる。こちらの大陸で広く布教している宗教の人間なら、もしかしてと思ったが、やはり彼が知る職業の中に「冒険者」というものはないらしい。


 その仕組みを簡単に説明すると、彼は頷きながら納得した。


「なるほど。何でも屋に近い形態ですね。ですが、それを組織として依頼を出す側と受ける側の橋渡しをする……と。しかも、狩ってきた魔獣の解体や素材の買い取りまで行うとは。なんとも合理的な組織ですね」

「こちらでは、そういった職業はないんですか?」

「ええ。強いて言うなら、傭兵が近いでしょうか? ですが、彼等の本分は戦争で戦う事であり、それによって立身出世を夢見ています。今も、各地で戦争は起きてますから……」


 そう言って目を伏せるフォーバルは、聖職者らしく見える。だが、彼も教皇を討とうとする一派だ。見た目通りの人物ではあるまい。


 それに、ティザーベルが自身を「魔法士」だと言った事に対しても、顔色を変えなかった。魔法に対する偏見はないと見ていい。


「フォーバル、現在のあちらはどうなってる?」

「かなり、酷くなってます。腐敗は進むばかりですね。管理局もやりたい放題ですよ。つい先日も、罪のない親子が焼き殺されました……」


 フォーバルの悔しそうな顔を見て、マレジアは眉をひそめる。彼の言葉に嘘はない。ティーサが放った端末からも、その情報は得ていた。


 親子で魔法を使ったと疑われ、簡単な裁判の後すぐさま処刑されている。娘の方はまだ五、六歳だっただろうに。


「それと、お報せしておきたい事があります」

「何だい?」

「カタリナ審問官が、聖国に戻りました」

「……そうかい」


 マレジアとフォーバルの話に、ティザーベル達はついて行けない。審問官というのだから、管理局の人間だろう。カタリナという名称には聞き覚えがある。前世での話だ。


「ティザーベル、カタリナってえのは、管理局でも一、二を争う腕の持ち主だ。当然、あんたと当たる敵だよ」

「彼女は、教皇の隠し珠とも言われています。教皇から名を与えられ、幼い頃から手元で育てられたそうです。見た目は可憐な少女ですが、中身は残虐そのもの。異端と見なした相手には、情け容赦はありません」


 隠し珠とは、この地方で使われる言い回しで「秘めたる宝」の意味だとか。つまり、カタリナという少女は、スミスの大事な存在という事になる。


「キャサリンじゃなくて、カタリナなんだね」

「何か思い入れでもあるんだろうよ。とにかく、カタリナは他の審問官なんか目じゃない程厄介な相手らしい」

「どう厄介なのよ?」


 具体的な事を教えてもらえないと、こちらとしても打つ手がない。マレジアは、視線だけでフォーバルに説明するよう指示した。


「カタリナ審問官のみ使用が許された聖魔法具があります」

「せいまほうぐ?」

「聖なる魔法の道具という意味です」

「何それ。魔法は全て神の教えに反するから禁止なんじゃなかったの?」


 だからこそ、異端管理局などという連中が、魔法を使う人間を取り締まっているはずだ。

 フォーバルは苦い顔をする。


「それが、教皇の許しを得たものは神の許しを得たも同然と言って、管理局のものだけが我が物顔で聖魔法具を使っているのです」


 おかげで管理局に対抗出来る者は誰もいないそうだ。つい先日も、クリール教への改宗を拒否し続けていた小国が、国ごと滅ぼされたという。


 それをやったのが、カタリナだそうだ。


「国丸ごとって……」

「それが出来るだけの力は持っているって事だね」


 マレジアの嫌そうな声に、ティザーベルが考え込む。どのような攻撃方法を使ったかはわからないが、それなりの出力の魔法を使ったのではないか。


 だとすると、使用魔力量も膨大になると思うのだが。


「聖魔法具って、起動に魔力は使うの?」


 帝国では魔法道具が普及している。それらの動力源は魔力結晶で、作成技術こそ秘匿されているけれど、粒の小さなものなら安価で入手可能だ。


 聖魔法具とやらも、そうしたバッテリー内蔵型なのか、それとも使い手がその都度魔力を供給するのか、気になる。


 だが、マレジアからの回答は期待外れなものだった。


「さあね。管理局から出さないらしいから、誰も知らないそうだよ。もっとも、他の連中が手に入れても、仕組みすらわからないんじゃないかねえ?」


 マレジアの視線の先で、フォーバルが力なく首を横に振る。


「マレジアでも、わからない?」

「現物がありゃあ、わかるけどねえ……入手は無理そうだよ」


 フォーバルは、先程から首がちぎれるのではないかという勢いで横に振り続けていた。仕組みもわからなければ、かすめ取って持ってくる事も不可能とは。


「せめて、そのカタリナってのが道具を使う場を見られればいいんだけど」


 ちなみに、支援型達にも問い合わせてみたが、全員知らないそうだ。ティーサが放った情報収集用の端末からも、何も得られていないらしい。


 フォーバルは何か考え込んだ後、顔を上げた。


「出来るかもしれません」

「へ?」

「カタリナが、聖魔法具を使う場所を見る、ですよ!」


 彼からの意外な言葉に、その場にいる全員が固まった。




 フォーバルは必要な事を決めると、さっさと里から出て行った。周囲の目もあり、あまり長居はしたくないらしい。


「ま、教会連中の手前もあるしねえ」


 建前として、この付近の村への布教活動に来ている、と上には報告しているそうだ。


 この付近には、領主もきちんと把握していない小さな村がいくつかあり、そうした村に布教するのも、教会の勤めなのだとか。


 背後には、住人を把握して税を取り立てるという、領主側の思惑もあるらしい。


「ちなみに、この里のある辺りは、領主は誰なの?」

「さて、今は誰だったかねえ? 何せ、ここらは戦の多い場所なんだよ。小さい国が出来ちゃあ潰される。いちいち憶えてられないって」


 ただでさえ隠れて住んでいるのだから、税金なぞ払った試しがないらしい。もっとも、国からの庇護は受けていないのだから、払う必要もないというのが、マレジアの考えだそうだ。


「あんたらは、フォーバルが迎えに来るまでここで待ってるかい?」

「いや……都市に戻ろうと思う。七番都市の事もあるからさ」

「ああ、そうだったね」


 ヤードを保護してくれていた獣人の里の近くに、七番都市がある。本当なら彼と合流後、都市の再起動をしようと思っていたのだが、アクシデント発生の為にすっかり忘れていたのだ。


 だが、一つでも多くの都市を再起動させて、その力を得ておかなくてはならない。何せよくわからない相手が敵なのだ。


 その敵の情報を得る為に、カタリナという審問官が使う聖魔法具の威力を見たいと言ったところ、フォーバルから教会に潜入するという提案がなされた。一応、彼の下で活動する見習いとして潜り込むという事らしい。


 ただし、潜入はティザーベル一人になる。これは、三人の中で一番年齢が若いのと、女の方が色々疑われにくいからだそうだ。


 万一、カタリナに見つかった時も、男より女の方が逃げられる確率が上がる。どうも彼女は男嫌いらしい。


 カタリナが気を許す男性は、教皇ただ一人なのだとか。同じ管理局にいる仲間でも、男性と女性では当たり方が違うという。


 潜入の為の準備が整い次第、フォーバルが迎えに来るのだとか。それまでに、七番都市を再起動させておきたい。


 これまで三つの都市を再起動させたのだから、問題はないだろう。あるとすれば、都市に仕掛けられているだろう罠の種類だけだ。


 マレジアに見送られて、里を出る。向こうから見えない場所まで来たのを確認してから、一番都市へと戻った。


 フローネルは慣れたものだが、ヤードはまだ慣れないらしく、顔色がよくない。


「部屋で休んでるといいよ」

「ああ……」


 彼の部屋も、宿泊施設に割り振ってある。既に使用済みの部屋以外で選んでもらった結果、レモの隣にしたようだ。


 今日はこのまま休んで、明日、七番都市へと飛ぶ。無事に再起動出来ればいいのだが。

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