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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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幕間その三 甘美なる神秘牢獄

 

 二年前。

 ミリファと第七王女が出会う前の一幕。


 ミリファは首都から遠く離れた、畑と民家しかないような田舎町に住んでいた。髪の色の違いからも分かる通り、エリスとミリファは血が繋がっていない。ミリファが物心つく前に捨てられていた所をエリスが拾ってきたのだ。


 それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。


 それでも、だとしても、エリスは元より彼女の両親もミリファも愛した。実の娘であるエリスと比較することなく、区別することなく、二人の娘を分け隔てなく愛したのだ。あるいは愛しすぎたくらいに。それこそぐーたら怠けまくるほどにだ!!


『ふあ……まだ太陽あるじゃーん。寝よ寝よ』


『こんのクソ馬鹿ぐーたら娘っ。何が太陽あるじゃん、よ!! 太陽がのぼっているから起きるのよっ』


 ドバンッ! とミリファの私室に飛び込むエリス。毎度のごとくベッドの上でゴロゴロしている妹に叱責を浴びせるが、妹は眠気まなこなままだった。


『ええー……そんなのおかしいって。こんなにお日様が張り切ってるんだよ? ポカポカ陽気なんだよ? これはもう神様がぐっすり眠ってくれって言ってるんだよ、うんうん』


『ちなみに夜は?』


『暗くなったら、おやすみの時間だって』


『こんのクソ馬鹿っ。どっちにしてもぐっすりスヤスヤする気満々じゃない!!』


『あはは……すやあ』


『ねーるーなー!!』


 バレバレの狸寝入りを見逃すほど姉は甘くなかった。胸ぐらをひっ掴み、引きずり上げる。


『働くわよ』


 …………。

 …………。

 …………。


『なっ、なに、はぁ!? お姉ちゃんなに言ってるの!?』


『働くわよ』


『いや、いやいやいや! お母さんもお父さんも大きくなるまで働く必要ないって言ってくれたもん!!』


『働くわよ』


『あれ? これ私の言うこと無視してる???』


『働くわよ』


『わーっ! これ本気のヤツだあ!!』



 ーーー☆ーーー



 冒険者ギルドは大陸中に支配権を広げている。ほとんどの町に冒険者ギルドの受付所が存在するほどであった。


 もちろんアリシア国にも冒険者ギルドは多数存在する。ミリファたちが住んでいる田舎町ヘヌウにもだ。


 ちなみにこの時からエリスは田舎町では知らぬ者がいない絶対強者と知られており、ギルド本部にさえもその名が届いているほどだった。それこそ冒険者の中でも五本の指に入るほどの実力者……とされていたのだが、身内以外からの評価などまったくもって気にしていないエリスは『周りからエースだなんだ持ち上げられているから、田舎町の中では強いほうみたい』としか考えていなかったが。


『さあ、選びなさい』


『いや、あの、ええ!? ここ冒険者ギルドだよねお姉ちゃんっ。まさか依頼を受けろとでも!?』


『もちろん』


『もちろんじゃないよお! 常日頃からぐーたらざんまいな私に依頼なんてこなせるわけないじゃん!!』


『あたしがミリファぐらいの頃は魔獣退治くらい軽々とこなしていたわよ』


『お姉ちゃんと私とじゃ違うもんっ』


『はいはい。で、どれにする?』


『うわーんっ! スパルタだよお!!』


 場所はヘヌウの冒険者ギルド内部。

 壁一面に依頼内容が記された紙が貼り付けられていた。難易度ごとに仕分けされており、ミリファの前には最低ランクの依頼が並んでいる。この中から選べという話なのだろう。


『ミリファでも採取の依頼くらいはいけるはずよ』


『本気で言ってる? 崖登って薬草採ったり、魔獣の生息している森の中でキノコ採ったりするのが!? 無茶振りにもほどがあるってえ!!』


『あたしがミリファくらいの頃は──』


『お姉ちゃんはいけたかもねっ。お姉ちゃんだもん!! 私がいけると思う? この私が!!』


『いけるいける。で、どれにする?』


『返事が雑だよお!!』


 実際のところエリスだってミリファ一人で崖登りをさせたり、魔獣を退治しながらキノコ採取をさせるつもりはなかった。エリスがつきっきりでサポートして、万が一にも怪我などしないようにするつもりなのだ。


 今回の目的は怠け癖の矯正である。

 あんまりぐーたらしてると過酷な労働が待っていると身をもって思い知れば、ミリファだって畑仕事の一つや二つ手伝うようになるだろう。


 ……ミリファには畑仕事はまだ早いと両親が甘やかすからこんなことになっているのだが、嘆いたところで事態は解決しない。ミリファには同年代よりも小柄で、体力もなく、目立った才能はないかもしれない。それでも最低限働く意欲くらいは持っておかないと──


『まあまあ。ワタシが養ってあげるよっ。ワタシはミリファを愛でられて、ミリファはぐーたらざんまいな生活を送れるってね。これ以上ない名案だねっ!』


 ──金髪碧眼の変態バニーガールみたいな奴がすり寄ってくるのだから。


『お呼びじゃないのよ、この変態っ』


『えー? でもミリファはワタシを求めているみたいだけどねっ』


『救世主きたーっ! 正直言うとこっちはこっちでちょっとアレなんだけど、今のお姉ちゃんよりはマシな気がするっ。……多分、おそらく、大丈夫、かなぁ?』


『……すっごい妥協しているみたいだけど?』


『結果的に選ばれればそれで良かろうってね! つーわけでカモーンミリファーっ! イチャラブで汗だくで年中無休ベッドの上で天井のシミを数えるだけのぐーたら生活が待ってい──』


『こんのクソ馬鹿変態野郎があ!! せめて下心を隠す努力くらいしなさいっ。あっ、こらミリファに触るんじゃないわよっ』


『ふんっ。姉だからっていつまでもミリファを独占できると思ったら大間違いなんだからねっ。そう、姉妹といえども離れる時はやってくる、例えば結婚からの別居とかねっ』


『っ!?』


『ミリファは、いずれ、ワタシと結婚する。つまり! エリスの特権は近いうちに消滅して、ワタシがミリファを愛でるハッピーライフがやってくるってねっ!!』


『させ、ない。確かにいずれは結婚なんて話も出てくるのかもしれない。ミリファと離れる時が来ちゃうのかもしれない。だけど! テメェみたいな変態とミリファが結婚するなんてふざけた話にはさせないわよっ!』


『馬鹿め! ワタシのイチャラブパワーでミリファがゾッコンになることは確定している!! はっはあ! 今のうちに短い天下を噛み締めておくことねっ』


『言ってろこのクソ変態があ!!』


 ゴッバァン!! と拳が交差するが、そんなのいつものことだった。その間にミリファはコソコソと避難、そのままこちらを見ていた妙齢の女性に声をかける。


『うう。マスターっ。このままじゃ私冒険者にされちゃうよお! そんなの無理だって絶対死ぬって!!』


『ハハッ。確かにミリファに冒険者は似合わないかも、よねえ』


 マスターと呼ばれた女は蒼の髪を肩辺りの長さになるよう雑に切っていた。ボサボサの髪にボロボロの青のドレス。全体的に薄汚れた印象であるが、彼女こそこの町の冒険者ギルドを束ねるギルドマスターであった。


『でも、ねえ。冒険者ギルドな来る者拒まず、去る者追わずが基本原則だから、ねえ。自薦だろうが他薦だろうが、大抵の依頼は受けるってならとりあえず受けさせるって感じ、よねえ。ぶっちゃけ消耗品としての側面もあるし、ねえ。まあ依頼の種類によっては人を選ぶのもあるけど、最低ランクなら何でもいける、よねえ』


『うわあん! 助けてマスターっ』


『ギルドで依頼を受けるにはギルドカードの作成が必須、よねえ。とりあえず一日はかかるってことにして時間を稼ぐくらいはできる、ねえ』


『その後は?』


『……ガンバ、だねえ』


『マスタあーっ!!』



 ーーー☆ーーー



『ふっふっふう』


 夜中のことだった。

 ギルドカードの件を聞いたエリスは『明日は必ず依頼を受けてもらうから』と念押ししてきた。というわけでミリファは日を跨ぐ前に対策を講じることとした。


 エリスが寝た後に家を出て、ミリファは冒険者ギルドを訪れていた。


『マスターっ。これ全部ちょうだいっ』


『全部、ねえ』


 ガバッと壁一面に貼り付けてある紙を取りまくるミリファであった。つまりは依頼の数々をだ。


『ミリファ。何を考えている、ねえ?』


『依頼がなくなれば、お姉ちゃんの横暴も空振りで終わるんだよっ』


『……?』


『これ全部処理すればいいんだよ!』


『いくらなんでも人手が足りない、ねえ』


 だからこそ、それだけの依頼が残っているのだ。

 だが、それはあくまでこの町の冒険者では、という話だ。


『だったら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ』


『……へえ』


 ヘヌウの隣にはズーンという町がある。そこの冒険者ギルドとヘヌウの冒険者ギルドの険悪さはアリシア国でも有名な話であった。


 それこそ小競り合いは日常茶飯事であり、乱闘騒ぎは数え切れないほどであり、怪我人が多数出ているほどだった。それこそ全面戦争となることだって十分に考えられるほどだろう。


 ただし、


『ミリファのお願いなら仕方ない、よねえ』


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『じゃあ今からズーンの所に協力してもらうよう話を通そう、ねえ』


『本当っ。さっすがマスターっ!!』


 たまに大きな買い物をする時などにミリファはズーンを訪ねることがあった。そこでズーンの冒険者ギルドマスターと知り合い、仲良くなり、顔を合わせれば殺し合いに発展するくらいには険悪なヘヌウの冒険者ギルドマスターとの関係を緩和してしまったのだ。


 それこそ冒険者ギルドの本部から厳重注意を受けたって関係性が改善することはなかったのに、ミリファの一言が全てを変えた。


『んへへっ。マスターっ!』


『ん、なあ!? やっ、刺激が強い、よねえっ』


 思いきり、遠慮なく、マスターに抱きつくミリファ。それさえあれば、ブッ殺したくて堪らないズーンの冒険者ギルドマスターとだって手を取り合って協力できる、と思えてしまうくらいミリファにゾッコンであった。

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