とある転生令嬢の日常
わたくしは生前、いや転生したのだから今も生きているのか?とにかく以前は病院で寝たきりの人生であった。
だから恋愛小説や異世界転生の小説なんかもいっぱい読んだことがあるのでテンプレ、王道、お約束があることは知っているのだが理解はしたくない。
今日は我が伯爵家の庭でガーデンパーティーが盛大に行われている。
そして伯爵家の長女であるわたくしは今・・・
「あなた、少しばかり殿下たちに気に入られたからと言って調子に乗っているのではなくて」
「そうよ、少し可愛いからって殿下に色目なんか使って、淑女として恥ずかしくはないのかしら」
現在、数人の強面の令嬢に包囲されている。
もともと目つきが鋭い公爵令嬢や普段は虫も殺さないようなおっとりした侯爵令嬢、そしてそれぞれの取り巻き集団は殿方には見せられないような形相でわたくしを睨んでいる。
怖すぎておしっこちびりそう、あっ・・・
「何とか言ったらどうなの」
この人たちはなにを無理なことを言っているのだ。
誰か助けて!
「おまえたち、俺の愛しい天使に何をしている!」
わたくしの祈りが天に通じたのか、この状況を打開出来る力を持った男が現れた。
「いえ、王太子殿下、わたくしたちはただエリシア様と交流を図ろうと・・・」
「言い訳は不要、今日のところは見逃してやる。去れ!」
王太子殿下の一喝で令嬢軍団は脱兎のごとく去って行った。
本来なら殿下にお礼を述べるべきなのかもしれないがそんな気持ちには少しもならない。
なぜなら彼女たちに絡まれた理由は、この超絶ロリコン殿下が婚約者候補たちを蔑ろにしてわたくしのところに通っているからだ。
殿下がいつものように私を抱き上げて頬を寄せてくる。
わたくしの非力な力ではそれを拒むことは出来ない。
「ああ俺の愛しい天使、怖くはなかったかい。もう大丈夫だからね」
うん、下の方がちょっと冷たくなる程度には怖かったよ。
しばらくして殿下が去ると入れ替わるように侍女がきて、わたくしを浴室に運び服を脱がせて体を拭いてくれた。
濡れている下着になにも言わずに黙々と仕事をする姿勢には敬意を表するけれど、あなた先ほどご令嬢たちがやって来たときにわたくしを見捨てて逃げたよね。
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今日は王太子殿下が側近たちをつれてやって来た。
はい!四名様のお帰りはあちらの扉です。
わたくしは入ってきた殿下たちを見ながら心の中で呟いた。
「僕の愛しい天使は今日も可愛いね」
「本当に愛らしい姫ですね」
「薔薇様はいつ見ても心が安らぎます」
「・・・」
王太子とその側近たちは次々と歯の浮くような言葉を投げかけてくる。
四人目の子爵子息だけはいつも黙ったままだが、王太子たちの後ろから熱病にかかったような表情で私を見つめている。
実はこいつが一番危ないかもしれない・・・
彼らにはそれぞれ婚約者候補や婚約者がしっかりといる。
破廉恥だと言われるかもしれないが、別にわたくしが誘惑した訳ではない。
わたくしだってこの状況を打開しようと、なけなしの力を使って抵抗を試みてはいるのだ。
だが、か弱いわたくしがいくら抵抗しても彼らの力に適う訳がなかった。
伯爵家の使用人たちだけではなく、伯爵であるお父様でさえ王太子殿下の権力には逆らえずにいる。
わたくしは頬にすり寄られたり体に触れられたりするのをただ耐えることしか出来ない。
嵐が去った後、侍女がお湯を用意して体を洗ってくれた。
流石に耳を噛まれたり首筋をなめられたりしたので、とても気持ち悪かったので助かった。
「あのぼんくら王太子どもめ、私の女神様になんと汚らわしいことを・・・」
だが彼女がぼそりと呟いた言葉にぞっとした。
とても怖かったがわたくしに侍女をどうこうすることは出来ない。
その夜、私がベッドで眠っていると、いきなり口をふさがれた。
「私の女神様、これからは私があのぼんくら王太子たちから守って差し上げます」
この日、わたくしは侍女によって誘拐された・・・
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わたくしは今、王宮に来ている。
わたくしを誘拐した侍女は殿下たちの職権乱用によって動員された、すべての王都警備の騎士、更には近衛騎士団と私設騎士団の活躍により三日後には捕縛され、わたくしも無事に救出された。
いや、この状況は王太子殿下によって誘拐されたという方が正しいのかもしれない。
王太子は伯爵邸の脆弱な警備では僕の愛しい天使を守ることは出来ないと両親を説得・・・いや脅迫してわたくしを王宮に連れてきた。
それから毎日のようにわたくしの体は殿下にもてあそばれた。
もうやだ、おうちに帰りたい!
そして更に・・・
「お兄様が仰るとおり、百合ちゃんはいつ見てもとても可愛いわ。しかしまだ足りないわね」
王女殿下が侍女に目配せすると大量のリボンなどを持った複数の侍女が部屋に入ってきた。
わたくしがどうなったかなど説明する必要などないだろう。
王女はわたくしを着せ替え人形にして楽しんでいる。
わたくしは涙をぐっとこらえた。
泣いても泣き顔も可愛いわねと言われるだけなのだ。
だが、最後に着せられた衣装は酷かった。
リボンで大事なところを隠しただけの衣装
ある意味、裸より恥ずかしい。
わたくしの視界が滲む。
もうお嫁に行けない・・・
「いい、いいわその表情、これはぜひ絵師を連れてきて書かせねば・・・いや、この表情を男どもに見せるのは嫌ね。百合ちゃん、次までに女性の絵師を探しておきますね」
頬を上気させた王女がわたくしに死刑宣告を継げた。
こんな姿を絵に描かれたらお嫁どころか生きていけない。
わたくしの絶望には気づかずに王女は去って行った。
その場に残った侍女たちはわたくしの体に巻いているリボンをほどいて元の服を着せたのちに退出した。
ああ神様、誰もいない部屋に鳴き声だけが響いていた。
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数日後、王女が約束通りに女性の絵師を連れてきて、わたくしのあられも無い姿を書かせている。
だがわたくしは王女の膝の上に載せられ、体を拘束されており逃げ出すことも出来ない。
悔し涙がこぼれそうになるが、わたくしはそれを必死に耐えた。
泣いても王女が喜ぶだけだ。
この鬼畜ロリコン百合姫が!
わたくしは心の中で悪態をつく。
かなりの時間が経ち、わたくしはいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
王女とその侍女たちはできあがった絵を見ながら危ない笑みを浮かべている。
意識がはっきりしてきたわたくしは自分の現状を確認した。
もうあのリボンだけの格好ではなく、ちゃんとした服を着ていた。
ようやく終わったのね・・・
その時扉が勢いよく開き、王妃様が部屋に入ってきた。
わたくしは状況がつかめずにあ然としていた。
王妃様は侍女と絵師を追い出すと、王女から絵を取り上げて二度とこのようなことをしないように注意してくれた。
そのお姿はわたくしにとってまさに救世主様であった。
だが、王女を連れて部屋をでる際にわたくしの絵をとても大事そうに抱えて行ったのはなぜだろうか。
わたくしはこの疑問が間違っていることを神に祈った。
夜の帳が下りて月の光が窓から差し込む。
わたくしはいつまで王宮にいなければならないのだろうか・・・
天に輝く月はわたくしの問いに答えてはくれない。
もうここには居たくない!
しかし自分の力でここから逃げ出すことなど出来ない。
そんなことを考えているとカチャリと扉が開く音が聞こえた。
外には護衛の近衛騎士がいて隣室には侍女が詰めているけれど、用もないのにこんな時間に入ってくることなど考えられない。
わたくしは音のした方に首を向けた。
そこには近衛騎士が立っていた。
なんの用だろうか?
いつも寝ていて気がつかなかっただけで、定期的に私の安全を確認する仕事でもあるのだろうか。
だが彼はなかなか部屋から出て行かない。
何をしているのだろうと怪訝に思い彼の顔を見た。
こいつ、近衛騎士じゃない!!
いつも王太子の後ろからわたくしを無言で見ていた側近の男だ。
この世界には変態しかいないのか!
わたくしは隣室にいる侍女に助けを求めるため、必死に叫び声を上げた。
「オギャー、オギャー(助けて!)」
いたずら好きの神様から魅了魔法をチートとして渡された、わたくしエリシア・マクバーレン0才の受難はまだまだ続く。
この魔法の取扱説明書をプリーズ!!!