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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第八十話 よし、襲撃しよう その六

 

 三つ巴の戦闘の中心には大男の存在があった。魔女やエルフを一刀で屠る力を秘めし大剣はただそこにあるだけで戦場を支配する。


『十二黒星』。

 ゼジス帝国の軍事力そのものともいえる最上位幹部の一人。


 かの存在がガス欠で倒れる前に魔女が両断されエルフが再生不能なまでに消耗するかどうか。極限の持久戦は自ずと長期戦となる──はずだった。


 ザンッ!! とスフィアの胴体が斬り裂かれ、半ば以上もの臓器の残骸が傷口からこぼれ落ちる、その瞬間。


「いひひ」


 ガシッ!! とエルフの手が大男の大剣の柄を掴み取る。一瞬でいい、武器の動きを封じることさえできたならば、


「にひ☆」



 ゴッバァ!! と漆黒の炎槍が突き抜けた。エルフの背中に隠れた魔女が当のエルフを貫く形で上級魔法を放ったのだ。



 そう、その先の大男を巻き込む形で、だ。


 前述の通り大男には大剣しかない。その刃に秘められし膨大なエネルギーを類い稀なる技能で振るっていたからこそ魔女やエルフとも対等以上にやり合うことができていた。


 ならば、その大剣が封じられれば?

 鍛えられているとはいえ、生身の肉体が上級魔法の熱量に耐えられるわけがない。


 そのまま突き抜けた。

 大男とエルフ、双方の肉体をカケラも残さず蒸発させて。



 その時、スフィアは勝ちを確信していた。

 魔女とエルフ。末席と第四位。薄皮挟んだその先の連中の序列には不満しかないが、少なくとも魔女とエルフの力の差に関してだけは正確な判断を下している。


 魔女モルガン=フォトンフィールドは己だけの力では第八章魔法までしか具現化できない。『魔力隷属』で魂だけの存在を操ることでしか第九章には手が届かない。


 対してスフィアは己の力だけで第九章魔法を操る。魔女の得意分野たる魔法でさえも上回っている以上、強靭な肉体や超高速回復スキルを併せ持つスフィアにモルガンが勝てる可能性はゼロに等しいだろう。


 だけど、そう。

 単純なステータスだけでいえば魔女やエルフを上回る大男はどうなった?



 その時、スフィアの肉体は漆黒の炎槍を受けて消し飛んでいた。大男を巻き込み焼き殺すために防ぐわけにはいかなかったのだが、それこそが致命傷だと気づくべきだった。


 勝負は力だけで決まらない。

 状況や練度や相性などの複数の要素が絡み合った末に結果は訪れる。


 スフィアは死を自覚する数秒間の間ならば致命傷さえも癒す。それこそ炎槍でカケラも残さず蒸発したとしても。


 だが、今この瞬間だけは肉体を失っているのだ。明確には死んでいないとしても、この時だけは()()()()()()と化している。


 この一瞬。

 大男が死に、エルフが肉体を失ったこの瞬間こそが魔女の殺しの本領である。



『魔力隷属』。

 肉体から魂を引き離すことはできないが、死者の魂であれば支配できる魔力操作スキル。であるならば、魂だけの存在たる今のスフィアの魂もまた支配できるのではないか?



 ぐにゅっぬう!! と。

 亜空間より白にも黒にも見える魔力の塊、つまりは魂が現実世界に引きずり出され、魔女の右手に掴み取られる。


 スフィアの魂の掌握。

 命の支配。


 肉体を再生するはずだったスキルが不発で終わる。肉体が再生する前にスフィアの魂がモルガンの支配下となったがために。


「にひ☆」


 上げて落とす、その落差。

 自分だけは生き残る、今回は勝てる、負けるわけがない。根拠なき自信溢れる意思を踏みにじる甘美なる殺し。絶望を引き出すだけ引き出して殺すのも好みだが、唐突に呆気なく終わらせるのもまた好みであった。


「にひ、にひひっ、にひひひひひひっ!! 死んだ、殺した、やってやったあ!! こんなの、うわ、スフィアを殺したにゃーっ。過去に何があったか知らないけど、自分が世界最強だと証明するために薄皮挟んだその先の序列上位どもを『引きずり出す』ためだけに『魔の極致』となり、大陸中の生物をまるっとぶっ殺す計画に手を貸すくらいに力に取り憑かれたエルフをだよー!! 今どんな気持ちなのかなー? 世界最強となるためなら世界を滅ぼすことも厭わない、そんな覚悟で生きていた最後が格下に呆気なくぶち殺されるなんてものだったんだよ??? ああ可愛そう。こんなの哀れ過ぎて笑いが止まらないよねー!!」


 悪趣味の極みだった。

 これこそが魔女の本領である。


 打ち破ったはずの悪意。目的のために殺しをばら撒くのではなく、殺すために殺しをばら撒く生粋の殺人鬼。


 より濃密で、より麗しく、より蕩ける殺しを。

 ならば、ここで見逃す理由なんてどこにもなかった。


「さ・て・と」


 その視線の先には一人の少女。

 大通りの片隅に倒れる彼女を殺すのに、ここまで相応しい展開は早々ないだろう。


 (ミリファ)の肉体で(エリス)を殺す。そんなの想像しただけで気が狂いそうな快感が爆発する。


「妹の手で死のうか、お姉ちゃん」


 そして。

 そして。

 そして。



 ーーー☆ーーー



 アリシア国、首都。

 主城の最上階にある王妃の私室、そのベッドの上でピクリと王妃の瞼が動き、


「あ、お母──」



 ガッシィ!!!! と。

 第七王女セルフィーの顔面を王妃の手が鷲掴みした。



 バギ、メキメキッ! と頭蓋骨が軋む音が響く。

 合わせて低い、とてつもなく低い声が一つ。


「我が第七の娘ならばよくもまあほざいたものですね。実の母親よりもそこらの側仕えが大事ですかそうですか。側仕え一人を救うために我が身に鞭打てだなんて、ふふ、ふふふふふっ!!」


「あっ、あう、はぐう!? お母様待ってください痛いです潰れます頭がぷちってなりますう!!」


「全く。これも『運命』の導き、いいえ『繋がり』の結果でしょうか。どちらにしてもとんだ仕打ちに心が張り裂けそうなことに変わりはありませんが」


「う、ごめんなさい。お母様が大変なことは分かっています。ですが、それでも! わたくしには、無能にはミリファさまを救う力はないんです、だから!!」


「所詮は『運命』の果てに潰える命、そんなもののために王妃たる我が身が尽力すると思っているのですか?」


「ッ、!!」


 切り捨てるような言葉に、しかしセルフィーは諦めるわけにはいかなかった。状況証拠よりエルフに誘拐されただろうミリファを見つけ出し救うには相応の力が必要なのだから。


 無能の第七王女セルフィー。

 彼女にそんな力はない。


 だから、すがるしかないのだ。

 みっともなく、死んでいないのが不思議なほどに肉体内部をズタズタにされた王妃(さいきょう)に助けを求めるしかないのだ。


 ……本当ならこの手で救いたいに決まっていた。魔女に殺されそうになった時駆けつけてくれたミリファのように。今度はセルフィーがミリファの危機に駆けつけたいに決まっていた。


 だけど、そのためには必要なのだ。

 大切な人を救えるだけの力が。


「お母様、お願いします。ミリファさまを助けてください!! いや、そうです、お母様はミリファさまを利用するつもりだったではないですか!! だからっ!!」


「残念ですが『運命』は脱線しました。ここまで脱線しては想定していたルートに戻すのは困難でしょう。ゆえにあの側仕えの価値は失われています。……皮肉なものですね。第七の娘の目論見通りあの側仕えを使い潰す必要がなくなったせいで我が国が彼女を救う理由が消失したのですから」


「……それでも。それでも、わたくしにとっては価値ある人なんです! 『運命』なんてものがなかったら、ミリファさまが差し伸べてくれた手を掴めたはずなんです。友達になりたいって、こんなわたくしにそう言ってくれたミリファさまと共に歩みたいんです!! だから助けてください、助けろよお!!」


 王妃はアリシア国の実質的なトップである。

 その身は国家に尽くすために存在する。

 ゆえに全ての事象はアリシア国のためになるかどうかで判断する必要がある。


「我が身『が』あの側仕えのために動く価値はありません」


「う、ううう!!」


「ですが」


 だから王妃は動かない。

 だけど無能はそもそも公的な場に出ず、執務に関わりがなく、権力なんてカケラも与えられていない。


 ゆえにどう動こうがアリシア国にとってプラスにもマイナスにもならない。なぜなら無能(ゼロ)なのだから。


 だからこそ。

 好きに動いたって構わないとも言える。


「第七の娘の力で側仕えを救う分には何ら問題ありませんよ」


「な、にを……無能に何ができるというんですか! わたくしはウルティアお姉様のように絶対的な暴力を持っているわけでもなければ、オリアナお姉様のようにたくさんの味方がいるわけでもなく、ミュラお姉様のように政治に関与できるだけの頭脳があるわけでもありません!! 魔法なんて欠陥魔法と言われている肉体強化しか使えませんし、それだってすぐに霧散します。スキルだって効果範囲は精々十メートル、『転移(赤い糸)』はミリファさままで届きません。なにも、ないんですよ。わたくしはミリファさま一人救う力も持ち合わせてはいないんですよお!!」


 魂の底から絞り出したかのような叫びだった。

 対して王妃は悠然と微笑むのみ。その身には依然として深い損傷が刻まれており、身が裂けるような激痛が走っているとしても──醜いまでに己をさらけ出す娘のために『王妃としての立場も加味して』、一歩踏み出せる道を示す。


 それは『運命』の枝葉の一つ。

 王妃が脱落し、『運命』が想定より脱線したがゆえに目指していたルートへの合流が果たさなくなった。そのために指し示すことができる、その道にこそ。



「第七の娘のスキルは側仕えまで届きますよ。『繋がり』を支えに魂を雁字搦めにしている『転移(赤い糸)』を手繰り寄せるだけで良いのですから」



 ーーー☆ーーー



 千四百以上もの『人格データ』。

 ミリファの魂を犯す無数のデータの中から色濃い人格が主人格としてミリファの肉体を支配した。


 つまりは魔女モルガン=フォトンフィールド『のようなもの』。元となった人物は既に死に、残った断片データが無数の人格データと交わってかの魔女『のようなもの』を形作っていた。


 その波にミリファという人格は呑まれた。

 姉を救いたい。たったそれだけを願い、しかし彼女にはそれを叶える力はなかった。


 ゆえに手を伸ばした。

 それが根本的な解決とならないことは分かっていたが、それでも焦がれてしまったのだ。



 あのままでは確実に姉は殺されていた。

 ゆえに魔女に魂を売ってでも姉を救う力を欲した。



 では、その結果は?

 そんなの心の底ではミリファも予想できていた。


「妹の手で死のうか、お姉ちゃん」


 展開されるは魔法陣。

 放たれるは漆黒の炎槍。

 ミリファの肉体を使い、エリスを殺す。魔女らしい悪趣味が広がる。



 その。

 寸前のことだった。



 ────ミリファさまっ!!



 魂を穿つ想いが炸裂した。

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