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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第九十三話 よし、やっちゃおう その三

 

 ココレンズ=レッドフィールド。

 第一王女が側仕えメイドは鼻をぴくぴくと動かし、周囲の匂いを走査。目的の人物が発する匂いを捕捉する。


 後は駆けつけるだけで良かった。

 主城内部の開けた空間でミリファとイヌミミ少女とが相対する。


「わう。見つけた」


「んう? なんか見たことあるような??? まあ誰でもいいやー。えへへーキスしよーよー」


「……わ、わう?」


 開口一番とんでもないこと言い出した。いやなんだか料理長辺りが騒いでいた気がしないでもないが、接点なんてほとんどない相手にまでそんなことを言い出すほどにミリファは見境がなかっただろうか?


「んふふ。キモチイイから、大丈夫だよー」


「わう、わうわうっ。お、落ち着け、そう、これはチャンスっ。なんの理由もなしに五分間も肌を触れ合わせようと言ったって聞き入れて貰えるわけないし、キスしている間に条件満たしてやろっと!! わっふうナニコレ天才的閃き──んっふう!?」



 ーーー☆ーーー



「料理長ーっ! やべーですぜえ!!」


「なんだどうしたもう嫌な予感しかしないぞっ」


「第一王女様の側仕えがぶっ倒れてましたっ」


「第一……? おいそれってレッドフィールド男爵家じゃないかっ。よりにもよって四大貴族の一角かよっ」


「後ですね、その近くに第五、第六、第七王女様がぶっ倒れてましたっ」


「おいマジかよ一気に三人かよ手ぇ早いなくそが!! 急げ急げっ。正直もう致命的なくらいだが、とにかくあの王女ホイホイを何が何でも止めるぞこらあ!!」



 ーーー☆ーーー



 その騒動は第三王女オリアナの耳にも届いていた。人脈を司るかの王女は苦渋に眉をひそめる。


「帰ってきたかと思えば、これまたやらかしているでごぜーますね」


 彼女にとって人脈とは一つの巨大なシステムである。平民、貴族、王族など地位や能力に応じて分類し、組み合わせることで強大な力と変えているのだ。


 そのための人脈構築である。

 繋がりを広げ、自在に操作可能な環境を整え、第三王女は一つの巨大なシステムを形作っている。あくまで特定の誰かを軸とするのではなく、複数人にて代用可能なようにしているのも特徴か。どこかが欠けたとしても、他の誰かで補充できる柔軟性を付加することにこそ意味があるのだから。


 誰かを軸とすれば、そこが弱点となる。一人を殺すだけでシステム全体を機能不全に陥らせることができるし、その誰かがシステムを乗っ取ることだってできるのだから。


 ゆえにシステムの構築に中枢は必要ない。誰もが中枢であり、誰もが末端となれる柔軟性が必要なのだ。


 だが。

 ミリファという一人の人間がシステムを脅かしつつあった。


 王女の半数が彼女に魅了されている節が確認されており、また彼女の特別性が重要視されているのだ。


 そこにきてのこの騒動。

 他の誰がやったとしても問題視されることだろうが、どうにもミリファがやった場合は話が変わる気がするのだ。


 最低でも『遊ぶ(壊す)』衝動を振りかざしてきた第五王女を懐柔し、『運命』を一人で背負ってきた第七王女の心に深く介入し、第一王女に利用価値ありと特別視されている。それもたった数週間の間にだ。これだけ短期間の間に複数の王女の心に深く踏み込み、その存在を示したのには理由があるはずだ。


 人間として魅力があった、で済ませるのは簡単だ。人間に好かれやすい少女であった、で思考停止するのは誰にだってできる。


 だが、第三王女の直感が訴えているのだ。

 そんなものじゃない、と。

 ミリファが広げてきた友好の輪、誰彼構わず魅了してきた根幹には『何か』がある、と。


「……悪いやつじゃねーでごぜーます。あの金色自体が悪意を持っているとは思えねーでごぜーます。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 第三王女自身、ミリファを危険視していながら早急に手を打ってはいない。原因を究明する必要があるし、今ミリファに手を出せば複数の王女が暴走するだろうし、悪気がないのに排除するのはいかがなものかと思ってしまう。


 この心の動きが、ミリファに甘くなってしまうのが、まさしく『何か』ある証拠なのだ。


「事態がこれ以上悪化する前に『何か』の正体を見つけ出す必要があるでごぜーます」


 ともすれば大陸統一が確定している『奴』よりも、『奴』を殺すために必要となってくるミリファのほうが危険なのかもしれない。



 ーーー☆ーーー



 リギスス国が女王シンヴィア=リギスス=アンリファーンは魔法の才を示す『褐色』の肌を世界に晒す。赤のマントを靡かせ、その奥の黒ビキニに覆われた爆乳を揺らしながら、鼻歌さえ漏らす余裕があった。


「ふんるんふふーんっ」


 ゴッバァ!! と鼻歌のリズムに合わせて複数の魔法陣が連続的に展開され、多種多様な魔法を吐き出す。あるいは炎の槍が突き抜け、あるいは水の刃が振り下ろされ、あるいは土の形状変化で足場が歪み、あるいは無数の水の弾丸が襲いかかる。


『極の書』を同時展開できるほどの才ある女王の力は魔法分野に限定するならあの魔女を遥かに凌ぐものである。そんな怪物を前に魔力を使えば魂が崩壊するような状態のエリスが真っ向から太刀打ちできるわけがなかった。


 ゆえに真正面からぶつかるような愚は犯さない。『魂から響く声』を聞くことで行動を予測し、無数の魔法攻撃を体捌きで回避することに専念していた。


(……いつまでもは保たないわね)


 一手誤れば、そこで終わり。

 今のエリスに第九章魔法を受けるだけの力は残されていないのだから、回避できなければそのまま粉砕されて終わりである。


 だからどうした。

 女王シンヴィアが与える幸福感にミリファが支配されるのは時間の問題である。その前に、何とかしなければならない。


 ならば、成し遂げろ。

 何が何でもミリファを救え。

 ()()()()()()()()、目の前の強敵を粉砕してみせろ。


 もちろん最善はエリスが生き残り、ミリファを救うことだが、無理なら妥協するしかない。下手に最善を目指して失敗するくらいならば、妥協してでも最低限譲れない所だけは守り抜いたほうがいい。


 ……悲しませると、身に沁みて分かっているとしても、あの『喪失』を味わうくらいならと考えてしまうのだ。


 だから。

 だから。

 だから。


(チッ、ムカつくほどドンピシャな登場ね、変態がっ)



 バッボォッッッ!!!! と。

 迫る無数の魔法攻撃が水蒸気爆発によって吹き飛ばされたのだ。



 ()()()()

 女王シンヴィア以外の声が。

 心底気に食わない相手であり、長年の腐れ縁であり、ミリファに這い寄る害悪であり、無駄に強い女であり──背中を預けるのに彼女以上の者は存在しない。


 だんっ! と金髪碧眼のバニーガールが戦場に君臨する。エリスの横に並び立ち、ぴょこぴょこ人工物のはずのウサミミを動かし、軽薄な笑みを浮かべていた。


「爆乳褐色お姉ちゃんにイジメられるだなんて随分と倒錯した性癖に目覚めちゃった的な? いやーしばらく見ない間に変わっちゃったね、エリスっ。まあ気持ちは分からないでもないけどねっ。あの爆乳で頬を叩かれたりしたら、もう、はうう!!」


「はぁ。相変わらず変態真っしぐらなようね」


 マキュア。

 エリスと同等の実力を持ち、地元では家が隣であり、エリスと同じ歳の幼馴染みであった。


「まあワタシとしてはエリスがミリファから爆乳褐色お姉ちゃんに乗り換えてくれる分には大歓迎なん──」


「馬鹿言ってんじゃないわよ」


「それは残念。それじゃあ今日も元気にミリファ愛でようっと。で、ミリファどこ?」


「あのクソ女に穢されたのよ」


 それだけでよかった。

 詳しい説明なんてマキュアには必要ない。

 なぜなら『同類』なのだから。ストーキングするくらいにはミリファを溺愛しているマキュアであれば、相手がミリファを害する者だと分かればそれで十分。それが例え魔法大国の女王だとしても、


「なーる。だから無駄にハッスルしてたんだね。ぶっ潰せばいい感じ?」


「とりあえずは。精神関与、とも少し違う気がするし、術者殺してスキルが解除されるかは五分五分だしね。確実に解除するためにも拘束するのが理想よ」


「あー小難しいのはいいって。とにかくあれぶっ潰せばいいんだよねっ。つーか、あれよ、いつもみたいに帳尻はエリスが合わせるってことでよろしくっ」


「はいはい」


 まさに買い物にでも付き合ってとお願いするような気軽さであった。女王シンヴィアという特大の怪物を敵に回しておきながら、ほどよく力が抜けリラックスできているのだ。


 これまでエリスの中にあった自己犠牲の考えが抜け落ちるほどに。ミリファやリーダーを守るためなら命だって惜しくはないと決死の覚悟を振り絞る必要がなくなったのだ。


 マキュアが隣にいるなら、もう大丈夫。

 エリスがいるなら、ナンダカンダ上手く終わらせてくれる。


 互いに互いを心の底から信用できるくらいの繋がりがあるからこそ、女王シンヴィアを敵に回しても負ける気がしない。


 ミリファやリーダーを後ろに庇ったならば、命を捨ててでも勝利をもぎ取る自信がある。それと同じなのだ。隣に立つのがミリファでもリーダーでもなく、マキュアであるからこそ、勝ちを確信できるのだ。


 命がけの闘争は終わりを告げる。

 ここから先は勝利をもぎ取るための蹂躙の時間である。



 ーーー☆ーーー



 その騒動は第一王女の耳にも入っていた。

 ミリファがキスを振りまき、犠牲者が増加しているらしい。それすなわち第一王女ではなく、第七王女の側仕えメイドに魅了され腰砕けとなっている者が増加しているということだ。


「くふふ☆」


 第一王女クリスタルの友人であるイヌミミ少女も被害者の枠にぶち込まれていた。これまで長い間第一王女のそばでその美貌を味わってきたイヌミミ少女さえも耐えられないほどの魅力をミリファが振り撒いているということだ。


「こんなの黙ってられないよねぇ」


 第一王女は美貌を司る。

 武力や魔法では他の者に遅れをとるとしても、美貌の分野でだけは負けられない。ここだけは決して譲ってはならないのだ。


 さあ、決戦の時である。

 美貌の第一王女の誇りにかけて、かのメイドを魅了せよ。



 ーーー☆ーーー



 第三王女は部下に命じてミリファの調査を行っていた。人脈という強大なシステムを打ち砕く因子に関して事細かに調べ上げ、利用できるかどうかを判断、有害となれば排除するためにだ。


 挙げられた報告書に目を通していた第三王女の目が見開かれる。


「なん、でごぜーますか、これは……?」


 ある過去の一幕。

 二年前、エリスがミリファに採取クエストを受けさせようとした時があった。それを嫌がったミリファはあろうことかエリスの所属しているギルドと対立しているギルドに片っ端から依頼を横流ししたのである。しかも横流しされた依頼の数々が全て対立冒険者ギルド内で受領、達成されたというのだ。元々の依頼も合わせて二倍に増えた依頼をどう片付けたのか、なんてレベルではない。


 対立関係にある冒険者ギルドへの依頼の横流し。そんなものがまかり通るわけがない。いいや通ってしまったほうが問題である。それこそ冒険者ギルド同士の抗争に突入するほどの一大事であろう。


 だが、実際には抗争どころか小競り合いすら起きていない。ミリファという一つの人財の力によって、だ。


「危険すぎるでごぜーます。こんなの単純な悪よりもタチが悪いでごぜーますよ!!」

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