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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第六十五話 よし、パーティーしよう その五

 

 ミリファは遠い目をしていた。ここではないどこかを見つめるように。目の前の光景から全力で目を逸らそうと、だ!



 ゴンドンバッゴォン!! と。

 ジョッキと樽がぶつかり合っていた。



 第七王女セルフィーとファルナ、王族だメイドだまるっきり無視して、まさかの真っ向からの肉弾戦であった。


 あまりといえばあまりな光景に流石のミリファも酔いが覚めた。というかなんでミルクで酔っていたのやら。場の空気とは恐ろしいものである。


 と。

 そこでジョッキに度数高めの高級酒をなみなみ注いだ料理長が声をかけてきた。


「よお腹ペコ小娘っ。なんだなんだ元気ないなっ」


「あ、あはは。元気なんてあるわけないじゃん……これ大丈夫? 明日にはファルナちゃんの首飛んでない!?」


「はははっ! パーティーってのは羽目を外すもんだっ。酒の席でのアレソレを後でとやかく言うほど我が国の王族はちっちゃくないさっ!!」


「っていうか、なんでこうなった?」


「そんなの決まってるだろ。みんな腹ペコ小娘が好きなんだよ」


「……? 私もみんなのこと好きだけど」


 ここでそう即答できるのがミリファの良いところであり悪いところであった。これはいずれ拗れるかもな、とも思ったが、料理長は特に何も言わなかった。というか言えるわけがなかった。


 ガッゴンバッゴン!! とジョッキやら樽やらをぶつけ合う少女たちを見たら、下手に何か言ったことで『決定づけてしまった』時、飛び火が凄まじいことになるからだ。暴力も権力も財力も思いのままのコイスルオトメほど怖いものもない。


「頑張れよー腹ペコ小娘。男なら何かあった時は殴り合えば解決するが、女ってのは拗れたら怖いからなぁ。いやまあ『あいつ』くらい分かりやすい脳筋な女もいるにはいるんだが」


「???」



 ーーー☆ーーー



 首都近郊、森の中の洞窟にて。


「百二十八番っ! 廃墟に一泊することになった時のリーダーっ! ──わ、わひゃあ!? 今音なったってオバケいるって絶対い! やだやだオバケやだあ!!」


「あったねぇそんなこともぉ」


「ねえあれってもちろん涙目よね!? 可愛らしく震えていたのよね!?」


 なんか混ざっていた。懐かしさに目を細めるおしゃれさんに詰め寄っているのはエリスだった。


 誕生日会の余興として語られるリーダーの過去。そんなのエリスにとっては宝の山であった。『声』では聞けなかったものもこうして複数の視点から語られるのだから、もう、最高なのである。


「そんなの当たり前だってぇ。小動物みたいに部屋のすみでプルプルしてたよぉ」


「なにそれ可愛い!!」


「それだけじゃないぜえっ。夜中にトイレについてきてって全員を叩き起こしたんだぜ! 一人二人じゃなくて、まさかの全員っ」


「かーわーいーいー!!」


 かんっぜんに馴染んでいた。誘拐云々の際にフルボッコにしたされたの関係であるというのに、十年来の親友のようにだ。


 共通の話題が少女たちとエリスを繋げた。

 つまりはリーダーという共通の『好き』が起点となった。我慢できなくなったエリスが少女たちの輪に飛び込み、リーダーについて根掘り葉掘り聞き出そうとして、気がつけば馴染んだというわけだ。


『好き』の連鎖、その真骨頂。

 リーダーとしても仲間とエリスがいがみ合うよりは仲良くなったほうが嬉しいは嬉しいのだが、こうも簡単に仲良くなられるとそれはそれでもやっとするものなのだ。


「そうだぁエリスぅは何かないのぉ?」


「ふっ。とっておきがあるわよ」


「ん? とっておき??? エリスそれって──」


 嫌な予感がした。

 直後に予感は的中する。



「百二十九番っ! あたしを助けに来てくれた時、こう言ってくれたのよ!!──好き、大好き。私はエリスのことが大好きなんだからあ!!!!」


「ぶふっ!? ばっ、ばば、ばーか!! 何を言っちゃってるのよおーっ!!」



 エリス、完全な蕩け顔だった。頬を興奮からか赤く染めて、両手を胸の前でぎゅっと握りしめて、ぴょんぴょん跳ねていたりする。


「好き、大好きって、言ってくれて、えへ、えへへ〜」


「惚気るねぇ」


「好意の種類は違うけど気持ちは分かる! 嬉しいよね、リーダーからそんなこと言われたらっ!!」


「(もう付き合えばいいのに)」


 散々だった。

 もう、なんというか、散々だった。


「うおおおお! 私たちを容赦なくフルボッコにして誘拐された公爵令嬢を救い出したヒーローはどこにいったあ!?」


「ふへ、えへへっ。あたしも好きーっ!!」


「すっ、好きって、私もだけど、じゃない! 戦争の時でもいいゾジアックに立ち向かった時でもいい、悲劇が広がる前に格好良く駆けつけた勇ましい顔を取り戻してよお!!」


 ヒーローなんてどこにもいなかった。

 目の前には頬を赤く染めて、蕩けたように笑みを浮かべる、ただの女の子がいるだけだった。



 ーーー☆ーーー



 主城に通じる正門では二人の騎士が真面目に門番の務めを果たしていた。ミリファのお疲れ様パーティーとやらが開催されていることは聞いているが、今日も今日とて門番であった。


 と、その時だ。


「ふひー……なんとか抜け出せたー」


 多くの使用人が遠ざけられている中、第七王女が側仕えを続けられている有名人の登場だった。


 つまりはミリファである。


「あれ、パーティーの主役がこんなところで何を?」


「あ、あははっ。そろそろ帰らないとお姉ちゃんが心配するんだよっ。決して逃げたわけじゃないから!!」


「?」


 何はともあれ帰るというなら引き止める理由もないので、門番たちはそのまま通そうとした。


 その時だ。

 ばちんっ! と額に手をやり、ミリファの表情が歪む。まるで頭痛でも我慢しているかのように。


「っづ……!!」


「どうかしたか?」


「い、いや、大丈夫、だよ。あの戦争の後から、たまに……ああもう!! 本当うるさいな、この『雑音』っ!!」


「雑音? 音なんて──」


 事態は猛烈な速度で移りゆく。

 直前の雰囲気を丸々吹き飛ばすように。



 ぞわり、と。

 破滅的なまでの感覚が門番二人の脳髄に潜り込んだ。



「「ッ!?」」


『何か』がいる。

 身動きがとれなくなるほどの恐怖の主が。


「いひひっ。食べ歩きしてたら来るの遅くなったカモっ」


 それは黄色のパーカーを着たエルフの女だった。余った袖をぷらんぷらんと揺らす彼女は肉串でも食べていたのか、口元についていたタレを舌で舐めとる。


「やあやあ、金色メイドっ。『魔の極致』が第四席、スフィアが遊びにきたカモっ」


 彼我の距離は二十メートルはあっただろうか。

 そんなもの意味はなかった。


「……逃げろ。あんなの──ッ!!」



 ゴッドン!! と。

 気がつけば黄色パーカーの女エルフがミリファの目の前に立っており、響いた鈍い音と共に門番の二人が崩れ落ちる。



 どこに何をされたのかなんて把握できず。

 意識を刈り取られたという結果だけが広がる。


「むう。ガジルくらいとは言わずとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()黒獣騎士団の騎士たちくらいには頑張ってもらいたかったカモ。まあどっちも大して長持ちしなかったワケだけど」


『魔の極致』第四席、スフィア。

 かの魔女やダークスーツの女よりもなお高みに存在する怪物の魔の手が伸びる。



 ーーー☆ーーー



 ざ、ざざ。

 ザザザ……ッ。



(気持ち悪……っ、あ、ぐうう!!)


『それ』はあの戦争の後から突発的に発生していた。仕事やパーティー中にはなりを潜めていたが、完全になくなったわけではなかったようだ。



 ジジッ。

 ザザザザザッ!



(『誰』が……ぶぇ、はぐっ!)


『それ』は脳に熱して溶けた鉄でも流し込んだような痛みと喉の奥を素手でまさぐられるような気持ち悪さとが重なったような苦痛が続く。


『雑音』。

 だが、意味のない音ではない。

『誰』、と。そう疑問を挟むということは──



 ざざ、ジザザッ!

 ザザザザザザザザザザッ!!



(うるさい……)


 戦争の後から発生するようになった、ということは、この現象の原因はあの戦争の中にあるとも考えられる。


 では、あの戦争においてミリファに起きた変化はなんだったか。決まっている、金色のオーラを纏い、『何か』を覚醒させたはずだ。


 つまり、原因は金色の『何か』、なのか?

 本当に???



 ザザザザザザザザザザッ!!

 ざ、ざざ、ジジッ……にひ☆



(うるさいうるさいうるさいッッッ!!!!)


 あの戦争においてミリファは死者の魂を取り込むことで金色の力を糧とした。エネルギー量だけなら四十九万にまで増幅された七百もの魂を二回。そして()()()()()()()()()()()()()さえも。


 めくり上がった胸板の中の魔石の数々。そこには『勢力』内で発生した死者の魂からスキルとなる部分を抽出、『献上』されたものが収まっていた。つまりは魂の欠片がだ。



 さて。

 金色は魔力を糧として力を振るった。では、実際に『どこまで』消費されたのだ?



(……づっ、あぐ……ッ!!)


 何かが限界を超えた。

 認識を拒絶した。

 まるで現実から逃げるように。それこそ直視するのは耐えられないと身体の自己防衛が働いたのだろう。


 そこでミリファの意識は途絶した。



 ーーー☆ーーー



「いひひ……どうすればいいワケ?」


 黄色パーカーの女エルフは困ったようにそう呟いていた。ガジルとの戦闘で骨のある戦いだったとスッキリして、リーダーたちの戦いを見て面白いものだと感心して、お腹が減ったと首都で食べ歩きして、 食後の運動として金色メイドにちょっかいをかけようとしたのだが……当の獲物がまさかの気絶。何らかの持病でも持っていたのか、気絶してもなお苦しそうに呻いていた。


 ふうむ、としばらく考え。

 ふりふりと余った袖を揺らす怪物は軽い調子でこう言った。


「とりあえず持って帰って調べないとカモ。戦争では楽しませてもらったワケだし、やりようによっては面白いことになりそうなワケだしねっ」


 あの戦争の後から価値が高まったミリファの身の安全を本人に気付かれることなく守っていた黒獣騎士団の面々を軽く蹴散らし、場を整えたほどには必要に応じて行動するのがスフィアだ。


 面白くするために必要なことなら、スフィアは何でもする。例えば、そう、ミリファを攫い、細部を調べ上げ、面白くないものを排除した上で、きちんと殺し合う、などだ。



 ーーー☆ーーー



 第七王女の側仕えの姿が消えた。

 王族の『守り』を司る黒獣騎士団の面々を圧倒するほどに強大な怪物の手によって連れ去られたのだ。



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