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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第五十話 よし、戦争しよう その十七

 

 ヘグリア国軍のほとんどの兵士は遠巻きにその戦闘を眺めていた。下手に手を出したって巻き込まれるだけだし、どこかにそこまで尽くす価値があるのかと疑問がよぎっているのか。それとも単にその猛威に恐れをなしたのか。


 理由は人それぞれだろうが、()()()()と繋げる兵士が少なかったことは確かだ。敵の強大さを理解して、()()()()と繋げたエリスたちと違って、国王にはそう繋げてくれる人間はいなかった。


 しかし。

 単純な皮算用で馳せ参じる者もいたが。


(……ここがチャンスなんだ)


 ノワーズが投げた長剣に肩を粉砕され片腕を失った誰かであった。ゴォッ! と炎を残りの腕に纏い、皮算用ができる人員を連れて遠巻きに眺めている役立たずどもの中から飛び出す。


 彼に続く百を越す兵士どもも彼自身も単純な皮算用によって戦闘を継続することを選んだ。つまりは少しでも多くの戦果をあげることで戦争『後』に甘い汁をすすろうという算段である。


 幸運なことに武力の第五王女は胸の中心に風穴をあけて今にも死にそうな有様だ。今ならば誰かたちでも力押しで殺せるだろう。


 ……自分だけは大丈夫、と。そんな甘い考えが誘発した突撃であった。


(俺の悠々自適な未来のために死ねよ!!)


 その時。

 ほとんどが国王に視線を向けて背中を晒している中、振り返る影が一つあった。そいつは完全にこちらに向き直り、そのまま地面を蹴った。


 フルアーマーで己の身を縛っているとは思えないほど俊敏な動きで迫るは白露騎士団団長である。


「中々の手柄が──」


「ちえ。こんな雑魚ども倒したってそこまで格好よくないよねって感じだけど、誰かがやらないとだものね。さっさと片付けた後に敵の王をぶっ倒して最高に格好つけてやる!!」


 瞬間、振るわれる長剣。

 そこから迸るは高圧水流──ではなかった。



 ぐにゃりと空間が歪んだかと思うと、そこから数十の騎士が出てきたのだ。



 スキル『使役召喚』。

 事前に双方の了承の元に登録しておいた人員を呼び出す白露騎士団団長のスキルである。


 そのほとんどが白露騎士団所属騎士であった。

 それだけではなかった。


 得物の一振りで数十単位の兵士が木っ端のように吹き飛ばされ、砕かれた肉片が飛び散る。


 具現から損傷を受けるまでの一連の流れを幻覚として扱い、死の痛みが叩きつけられた。


 つまりは鳳凰及び黒獣のトップ。両団長をも呼び出したのだ。


 ここまで混乱しきった状況ならば鳳凰騎士団団長が抜けても多少は戦線を維持できるし、首都の防衛に関しても敵主力戦力のほとんどが崩れた今黒獣騎士団所属騎士だけでも十分だ。


 だからこそ極太の金属メイスを軽々と振るう女や死を何度でも味わわせる眼帯の男をこの場に呼び出すことが可能となった。


「ふむ、ここまでくれば後は敵国の王を倒すだけであるな」


「それはそうなんだが、そう簡単にはいかねえみてえだな」


 瞬間。

 飛び出してきた兵士もその場にとどまった兵士も、纏めて呑み込む『波』が炸裂した。


 死肉の群れが生きた兵士共を殺しながら三人の団長含む騎士たちへと襲いかかったのだ。それこそ本陣つきの兵士を束ねるほどの実力者たる誰かさえも一緒くたに殺してしまえるほどの死肉の波が迫る。



 ーーー☆ーーー



 その時、鳳凰騎士団団長はノワーズの状態を確認して全てを悟った。騎士らしさを貫こうと限界以上に肉体を酷使してなお、誰かのために剣を握るその姿に尊敬と怒りを抱く。が、そんなものは後に回せと己に言い聞かせる。


 その時、黒獣騎士団団長は第五王女の状態を確認して奥歯を噛み締めていた。不甲斐なさに己を殺したくなったほどだが、今はこの場を切り抜けるために力を尽くす時だ。くだらない後悔はその後にでも回してしまえ。


「勝機はあるのであるか?」


「まったくだ。死肉どもならともかく、ヘグリアんところの愚王は厄介そうだぞ」


「正直金色の光纏ってるメイドを主軸とするしかない状況ね。格好悪いにもほどがあるけど、それ以外に勝機はないのも事実よ」


 どこか不機嫌そうに首を鳴らしたり舌打ちをこぼし、騎士を束ねる長たちは一歩前に大きく踏み出した。


「ならばこちらは我らが引き受けるべきであろうな」


「情けなさが極まってやがるがな」


 直後。

 魂のエネルギーを爆発力に変換する死肉の精密誘導爆弾が肉の波となり押し寄せ──ゴドッ! ザン!! と斬り捨てられ、薙ぎ払われた。


 それに伴い死肉が内側から膨れ上がり破裂、魂を犠牲とした爆風を撒き散らす。が、それもまた鳳凰騎士団団長の金属メイスや黒獣騎士団団長の長剣が再度唸り、強引にねじ伏せ吹き散らす。


「ここから先は一歩も通さないのである」


「ってことだ。死んだんなら大人しく死んでおけよ」


「あっ、また出遅れたーっ!!」


 騎士を束ねし三人の猛者が背後を守護する。

 ならば、後は正面を貫くのみだ。



 ーーー☆ーーー



 ヘグリア国国王ゾーバーグ=ヘグリア=バーンロットとセルフィーとの距離は四十メートル。


 だったのだが、



 国王な大きく後ろに下がりながらスキルや魔法を発動、無数の遠隔攻撃が放たれた。



 死者の魂を消費した炎、水、土、風の中級魔法を中心に分子結合を分解する閃光や生物のアポトーシスを促進・自壊する波動など多様な効果を宿す力がだ。


 スキル『転移(赤い糸)』が発動、効果範囲内の攻撃を転移させるが──処理が追いつかない。


 効果範囲に突入したと共にスキル『転移(赤い糸)』を発動してあらぬ方向に飛ばしたり、他の攻撃にぶつけるように移動させているが、数の多さにセルフィーの処理速度が追いついていないのだ。


 それだけでなく、そもそもスキル『転移』はセルフィーが視認する必要がある。例外は始点か終点と設定できるミリファに関わる因子、またはセルフィーに関する因子であれば思考などの視認不可能なものも転移させることができるようだが。


 ……そこに何らかの『理由』があるとして、今はどうでもいい。


 現実としてセルフィーのスキル『転移』だけでは迫る猛威の数々を処理しきれず、後方に下がる国王を追いかけることもできない。


 ゴッア!! と身の丈以上の炎の球体がミリファたちに迫る。


「人の妹に何してんのよ!!」


 妹を抱きしめていた姉は第五王女から受け取っていた魔力に『技術(アーツ)』を流し、炎と風を展開。真正面からぶつけず、力の流れる道を歪め、受け流す。


 直後に第五王女ウルティアが魔法で、ノワーズ=サイドワームが腰から引き抜いた鞘をリミッター解除した肉体で振り回すことで迫る猛威を逸らす。


「ウルティアたちが道を切り開くからねー」


「また貴女に頼るしかないのは心底なっさけないっすが、私の意地で守れる命を散らすのはもっと情けないっす。頼りにさせていただきますっすよ、メイドさん!!」


 妹の胴から腕を外す姉。

 魔法陣を展開する第五王女。

 鞘を構える少女騎士。


 三人の英傑が道を切り開くと、背負うと、無理をすると、そう言われて黙っていられるわけがなかった。


「私だってやってやるんだから!!」


 大きく前に。

 その一歩を踏み出せるだけの力があるミリファは、その胸に燻る恐怖以上の想いを燃やしていた。


 と。

 その背中にかかる声が一つ。


「ミリファさんっ!!」


 ファルナ。

 共に戦う力なんてどこにもなくて、本来であればアリシア国軍本陣で大人しくしているのが『最善』だとわかっていて、それでも、この場に立つだけの理由があった。


 巻き込まれて死んだとしても。

 力があるからと恐怖を押し殺し皆のために拳を握る『友達』のために言うべきことがあるはずだ。


「がんばれえ!!」


「……うん。ちょーがんばるから!!」


 ゴッァァァッッッ!!!! と。

 これまでで一番の輝きを見せる金色のオーラ。

 合理的に考えればファルナの行動には意味はないのかもしれない。足手まといが一言伝えたって戦力が増減するわけがない。



 だけど、その言葉には理屈を超えた意味があった。少なくともミリファにとっては、絶対に。



 さあ。

 大切な人を守るためにヘグリア国が誇る軍事力に挑戦せよ。



 ーーー☆ーーー



 七百、その二乗。

 四十九万もの魂を消費、一つに束ねし放たれるは猛炎。『炎の書』第六章第七節──業火濁流。ゴッァ!! と濁った紅蓮がその終点が把握できないほど高く高く膨れ上がり、まさに濁流のように押し寄せる。


 それを待っていた。

 四十九万の魂を一点に集中させる、その時を。


「スキル『転移(赤い糸)』発動!!」


 シュッパァン! と一瞬で消えた膨大な魔力はミリファの魂に向かい──喰らう。


 更なる魔力の追加。

 歓喜するように金色が荒れ輝く。


「チッ! 魂の使役ではなかったのか!? 本当なんだその能力っ。魔力の基本原則を無視する異能なんて聞いたことないぞっ」


 国王は魔法を使用していた。つまりもう一度『だけ』ならばミリファに喰らわせることもできるということ。幾ら何でもそれ以降は魔力関連が強化に使われることに気づかれるだろうから、大量に食べることができるタイミングを狙っていた。


 四十九万の魂の追加。

 それは、つまり、


「だが、ここまで弄れば吸収できないだろ? だからあれを投げたはずだ!!」


 スキル『魔力隷属』で七百の魂を支配、そこからスキル『能力増幅』で四十九万に増やし、スキル『魔力檄奏』でその魔力を崩壊させ別物に変異したエネルギーを抽出、さらにスキル『能力増幅』でそのエネルギーを二乗とする。


 ゾッゾァッッッ!!!! と槍のように束ねた一撃が投げ放たれた。


「スキル『転移(赤い糸)』発動!!」


 国王の予測通りそこまで変異したエネルギーだとミリファの魂に巣食う『何か』の餌とはならない。


 仕方なく槍をミリファの右手に転移させ──瞬間、赤や青や緑や紫や黄色の閃光が横殴りの雨のように放たれた。


 ────スキル『転移(赤い糸)』が間に合わない!?


「だったら!!」


 流れてくるセルフィーの思考に応えるように不可視の剛槍を振るい閃光を迎え撃つミリファ。


 だが、パンッ! と剛槍が弾け消える。前と同じように剛槍構築に使用していたスキルを全て解除したのだろう。


 剛槍で薙ぎ払うはずだった緑の閃光がミリファの右腕に突き刺さる。金色のオーラがその一撃を弾く──ことはなく、バギッィンッ!! と骨が砕けた。


「ぎ、ぃ、……あああ!?」


 スキル『透過粉閃』。

 標的を粉砕する一撃。その一撃は立ち塞がるものを透過し、確実に標的に直撃する。


 ぷらんぷらんと揺れる右手を押さえ、一歩二歩下がるミリファ。覚悟を決めた、前に進むと決めた、それでも単純な痛みで折れてしまう。


 所詮はただの村娘。

 これまで闘争に関わりがなかったミリファにとって、骨が砕ける痛みは想いをねじ伏せるだけの力がある。


 そこに迫る色とりどりの閃光。

 だが、そう、だが、


「だから! 人の妹に何やってるのよお!!」


 ブォッワァ!! と暴風が荒れ狂う。空気の密度に干渉、光の屈折率を操作することで閃光の軌道をズラす。


魔力技術(フォトンアーツ)』。

 第五王女ウルティアの魔力に干渉し増幅した力ならば閃光タイプのスキルを逸らすことはできる。


 が、追加で放たれるは四十九万もの魂を爆発力に変換するスキル。


 スキル『人身御供』。

 ゴッボォアァァッッッ!!!! と地面を蒸発させながら迫る爆風の絶壁。四十九万もの魂を消費するスキル『人身御供』に更にスキル『能力増幅』を付加。先の剛槍と同様に二乗の重ね掛けを行った一撃である。


 セルフィーのスキルは間に合わず、だから彼女以外が力を振り絞る。


「『水の書』第六章第九節──純水防壁!!」


 水の壁が展開され、包み込むようにミリファたちを守ろうとするが──ジュッパァ!! と紙のように崩れていく。


「させないっす! 『剣術技術(ソードアーツ)限界(ブレイク)──」



 瞬間。

 ズゾッドォンッッッ!!!! と背後から放たれる三種類の猛威。



 極太メイスに『技術』を付加、百メートルを超す壁のごとき特大の一撃を放つ鳳凰騎士団団長。


 長剣に『技術』を付加、同じく百メートルを超す長大な刃を剣服で受けるように横に振り回す黒獣騎士団団長。


 長剣の先に魔法陣を展開、圧縮した高圧水流を拡散させ広範囲にばら撒くように放つ白露騎士団団長。


 身体の芯にまで響く轟音が炸裂する。魂の爆発を誘発する死者の波を相手にしながら、それでも守るために力を割り振り──だが、足りない。


 圧倒的な物量を前にしてはアリシア国軍が誇る三人の騎士団長でさえも耐えきれない。


 それでも、ほんの少し。

 爆風を押さえ込むことはできた。


 ビギビギビギッ!! と亀裂が広がるが──


(……痛い)


 ────ミリファさま


(痛い痛い痛い痛い痛いっ!!)


 ────支援しかできないわたくしが偉そうに言えることではないかもしれません。でもっ、それでも! あと少しだけ頑張ってください!!


(……ったい。いったいけどがんばるんだからあ!!)


 バギィン!! と三人の騎士団長が展開した防衛網が崩れた瞬間、弾ける金色。



 バッゴォンッッッ!!!! と。

 ミリファの左拳に金色のオーラが束ねられ、爆風の絶壁に叩きつけられた。



 四十九万の魂を二回食べたミリファと四十九万を二乗した爆発、それがそのまま適応されるのであったならば打ち負けてしまっていただろう。


 が、あくまでミリファの力は四十九万プラス四十九万を食べた結果の産物だ。そのエネルギーを元に『増幅』したのが金色のオーラだ。


 ギヂ、と。

 ギヂ、ベガ、ジヂジヂメヂメヂッ!! と。

 金色のオーラが壁のように広がり、爆風を押しとどめる。


 そして、


「スキル『転移(赤い糸)』!!」


 ようやく構築できたと歓喜に震えるように席巻する。


 シュッパァン! と爆発が消えたかと思えば、進行方向を逆として転移させた。つまりは国王に跳ね返すように。


「チッ! まあいい」


 剛槍が投げ返された時と同じように全スキルを解除、爆風が霧散して──だんっ! と大きく前に出る影が二つ。


 第七王女セルフィーの胴体に手を回したミリファが地面を蹴り、閃光のごとき加速を果たす。


「チィッ!」


 たった一歩。

 それだけで凄まじい距離を縮めることができるのはその一歩でヘグリア国軍本陣まで突っ込んだことからも分かるだろう。



 ゴッォ!! と。

 国王の懐に飛び込む。



「それがどうしたあ!!」


 ぱ、パパパパパパァッ!! と輝く無数の光。星空のごとく広がる光の一つ一つが強力な性能を持つスキルである。


 ヘグリア国が所有してきた軍事力。

 その『数』が展開される。


 圧倒的な物量の前にスキル『転移(赤い糸)』は対応できない。一度の転移にある程度『範囲』を指定できるのは四十九万もの魂が生み出す圧倒的な物量を転移させたことからも分かることだろう。が、ここを凌げたとしても第二波、第三波の『数』にスキル発動が間に合わず押し潰されるだけだ。


 ミリファの金色のオーラでもその全てをさばくことはできないだろう。金色のオーラを透過され右腕を粉砕されたばかりだ。ただの村娘に力押し以外の搦め手に対応できるだけのポテンシャルはないのだ。


 セルフィーだけでは駄目だ。

 ミリファだけでも足りない。

 だけど、二人ならば。いいや『皆』がここまで繋げてくれた、その結果ならば。



「スキル『転移(赤い糸)』ォッ!!」



 シュッパァン!! と。

『範囲』内の力が移動した。



「…………………………、あ?」


 連動するように星空のごとき光の数々が霧散した。その力を支えていた軸を失ったように。


 国王のように他者を利用するのではなく、他者と協力したミリファたちであるからこそ導き出せた『突破口』であった。



 あの時。

 国王が魔導兵器だということを()()()後にエリスは一つの確認をした。


 魔石を視認した時、その中の魔力を転移できるか、と。


 はい、とセルフィーはそう答えた。ならば後は簡単だ。合わせて()()()国王の力の秘密を分析すれば、突破口は見つかる。


 国王が所有する軍事力の数々はスキル『資金献上』で勢力内の死者の魂からスキルを司る部分だけを抽出、魔石に封入することでスキルを奪った結果だ。そして奪ったスキルを使うには魔石を身につける必要があるという条件もある。


 ならば魔石内に封入されているスキルを司る『魂』を転移、ミリファに喰らわせて消化させてしまえば? そう、スキルを司る部分というのが魂から抽出したものということはそれは魔力のはずだ。ならば四十九万もの魂を食べたように、それらだって食べることができるはずだ。



 結果は以下の通り。

 『範囲』内、つまりは国王の胸板から覗く数々の魔石の中からスキルを司る魂のカケラを転移。ミリファが食べたのだ。



 無数のスキルが失われる。身につけていた軍事力を奪われ、亜空間内に収納され、残り十分で完全に消化、処分される。


 そう。

 国王ゾーバーグ=ヘグリア=バーンロットを特別にしていた力は失われた。後に残るのはたった一人の孤独な男だけだ。


「……負、ける? なんで、こんな、なんだよこれはっ!! 何がどうなればヘグリア国の軍事力を束ねる俺が、この俺があ!?」


「お前の敗因は一つ。たった一人で私『たち』を敵に回したことだ、こんにゃろーっ!!」



 ゴッドォン!!!! と。

 国王の顔面に突き刺さる金色の拳があった。



 数多の軍事力を失った今の彼にその一撃を耐えられるだけの余力は存在しない。薙ぎ払われ、地面に叩きつけられた男が立ち上がることはなかった。



 ーーー☆ーーー



 国王ゾーバーグ=ヘグリア=バーンロットが倒れたことで決定的に『折れた』のだろう、ヘグリア国軍所属の兵士たちは次々に降伏していった。


 つまりは。

 戦争が終わったのだ。


「ふひー。つっかれたー」


「お疲れ様です、ミリファさま」


 彼女の右腕には金色のオーラが絡みついていた。浸透していくごとに痛みが軽くなっていき、今ではほとんど何も感じないほとだ。


 ……金色が消えたら痛みがぶり返すのだろうが、少しの間でも痛みが消えてくれるのはありがたかった。


「本当疲れたよね。こんなのもうこれっきりにしてほしいくらい」


「……ミリファさま」


 ミリファの言葉に表情を暗くするセルフィー。何事か言いかけた王女にメイドは肩をすくめる。


「分かってるって。言ってみただけだよー。最低でも後一回は頑張るよ。だから、さ。もう観念して私『たち』にも背負わせてよね」


「……ええ。『運命』は接続されました。迫る破滅を前に巻き込みたくないなんて甘い言葉が通用しないことは分かっています。ならば、せめて、足掻くしかないんですよね」


「そうそう、足掻いて足掻いて足掻きまくって! なんとかしてやろうぜ!!」


 言って、笑って。

 そこでミリファはこちらに歩み寄ってくる一人の兵士に気づいた。左右で色が違う瞳が真っ直ぐに向けられる。


 降伏した後に少しだけでもあのメイドと話したいという願いをミリファをよく知る誰かが許可した結果であろう。


 近くに騎士がついてはいるが、ミリファはといえばそのことに気づいておらず──その上で警戒することなく声をかけていた。


「あの時の兵士さんじゃん。どうしたの?」


「あ、その……本当に勝ったのでありますね」


「倒すって言ったじゃん。いやまあ皆のお陰だけどさ」


「……お名前、聞かせてもらってもいいでありますか?」


 問いにミリファは自然と頬が緩むのを自覚していた。『自己紹介』にある冠をつけることに罪悪感を抱く必要がないことを喜びながら、その口を開く。



「私はミリファ。第七王女が側仕え、ミリファちゃんだぜ!!」

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