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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第八十六話 よし、襲撃しよう その十二

 

 ガジル。

 第七王女セルフィー唯一の護衛であるが、いくら無能たる第七といえども王族たるセルフィーの護衛をたった一人に丸投げするなど本来であればあり得ない。


 ならば彼はなぜ第七王女唯一の護衛なのか。

 そんなの彼が例外的に強いからだ。


 単純な力量もそうだが、彼の本質は壁にぶつかった時にこそある。強敵とぶつかり、困難に直面して、敗北した、その後にこそ彼の本質はある。


 尋常ならざる成長速度。

 仮想敵を瞬殺するまでに成長する、その本質。


 スキル『ですらない』単なる成長速度の高速化。壁を乗り越えるというトリガーがあれば、彼は必ずや『圧倒』するまで成長する。


 第七王女唯一の護衛。

 不真面目な不良騎士であろうとも手離したくないと思えるほどに突き抜けたガジルの力の一端でそれだ。全貌は未だ見えず。そう、そこまで規格外の本質さえもまた一端、ここから先広がるのは不真面目が覆っていた怪物の本領である。


「ふっ!!」


「ハッハァ!!」


 敵を圧倒するほどの尋常ならざる成長速度持つガジルと敵を殺し魂を簒奪する『少年』がその手に握った得物をぶつけ合う。


 いつか必ず相手よりも強くなる。

 変動的に頂点を強奪する特性持ち同士の殺し合い。


 最強なんてものは独占しなくとも良い。

 その座に君臨する誰かを蹴落とし、踏み出しにして、勝利をもぎ取らんと言外に告げるように。



 ーーー☆ーーー



 ぴくり、とスフィアのとんがりお耳が動く。

 噴き出す力の波動、防壁を粉砕して侵入してきた『少年』が自由になった上に、


「い、いひひ。『昨日』とは別人カモ。なん、こんな、ガジルの奴なんでアタシよりも遥かに強くなっているカモ!?」


「チッ、事態が収束したならってミリファの好きにさせていたけど、そう甘くはなかったわね」


 あまりといえばあまりな不良騎士の成長速度に驚愕を隠せないスフィアやポーチから魔力入り魔石を取り出し逃走の算段に入っているエリス。そんなことに気づかないほどセルフィーは深く思考に没頭していた。


 ミリファの救出。

 セルフィーの個人的な感情が発端ではあるが、ミリファを軸として『運命』を望む方向に進めようとしていた王妃にとっても必要なことだったはずだ。


 だが、王妃は救出に乗り気ではなかった。

 ミリファという舞台装置が必要なはずなのにだ。


『所詮は「運命」の果てに潰える命、そんなもののために王妃たる我が身が尽力すると思っているのですか?』


 確かにその通りかもしれない。

 そうして潰えるミリファを使い、アリシア国の立場をより良くするために王妃が動いていたのだ。


『残念ですが「運命」は脱線しました。ここまで脱線しては想定していたルートに戻すのは困難でしょう。ゆえにあの側仕えの価値は失われています。……皮肉なものですね。第七の娘の目論見通りあの側仕えを使い潰す必要がなくなったせいで我が国が彼女を救う理由が消失したのですから』


 アリシア国とゼジス帝国との戦争。

 それこそが『運命』の分岐点。そこでミリファを中心にゼジス帝国に食らいつくことでアリシア国『全体』の印象を操作する、それが巡り巡ってほんの僅かの生き残りのためとなる。せめて誇りを守り、ほんの僅かの生き残りのその後の扱いを改善する。それが王妃の狙いだが、彼女の口ぶりからどうやら『運命』は脱線したようだ。



 なぜ?

 ミリファは救い出せた、後は連れ帰ればいいだけなのに、どこに脱線するような要素がある???



「……まさか」


 ミリファが舞台装置として必要なのはゼジス帝国との戦争時にアリシア国『全体』の印象を操作するためだ。ミリファ個人もそうだが、第五王女や王妃、各騎士団長などをぶつけることで『全体』の力を示し、印象つけることが第一条件である。ここが最低ライン。ミリファが欠けては他の強者だけで『全体』の印象操作には足りない。


 だからわざわざミリファを招集した。

 もしもアリシア国所属のミリファ個人をぶつけるだけでいいならとっくの昔に仕掛けていただろう。だが王妃は待っていた、ゼジス帝国が攻めてくるまで。


 そこにはどんな意味があるのか。

 そんなのアリシア国『全体』の印象操作のために決まっている。ミリファ個人で攻め込んだってミリファ個人が評価されるだけだ。そこからアリシア国『全体』の印象操作には繋がらない。


 アリシア国を攻める時、ミリファ含むアリシア国戦力を投入することではじめて印象操作は達せられる。そうなると、王妃の未来視は判断したのだろう。


 では、脱線した理由は?

 救出に乗り気ではなかったのは、今からではミリファを使ってアリシア国『全体』の印象操作を行うルートが潰えたからだろうか。


「まさか!!」


『運命』の主は帝王の肉体を支配して、アリシア国を含む大陸全土に侵略を仕掛ける。そう、『奴』はゼジス帝国を手駒とする。


 ミリファの記憶を転移、辿ればその理由に行き着く。そう、魔女の魔法で消し飛んだ大男はゼジス帝国所属。『十二黒星』の一人が聖都に攻め込んでおり、他にも何人か攻め込んでいるということは、つまり、つまり! つまり!!



「帝王の肉体を支配した『奴』がここに、来ているんですか? だからお母様は脱線したと、ここからの挽回は不可能だと判断したんですか!?」



 前述の通りミリファが必要なのはアリシア国『全体』の印象操作のためだ。アリシア国戦力として戦わないと(王妃にとっては)意味はない。ならば、その前に印象操作を仕掛けるべき『奴』とぶつかるならば? その邂逅が、その末の死が避けられないものだとするならば、王妃がミリファを見捨てるのも納得できる。加えてミリファとセットでないと本領を発揮できない無能(ゼロ)の好きにさせたのも、すでにセルフィーの利用価値がなくなったからだろう。


『奴』がやってくる。

 その邂逅は、その末の死は避けられない。

 王妃の未来視が見通したならば、それは絶対だ。



 と、前までのセルフィーならば諦めていただろう。



「ミリファさま。わたくしは諦めたくありません」


「うん」


「ミリファはもちろんのこと、『奴』がわたくしの家族を殺し、アリシア国を滅ぼし、大陸を統一して──強者の理屈で好き勝手に殺しをばら撒くことを許したくありません」


「うん」


 想いの転移。

 千四百以上もの人格データを跳ね除けるために絶え間なく想いを伝えているからか、セルフィーの思考はミリファに筒抜けであった。


 だから、余計な言葉はいらない。

 端的に、単純に、言い放つだけでいい。



「どうでしょう、ミリファさま。お母様が見通す無数の未来の中には存在しなかった、『奴』を倒してみんなで生きるなんてルートを目指しませんか?」


「うん、それがセルフィー様と共に生きるために必要なら、いくらだって挑戦してやる!!」



『奴』からは逃げられないだろう。

 いや、万が一逃げられたとしても、いずれ必ず攻め込んでくる。殺し合いは回避できない。ならば、抗え。思考を回し、努力して、前のめりに突っ込め。


(想いの転移、ですが全て転移する必要はないみたいですね。()()()()()()()()()()()()()()()


 ほっと一息つくセルフィー。

 『運命』通りいずれ攻めてくる絶対に勝てない怪物を倒さないと生き残れない。そこまでミリファへと転移したセルフィーはその奥の思考を覆い隠す。これは、ミリファが知る必要のないことだと。



 ーーー☆ーーー



 そして、そんな第七王女の思考の『全て』をエリスは把握していた。『魂から響く声』を聞くその特技でもって。


「はぁ。()()()()()()()()()()()()わね」



 ーーー☆ーーー



 その時、ダークスーツの女は子供達を地下にある避難所まで連れてきていた。他にも聖都内のほとんどの人間が詰め込まれた避難所の中で不安そうに視線を彷徨わせる子供達の頭に手を乗せ、優しく撫でる。


「大丈夫、ここに危険はない」


「で、でもよっ、あの新入りたちがいねえぞっ。探しにいかねえと!!」


 そう叫ぶのは鬼ごっこの際にミリファを逃がすため鬼役のスフィアに突っ込んでいった男の子だった。不安に押し潰されそうなくせに、そう言えるのは彼が男だからか。ここで格好つけられないならば、男とは言えない。


「駄目、外は危険がいっぱい」


「だがよ、そんな場所にあいつは取り残されてるかもしれねえ! エルフの人や巫女服の人もだ!! 見捨てられるか、放っておけねえよ!!」


「人混みに隠れているだけで、ここにいるかもしれない」


「じゃあ探さないと!」


「それは私がやる。だから、ここにいて」


「でもよっ」


 なおも食い下がる男の子の額に指を添えて、押しとどめて、ダークスーツの女はしばし考え込む。ここで言うべき『建前』は何が適切なのか。


「せっかく見つけても、合流できなかったら意味がない。だから、ここにいて。私があいつら連れて戻ってくるから」


「おれも行く!」


「駄目」


「駄目でも行くんだ! じゃないとおれはおれを許せねえ!! 避難できているならそれでいい、だけどそうじゃなかったら? 今もなお外で恐怖に震えていたなら? そんな時に何もしねえで安全な場所に引きこもっているだけなんて最低だろうが!! 新入りだろうがなんだろうが、友達が困ってるなら助けてやるんだよ!!」


「…………、」


 ダークスーツの女は考える。

 正解はどこにあるのか、と。


「おれは行くぞ。おれがおれであるために!!」


「……、分かった。だったらひとまずここを探して。外にいるとは思えないから、絶対にここの中から探し出して」


「分かった!!」


 そうして一目散に駆け出す子供達を見送り、ダークスーツの女は背を向ける。外に歩を進める。避難所に彼女たちがいないことなんて分かりきっていた。そんなことも探知できないほど、彼女の性能は低くはない。


(外はあいつらに任せて、中は私が担当しようと思った。だけど、それじゃあ駄目みたい。だったら何とかしよう。外で恐怖に震えている、かはともかく、外の問題を迅速に解決して、あの子達を安心させよう)


 壊れた思考の末、しかし導かれたものにダークスーツの女は満足さえしていた。それが製造理由にそぐわないものだとは何となく分かっていても、こうして動いている己の行動に胸を張ることができるのだから。



 ーーー☆ーーー



 前提条件はすでに出揃っている。

 スキル『憑依』を持つ『少年』は勝利も敗北も力と変える。単純な力をぶつけても、その力を奪われるのみ。そんな『少年』を止められない場合、大陸規模での『弱者への蹂躙』が始まる。



 鮮血と死に満ちた暗黒の時代の到来。

 そんなものに大切な人々が呑み込まれるのが嫌ならば、抗え。



 圧倒的な絶望を打ち破ることこそが、『運命』の渦から大切な人々を救い出す唯一のルートなのだから。


 では。

 スキル『憑依』を打ち破る突破口はどこにある?

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