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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第八十七話 よし、襲撃しよう その十三

 

 まさしく猛威であった。

 不可視のエネルギー刃を伸ばす『少年』の剣が上段より振り下ろされる。ゴッァ!! と空気を引き裂き、吹き荒れる余波で石造りの建物が軋み砕けるほどの暴風の中を、しかし不良騎士は真っ直ぐに突き進む。合わせるように長剣が跳ね上がる。激突、均衡。最大最強の『技術(アーツ)』エネルギーによる『剣術技術(ソードアーツ)』と『肉体技術(フィジカルアーツ)』の合わせ技、速く重く鋭い必殺の斬撃を単なる騎士の刃が受け止めたのだ。


「ハッハァ!」


 今度は『少年』の右足が跳ね上がらんとする。下から顎を打ち抜き、頭蓋骨を粉砕するつもりだったのだろうが、ガグンッ! とその動きが止まる。『少年』が足を動かすよりも早く、不良騎士の足が上から押さえつけ踏み潰したからだ。


「な、ん……っ!?」


「読めなかったか? そりゃーそうだ、どこぞのエルフにやられたみてーに()()()()()()()()からな」


『少年』は音速超過の挙動を叩き出す。そんな彼と同等にぶつかり合うガジルの動きもまた同じく。であれば、目で見て反応しては遅い。筋肉の収縮だの瞳の動きだの肉体表面に滲む前準備を捕捉、分析したって間に合うとも思えない。だからこその気配の感知。力の波動は肉体という表面よりも先に噴き出す。魔法にしろ『技術(アーツ)』にしろ、なんなら指の動き一つにだって内部でのエネルギーの消費が根本となる。それを感知、そこから次の動作を予測することで音速以上の戦闘域にて彼らは敵の攻撃を迎え撃つ。


 ……どこぞのエルフやバトルスーツの女も力の波動を感知することはできるだろうが、それをここまで精密な行動予測にまでは応用できない。それができないから彼女たちはそこまでであり、それができるから彼らはここまで突き抜けている。


 ならば。

『昨日』スフィアがやっていた気配の遮断をスフィアを圧倒するまでに極めたならば?


 そう、『少年』にさえも不良騎士の力の波動は完全に感知できなくなる。となれば力の波動以外を感知、分析するしかない。それだと遅いから、蹴りを封殺された。とするならば、


「一方的なタコ殴りだな、これは」


 ドッゴォン!! とガジルの拳が唸る。『少年』の腹部に突き刺さり、その肉体を薙ぎ払う。


 ぶぼっ!? と『少年』の口から噴き出した血液が宙を舞う。


「チッ!」


 それを見て、不良騎士はダンッ! と横に飛び退く。そこらの建物に激突した『少年』の代わりを務めると言いたげに血液が蠢き、十センチ程度の刃と変わる。


 何らかのスキルで力を得ているのだろう、宙に浮かぶ血の刃がその猛威を解放せんと迫る。


(嬢ちゃんがヘグリア国との戦争の後に話してくれた『運命』によると、スキル『憑依』は魂や肉体の簒奪を可能とするんだっけか。肉体は一つしか簒奪できねーが、魂はいくつでも簒奪可能、と。つまり魂依存の魔法やスキルに関しては『積み上げ』放題ってわけか!!)


「ふっ!!」


 ガジルが放った横殴りの斬撃に対して、血の刃はその切っ先を斬撃に向ける。ゴッバァ!! と切っ先から噴き出した血液が猛烈な勢いで斬撃と激突した。


 まさに高圧水流にも似ていた。

 ガリガリガリッ!! と受け止めたガジルの手首から嫌な音が連続する。あまりの負荷にガジルほどの男の肉体が悲鳴を上げているのだ。


 ざり、じりざり!! とその肉体がゆっくりと、だが確かに後ろに下がる。押し負けている。


(『技術(アーツ)』はあくまで肉体依存、魂依存のスキルで具現化された血の刃は無数のスキルで底上げしてるんだから、そりゃー肉体だけの力と互角じゃ足りねーわな)


 そして、それだけではない。

 魂依存はスキルだけではない。


「『炎の書』第九章第五節──煉獄招来!!」


 不思議とその声はガジルの耳に届いていた。距離にして百メートルは軽く殴り飛ばしているだろうに。それだけガジルが急速成長しているのか、風でも操作してわざと聞かせているのか。


 ガジルの剣は血の刃が押さえている。

 そこに駄目押しの漆黒の閃光。超高温の一閃に対してガジルにできることはない。


 いかに第七王女唯一の護衛といえども、いかなる未来においても大陸を統一することが確定している絶対勝者には勝てない。


 だから。

 だから。

 だから。



「セルフィー様あれお願いっ」


「はいっ、これですねミリファさまっ!!」


「うんばっちりっ。ようし、スフィアー! ぶん投げろーっ!!」


「いひひ☆ 任せるカモっ!!」



 ゴォッア!! と後方より猛烈な勢いで吹っ飛んできた少女が漆黒の閃光へと拳を叩きつける。そう、セルフィーが転移した肉体強化魔法を纏い、全身に魔法陣を刻んだ少女がだ。


 ギュオン、と漆黒が亜空間に呑み込まれる。

 魔力関連のみの出入り口たる魔法陣を通り、膨大な魔力が少女の魂に殺到する。


 異なる魔力を混ぜると、魔力は崩壊する。ゆえに普通の人間の魂であれば他者の魔法が接触した場合、魔力の塊である魂の崩壊に繋がる。ゆえに常時魔法陣を展開する肉体強化魔法は魔法と認められないほどの欠陥品なのだが、少女であれば話は別だ。


 魔力の捕食をトリガーとした金色の顕現。その魂は異なる魔力だろうとも糧として、力と変える。


 ブッア!! と金色のオーラが噴き出す。そのオーラを噴出することでスフィアに投げられた勢いを殺し、その場に降り立つ。


「ガジルさんっ。大丈夫!?」


「まぁな。しかし、あれだな。嬢ちゃん助けに来たんだが、逆に助けられるとはなー。情けねーことで」


「別にいいじゃん、みんな無事ならそれでっ」


「違いねー」


 なぜか青のスケスケネグリジェ姿の少女、つまりミリファだけではない。


 エリスはまだしも首都にいるはずのセルフィー、ついでにミリファ誘拐の容疑者たる(なぜかすっぽんぽんな)エルフまで後ろからぞろぞろとやってきた。


「おいおいなんで姫さんがここに? つーかこれどうなってんだ? 嬢ちゃん、エルフに誘拐されたはずだってのに、随分と仲よさそうじゃねーか」


「その辺はもうミリファさまのご病気のせいです。それより重要なことがあります。先ほどの男がアリシア国はおろか大陸を統一して、殺しをばら撒く者です」


「だろうなー。帝王、完全に肉体奪われていたし。あれだろ、『奴』が帝王の肉体を支配して、帝国を利用して、大陸を統一する『運命』は確定しているとか」


「では、これより『運命』を粉砕します、みんな揃って生きて帰ります! だから力を貸してください、我が騎士よッ!!」


 ぴくり、と騎士の眉が動く。

 その言葉は、つまり、


「了解、我が姫よ」


 ようやく王妃が埋め込んだ『妥協』を振り切れたのだ。勝てるわけがない、未来は確定している、できるのは破滅の仕方だけ。そんな戯言を信じ込み、カラに閉じこもり、一人孤独に背負うのはやめにするというのだ。


 騎士に頼ると、そう言ったのだ。


 ならば騎士としてやるべきは一つ。

 姫の願いを貫き通せ。



 ーーー☆ーーー



 その時。

 エンジェルミラージュは戦況を見つめていた。より正確にはミリファの力を分析していた。


(『黄』としては随分と手持ちが増えたようだと驚くばかりです。起床時と違い、使える力が増えたのは『雑音』の状態が関係しているからでしょうか)


 エンジェルミラージュは『少年』のスキルを一目で見破った。そう、かの天使は()()()()()()使()()()()()()()()()()


 そこで大気が震えた。

 ポーチから魔石を取り出したバトルスーツの女が『少年』とミリファ以外に聞こえるよう空気を振動させ、言葉を作り出したのだ。


(なるほど、そういうことですか。とするならば『習合体』としては託すのが最善でしょう)



 ーーー☆ーーー



 全て()()()()()()。ゆえにやるべきことは明白だった。


(十メートル以内にセルフィーとミリファを突っ込ませれば、確約された破滅を回避できる。だったら賭けてやる。これ以上ミリファが『運命』に怯えなくてもいいようにあの男をぶっ殺してやる!!)


 ポーチから魔石を取り出し、魔力を抽出。炎と風を具現化し、剣に纏める。炎風剣片手にエリスは隣のすっぽんぽんに視線を移す。


「この際何だって利用してやる。つーわけで力を貸せ、スフィアっ!!」


「いひひ☆ ()()()()()()()()()()()()()ならそれでもいいカモ。必勝パターンが通じない天敵を殺せるワケだしね」


 ダダンッ!! とエリスとスフィアが同時に飛び出す。百メートル先。建物にでも突っ込んだのか、粉塵漂う中に潜む『少年』めがけて。


 道を切り開くために。

 逆に言えば彼女たちが突っ込まないと道が切り開けないほどの『何か』があるということだ。


 心臓を鷲掴みにするほどの力の波動が荒れ狂っていた。その正体が粉塵の中から噴き出す。ゴッァッ!! と煌々と輝く斬撃波が放たれたのだ。


爆裂気剣(バーストスラッシュ)』。

 最大最強の『技術』エネルギーを秘める帝王の肉体より迸る必殺。対してスフィアもまた必殺を差し向ける。


「『極の書』第九章第二節──白雫カモっ!!」


 振るう右腕より噴き出す純白の閃光が対軍用に編み出された『技術』へと突き刺さる。直後、起爆。街を丸々吹き飛ばすほどの爆風を、しかし純白が包み込む。ごっぶう!! と包み込んだ純白が歪に膨らむ。沸騰した液体のように内側から暴れるが、それだけだ。やがて純白が押し潰すように収束、微かな光を残して霧散する。


「ハッハァ! 忘れたかエルフっ。ご自慢の『極の書』がどうなったかをよ!!」


 続く。追う。

 ブォン、と展開された魔法陣が不気味に輝いたかと思うと、漆黒の光が溢れ出す。


「『炎の書』第九章第五節──煉獄招来!!」


 具現されるは光速の熱線。標的が大陸のどこに逃げようとも一瞬で貫き、蒸発させる漆黒の光である。スフィアの『極の書』第九章が『少年』の『炎の書』第三章に打ち破られたことを考えるならば、そこには歴然たる力の差があることが推察される。


 スキル『憑依』。

 これまで殺し殺されてきた魂共を『積み上げた』末に放たれるその魔法は膨大な魔力量で底上げされている。物量にて章の差を踏み越えるその猛威、章の数さえも同等ならばどれだけの『差』が生まれるだろうか。



 だから。

 だんっ!! と更なる影がスフィアたちを追い抜き、漆黒の光に突っ込んだ。



 その影は魔法陣と金色を全身に纏い、その魂は異なる魔力さえも喰らい力と変える。つまりはミリファ。第九章、それも既存のそれよりも遥かに膨大な魔力を喰らい、金色をこれでもかというほど輝かせる。


 瞬く間に漆黒の閃光は吸い込まれた。

 魔法陣を通じて、ミリファの魂が丸々捕食したのだ。


「お前が『みんな』でぐーたらする日常を壊すというなら、()()()()()()()()()()!!」


「魔力の捕食、……ハッハァ! そうかそうかァ!! お前があの女が言ってた『神秘の始点』かァッ!! ヘグリア国とアリシア国との戦争で観測されたって話だったが、なんでここにいるんだァ? まァいい、いるなら喰らってやるよ。『挑戦権』を先に手に入れるのもまた一興だしなァ!!」


 ダァンッ!! と地面が揺れたかと思えば、『少年』の周囲の地面が蠢き、噴き出し、形を変える。瞬く間に数十もの土くれの巨像が生まれた。


 数メートルもの体躯とそれに匹敵する大剣を持つ土人形。『土の書』第九章第三節──魔神兵。


 初級でさえもスフィアの第九章を打ち破る『少年』の魔法だ。その巨像に秘められしエネルギーもまた膨大なものだろう。


 だが、


「ふっふっふう!! 魔法は通用しな──」


「馬鹿ミリファっ。逃げなさい!!」


「ふにゃ?」



 ゴッッッ!!!! と。

 振るわれた大剣がミリファの脇腹に突き刺さる。



「が、あぶ!?」


 スフィアやエリスでさえも目で追えないほどの斬撃速度であった。いかに魔力関連だけを通す魔法陣を展開しているとはいえ、大剣の構成物は土くれである。猛烈な速度で振るわれる大質量はそれそのものが凶器と化す。


 ボロ、と大剣の表面が崩れるが、それだけだ。

 ある程度の魔力は魔法陣を通って捕食されたのたろうが、それはあくまで触れ合った箇所のみ。土くれという壁を挟んでいる以上、炎を取り込むようにダイレクトに魔力を亜空間に送ることはできない。


 真横に吹っ飛んでいった()()()()()()()。変に気負って、足踏みするよりはと作戦を伝えていなかったのが仇となった。このままでは『少年』に対する切り札が完成しない。


 ゴァッ!! と数メートルもの巨像が、しかしエリスやスフィアと遜色ない速度で駆け抜ける。そのままエリスやスフィアへと身の丈以上の大剣を振るう。


 単純な大質量。

 そんなものでは収まらない、凶悪な魔力が暴虐と化す。


「く、そ……ッ! 当初の予定通り聖都見捨てて逃げれば良かったっ!!」


「いひひっ。ここまできたら道連れカモっ。最後まで付き合えカモお!!」



 ーーー☆ーーー



「ふにゃあ!?」


 ドン、バン、ダダンッ!! と地面を何度もバウンドするミリファ。金色のオーラがなければその衝撃だけで擦り切れていただろう。


 エリスたちの姿が米粒に見えるほどの距離を吹き飛ばされたというのに、ちょっと頭に響くくらいで済んでいるほどに金色の力は増していた。


 第九章を二発。

 それだけで先の戦争の時以上の力を発揮している。それだけあの『少年』の魔法は強大なのだろう。


「ちく、しょう……ッ! 早く殺さないと、みんなが殺されちゃう!!」


『運命』が『少年』の大陸統一で固定されているから。それを壊せなかったならば、来たる戦争で大切な人たちが殺されると定まっているから。


『運命』。

 その中心たる『少年』はガジルや『天空の巫女』を殺そうとしていた。それで十分立ち向かう理由になる。来たる破滅に抗うには、真っ向から挑み、粉砕するしかない。


 そうしないと、覆さないと、全てを失うと『運命』が定めているのだから。


 ブワッ! と風が吹いたかと思えば、隣に降り立つ影が一つ。背中の翼に頭上の輪っか。つまりは『天使』である。


「今はあの者を止めるのが先決です。ひとまず流れを利用するとしましょう」


「ミラージュさんっ!」


「『習合体』では足りませんでした。ですがミリファならば別です。我が全能なる女神に捧げられし祈りを使い、『奴』を倒してください」


 瞬間。

 カッ!! と猛烈な光が天空より降り注いだ。

 それは白にも黒にも見える光の柱。五億以上もの信者、いいやそれこそ大陸全土の人間が知らず知らずのうちに捧げていた魔力の奔流である。


 祈りの集積。

 捧げられし魔力が魔法陣を通じてミリファの魂へと集う。


『ミリファさん……』


 魂とは魔力の塊ある。

 魂には人格データが刻まれている。

 魂から搾り出された魔力越しに想いを伝えることができるのはエリスが証明している。


 であるならば。

 ミリファが誘拐されたことを知り、漠然とした何か、つまりは女神に祈りを捧げた少女の想いもまた降り注ぐ光の柱に刻まれているのではないか?


 たった一つの祈り。

 己が力が及ばない困難に直面した際、人は漠然とした何かに強く祈る。その何かが大陸中に広く浸透している女神という偶像と捉えられていた。ゆえにその想いもまた魔力越しにミリファの魂に強く強く伝わっていく。



『どうかご無事で』


「うんっ! みんなで無事に帰るからね、ファルナちゃんっ!!」



 さあ覚悟は定まったか。

 ならば立ち向かえ。あらゆる未来において大陸全土を支配することが確定している終末の絶望を打ち砕き、いつも通りのぐーたらライフを取り戻すために。

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