幕間その二 少女心情領域、溶け合う時
ミリファが金色のオーラを纏い、ヘグリア国軍に突っ込む前。膨大な魂、数の暴力がアリシア国軍本陣に迫る中、溶け合った思考の交流があった。
ーーー☆ーーー
────ミリファさま
────うわっ。なんか聞こえ、セルフィー様!?
────心の動きを『転移』させました。ミリファさまを始点か終点に設定できるので、こうして思考を交わすことができるんです
────ん? ん???
────今は分からなくていいんです。今から『全て』流しますから。……最初からこうしていれば良かったんですよね。ごめんなさい、わたくしも混乱していたようです
────そもそもこれ何がどうなって……うにゃあ!? ぐにゃって、頭にぐにゃって流れ込んでくるう!?
────だ、大丈夫ですかミリファさま!? やっぱり順序立てて説明したほうが良かったでしょうか!? いえでもそれだといくら思考を『転移』させることで現実時間よりも短い時間で会話できるとはいえ間に合わないと思って……ああっ、ごめんなさいミリファさまっ!!
────だ、大丈夫。ちょっと、こう、変な感じがしただけだから
────本当ですか? 無理してないですよね?
────だから大丈夫だって。もおセルフィー様は心配性だなぁ
────ミリファさま……
────しっかし、そうかぁ。これがセルフィー様が背負ってたものかー。そういえばちょくちょく『運命』だなんだ聞いてたっけ
────……今なら、まだ間に合います。ミリファさまが嫌だとおっしゃるなら……
────セルフィー様。こうしてセルフィー様の思考が流れているってことは私のも流れているんだよね? だったら分かるはずだよ、『答え』はとっくに見つけている。大切な人と共に生きる、そのためなら未来により極悪な破滅を招くとしたって、今ここで失われそうとしている『好き』を守り抜いてやる!!
────そう、ですか。ミリファさま、ありがとうございます。そして、ごめんなさい
────前半だけでいいんだけどなぁ。セルフィー様が謝る必要なくない? 悪いのは攻めてきた連中だよ
────それでも……わたくしは誘惑に抗えませんでした。ここでわたくしもミリファさまも死んでしまうのが『大きな枠組み』を守るために必要なことで、それこそが王族たる者の務めで、そうじゃなくてもわたくしはミリファさまに『あんなもの』に手を出して『奴』に究極の力を与えるキッカケになってほしくないと思っていたくせに自分勝手な理由で掌返して、それに、それに!!
────私に大切な人を守る力を与えてくれる、だよね
────ミリファ、さま
────ぐだぐた気にしすぎだって。セルフィー様優しいから色々考えて、背負って、結果として『無能』の冠つけて生きてきたんだよね。顔がいいだけでもやりようによっては美貌の第一王女だなんだ褒め称えられるんだから、うまくやれば簡単に尊敬集められたって絶対。この力はわたくしが力を分け与えているからこそですとか何とか言っちゃってさ。それでもセルフィー様は拒絶したんだよね。どちらにしても、アリシア国は滅ぶ。それが分かっていて、それでも最低限の犠牲だけで済ませようって。そのためにずっとずっとずっと一人で背負っていたんだよね。
────でも、簡単に掌を返したんです。『運命』だとこの戦争は勝てるはずで、そもそもお母様が負けるはずなくて、戦争には簡単に勝てるはずで、大切な人たちが失われるはずがなくて……そんな甘い夢に逃げて、忘れていたんです。わたくしたちは戦場にいるんだと、いつ死んだっておかしくないんだと。そんなことも忘れて、呑気に何もせず突っ立っていて、いざ大切な人たちが死にそうになって! 『あんなもの』に手を出そうとしているんです!! こんなの最低ですよ、単なる悪よりもよっぽどたちが悪いんです!! なのに、どうして……ミリファさまは嬉しそうなんですか?
────だってセルフィー様が大切な人たちを犠牲にしてでも『大きな枠組み』の犠牲を最小にしようとしていたら、私は失うだけ失って死んでいた。だから、うん、気にしなくていいんじゃない? 悩んで、苦しんで、そうして出した答えが皆で生き残ろうって当たり前のハッピーエンドを願うものだっていうなら、そんなの責める理由はないよ
────だけど! この先より多くの犠牲が出ます!! それに、何より……ミリファさまが一番に狙われるんですよ!!
────それが『運命』?
────そうです! だから!!
────だけど、だよ
────え……?
────確かに『運命』ってのは決まっているのかもしれない。だから? だったら覆せばいいじゃん
────くつ、がえす?
────うん。そもそも今回の戦争ってここまで被害出るはずじゃないんだよね? 『運命』通りなら王妃様が負けるはずなくて、簡単に勝てるはずだった、と
────そうです、それがどうしたんですか!?
────『運命』、間違ってるじゃん
────そ、それはっ、でも『奴』が弱体化するわけではありません!! 多少『運命』に振れ幅があったとしても、わたくしたちに都合のいい幸せな結末に流れるとは限りません!!
────そんなの分からないじゃん。『運命』とやらが覆る可能性があるっていうなら、私はそこに賭ける。この場を切り抜けて、『奴』を倒して、皆で笑い合える最高のハッピーエンドを掴んでやる!!
────ミリファさま……
────だから力を貸してよ、セルフィー様。ううん、これが終わったら皆の力を借りそうよ
────え?
────セルフィー様一人で背負う必要は絶対にないし、私たちだけで背負う必要もない。皆に打ち明けて、何とかしてもらおうよ
────なんとか、できるでしょうか? どう足掻いたって最後には破滅が待っているのは分かりきっています。『運命』に多少の誤差があったとしても、結末が大きく変化するとは到底思えません。それだけ『奴』は強大なんですから
────そーゆーとこセルフィー様のだめなとこだよね。何度でも言うけど一人で背負う必要は絶対にないんだよ。辛かったら周りに相談していいし、力を借りていい。そうすればどんな無理難題だって案外どうにかなるもんだよ。現に、ほら、私みたいなぐーたらでも十数年それなりに楽しく生きていけたくらいだしさ
────そう、でしょうか。そう、かも……しれませんね
────そうそう! だから、ほら、早く反撃を……はん、げきを
────ミリファさま?
────あーっと、今言うことじゃない気もするんだけど、ここで言っておかないと『名乗れない』からさ。気合い入れるためにも、後腐れなく突き進むためにも、私の懺悔? 言い訳? 戯れ言? とにかく聞いてください!!
────は、はいっ
────あの時はセルフィー様置いて逃げ出してごめんなさい!!
────……?
────うわ、無言だ、そうだよね怒ってるよねだよねごめんなさいセルフィー様あ!!
────いえ、あの、そういえば馬車から出てきた時も似たようなこと言ってましたが……何のことですか?
────なにって、ほら、魔女が使者としてやってきた時に私セルフィー様を置いて一人で逃げたじゃん!! あんなに怖い奴が来てたのに、私一人だけで!!
────えっと、ですね……わたくしが帰っていいと言った気がするのですが
────そうだけど! そうじゃなくて、これは心の問題というかなんというか……だって自分が怖いと思ってる怪物にセルフィー様が向き合ってるのに一人だけ逃げるなんて酷くない!? っていうか酷いって分かってることしちゃってるし!! うわあごめんなさいセルフィー様あ!!
────お、落ち着いてくださいっ。直接心情を『転移』させているせいで思考というか感情がそのまま流れて……だから本当に気にしていないですから!!
────でも、でもぉ!
────えっと、そうですね……じゃあこうしましょう! 本当はこんなの全然つり合い取れていないのですが、人によって『引きずる』ものが違うのでしょうし、同じものとして扱ってもいいかもしれません
────セルフィー様?
────ミリファさまはわたくしに気にしなくていいと言いました。わたくしもミリファさまに気にしなくていいと言いました。でも、やっぱり『引きずる』んですよね? だからお互いがお互いを許し合うことで良しとしませんか? いえ、わたくしのとミリファさまのとでは問題のレベルがまったく違うのですがっ
────そんなことでいいの!?
────逆にミリファさまは本当にそれでいいんですか!? 不釣り合いにもほどがあるというか、思考や感情を纏めて『転移』しているため普段は思いついても口にはしない無茶苦茶な提案が流れた気がするのですが!?
────いいよ、いいよっ。そんなのでセルフィー様が本当に気にしないっていうなら!!
────そ、それでよろしいなら、その、はい
────だから、うん。セルフィー様!!
────は、はいっ!
────『全部』終わったら、本当の意味でセルフィー様が背負っていた問題が『全部』まるっと解決したその時は! もう一度私にチャンスをちょうだい!!
────チャンス、ですか?
────うんっ! 本当に気にしないと言ってくれるなら、もう一度セルフィー様に『友達』になってほしいと申し込ませてほしいんだよ!!
────そんなのわたくしから提案し……ごほんごほんっ!! 危ないです、うっかり『転移』させるところでした
────……? セルフィー様???
────いえ、なんでもありません。ええなんでもないですとも!!
────はぁ。まぁいいや。とにかく今は目の前の問題解決しないとだね、セルフィー様っ!!
────……今はわたくししか聞いていません。だから別にいいんですよ
────なっ、なにがかなーっ!? ミリファちゃんわかんなーい!!
────正直感情までも直接『転移』させているので、丸分かりだったりするのですが
────そ、そうなんだ
────だからわたくしなんかでよろしければ、いくらでも聞いてあげますよ
────なんかじゃないよ。セルフィー様だから……まあ、うん。いいかなぁ
────えっ、あ……そう、ですか
────怖い、なぁ
────……だと思います
────は、はは。ああもう嫌だなあ戦いたくないなあ!! なんで私なんだよ他にもっと適した人いるよねどこをどうやったら私なんかにこんな力があるってのよ似合わないにもほどがある英雄やら勇者やらヒーローやらってのはもっと格好いい人がなるべきでこんな力はそんな人たちが持つべきででも今は私しか皆を助ける力を持つのがいないとかいう意味不明な状況でじゃあ私がやるしかないじゃん私はただぐーたら伸び伸びとやっていければそれでいいのに豪勢な食事も大金も大国動かせるような権力も何もいらないのにそれこそ最低限食べていくことができて大切な人たちと共に生きられるなら他には何もいらないのにああもう本当嫌だなあ!!
────それでは、やめますか?
────やるに決まってるじゃん!! そうしないと大切な人が死んじゃうんだよ。そんなことになったらもう二度と心の底からぐーたらできないじゃん!! だからやってやる、これから先の人生最高に楽しく生きるために! 今この瞬間だけ頑張ってやるんだ!!
────……はい
────よ、ようし、大暴れしてやるぞっ! えいえいおーっ!!
────え、えっと、おーっ!!




