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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第四十五話 よし、戦争しよう その十二

 

「終わっ、た……?」


 リーダーは呆然と呟いていた。

 魔女の心臓が貫かれた。

 純白の閃光や無数の光の球体がその存在を支えていた力を失い、霧散したのだ。


 脅威を排除することができた。

 喜べるわけがなかった。


「あんの大馬鹿野郎が!!」


 まるで糸が切れた人形のように、置物が倒れるように、エリスが地面に崩れ落ちたのだ。何やら上空より降ってきた人影がミリファにぶつかっていた気がするが、そんな些事に構っている暇はない。


「おいこら何やってるのよ!! 敵を倒したってエリスがくたばったら意味ないでしょうが!!」


 駆け寄り、胸ぐらを掴み、鼻と鼻とが触れ合うほどに引き寄せるリーダー。エリスが発する熱が触れ合わずとも感じられた。あまりの高熱に空気が熱せられているのだ。


「あ、はは……。大丈夫、まだ……ギリギリ『砕ける』ことは、ないはず……」


「うるさいばかばかっ!! 何を消費した? 外傷ほとんどないのに『それ』が命に関わるくらいヤバイ状態だって私の感覚が訴えているんだけど!!」


「は、はは……」


「何がおかしいのよ、お人好しの自己犠牲野郎があ!! 私は、今! 怒ってるんだけど!!」


 ガックンガックン揺らしてやれば、エリスはどこか嬉しそうに表情を綻ばせていた。


「ああ、ごめんね、妹以外にここまで本気で心配されるの、久しぶりだったから、つい」


「なっ、誰が心配なんて! 怒ってるって言ったでしょっ。そう、そうよ、私はただ喧嘩の一つや二つのために命を削る馬鹿な行為に怒ってるだけよ!!」


「そっかぁ。ふふ、ふふふ」


「だから笑うのをやめろぉ!!」


 もうっ、と拗ねたようにそっぽを向くリーダー。そんな天使にエリスはどこか言い訳のようにこう声をかける。


「ごめんごめん。でもさ、()()()()内容が、確かなら……ここで決めないといけなかったから」


「はぁ?」


「ミリファに戦場は似合わないもの」



 ーーー☆ーーー



 ミリファが倒れたエリスの元に駆けつけようとした時だった。上空からきりもみ回転しながら落ちてきた何かに押し潰された。


 ちなみにファルナはミリファを助けようと飛び出そうとして、『はうっ!?』と何もないところで転んでいた。


「ふにゃあ!?」


 ゴロゴロと一緒くたに転がり、何よこれ!? と押し退けようとして──どろりと掌に伝わる生暖かい感触があった。


 ミリファを押し倒すような形で転がる何か、つまりは第五王女ウルティアが胸にあけた風穴や目や鼻や口から垂れ流している鮮血であった。


「う、ウルティア様!? なにこれなんかいっぱい出てるよ!? え、ええっ、これ大丈夫なの!?」


「も、問題ないって。……いやまあこれ以上力を使うと『砕ける』んだろうなーっとは思うけど」


「絶対ヤバいやつじゃんっ! もお!! ウルティア様もお姉ちゃんも騎士の人も無茶しすぎだよっ!! これどうしよ包帯巻くくらいで大丈夫なの!? 死んじゃわないよね、ねっ!?」


「……うん。『遊ぶ(こわす)』のも楽しいけど、こーゆーのも楽しいなぁー」


「もお!! 何をわけわかんないこと言ってるんだよーっ!!」



 ーーー☆ーーー



 ぶぢ。

 ぶぢぶぢぶぢぃ!! と体内から響く異音。

 肉体のリミッター解除にとって肉体に、『技術(アーツ)』のリミッター解除にとって解析不能の『何か』に多大なる負荷がかかった結果だろう。


 腕や足は内側から弾けていた。

 内臓は至る所が千切れていた。

『何か』も消耗が激しいのか、精神が軋むような激痛が途切れなく続いていた。


 カランと長剣が落ちる。もう剣を握る力も残っていなかった。


 そのまま後ろに倒れる。全身にかつてない激痛や倦怠感や喪失感が広がっていた。


 それでも。

 青空を見上げ、口元に清々しいほどの笑顔を刻む。


「やってやったっす」


 と。

 響く怨嗟の声。


「ずるい……」


 それはフルアーマーの騎士であった。

 つまりは白露騎士団団長である。


「なにそれずるい格好いいっ! 私もそっちが良かったあ!! 騎士の中の騎士、守るために剣を握る、そんな格好いいのが良かったのにい!!」


「えーっと……そうっすか」


 駄々っ子みたいに両手を振り回す真面目で有名な団長を見つめ、少女騎士は何とも言えない表情でそう返すしかなかった。



 ーーー☆ーーー



 ああ、なんというハッピーエンドだろうか。

 今回の闘争が魔女から国を守るというものであったならば、百点満点の出来だっただろう。


 そう、ここまでだったならば、エリスやノワーズやウルティアが限界以上に力を振り絞り、これ以上は『砕けて』死ぬギリギリのラインまで摩耗しても問題はなかった。


 だが、まだ終わりではないはずだ。

 こんなところでガス欠を起こしていいわけがない。


 なぜなら今回の闘争は戦争なのだから。

 敵は魔女ではなく、軍隊なのだから。


 だというのに、この場の全員がそのことを失念していた。あるいは魔女さえ何とかすれば、後はどうにかなると楽観視しているのかもしれない。


 本当に?

 これまでどこか脇に追いやられていたからといって、ヘグリア国軍の総数がアリシア国軍を遥かに上回っていることに変わりはない。ウルティアが砦を破壊した礫で何割というレベルで被害を出し、高濃度魔力集合体がアリシア国軍本陣で暴れ回った結果、両軍合わせて万に達するほどの甚大な被害が出ていたが──少なくとも『兵数差』で考えれば、まだ三倍ほどヘグリア国軍が上回っているのだ。


 そして、そもそも、だ。

 かの国は本当に主戦力を出し切ったのだろうか?



 ーーー☆ーーー



 ヘグリア国軍を統べるは四人の将軍である。

『四天将軍』はそれぞれが強力なスキルを持つ。つまりはスキル特化の戦力ということだ。


 なぜ?

 四人もいるのだ、魔法や『技術(アーツ)』を極めた者が一人くらいはいてもいいはずだ。


「は」


 そうなるように調整した者がいる。

 それは、つまり、ヘグリアを支配する王である。


 国王ゾーバーグ=ヘグリア=バーンロット。

 大剣を肩に担ぎ、漆黒の愛馬に騎乗する中年の偉丈夫は四天将軍が『三人』討ち取られたことも、魔女が殺されたことも、もっと言えば戦争前に魔女の手で女王ヘルが殺されたことさえも気にしていなかった。


 そもそも戦力的な損害はほとんどないのだから。彼には死者が持っていた力が『献上』されている。



 スキル『資産献上』。

 己の『勢力』内の人間が死んだ時に、その魂の中からスキルを司るエネルギーのみを抽出、魔石に封入するスキルである。



 ゆえにヘグリア国に仕える将軍の死と共にそのスキルが『献上』された。


 ゆえに傭兵として雇われ、ヘグリア国『勢力』に含まれていた女王ヘルや魔女モルガン=フォトンフィールドの死と共にスキルが『献上』された。


「ははははははははははははははは!! 四天だけでなく、女王ヘルや魔女モルガン=フォトンフィールドの要たるスキルさえもこの手の中にある!! ヘグリア国が所有する力は未だ失われていない!!」


 女王ヘルもそうだが、魔女モルガン=フォトンフィールドの実力の柱となっているのもまたスキルである。


 スキル『魔力隷属』があるからこそ、かの魔女はあれだけの力を振るうことができた。このスキルがなければ、魔女は『魂魄技術(ソウルアーツ)』を使っていないエリスにすら敵わなかったのだから。


 つまり。

 強大なスキルを持つ戦力を勢力に引き入れることができればできるだけ、ヘグリア国の軍事力は国王に一極集中することになる。


「さあ反撃といこうか。まぁ使()()()()()()どもを相手にして満身創痍なお前らがもう一度我が軍事力を倒せるとは思えないがなあ!!」



 ーーー☆ーーー



 ギュッガァッッッ!!!! と。

 白にも黒にも見える閃光がヘグリア国軍本陣に炸裂した。



 ーーー☆ーーー



「ちょっと、待ってよ」


 最初に気づいたのはエリスだった。

 あるいは『魂から響く声』を聞くことができる効果範囲がもう少し広ければ、ヘグリア国軍本陣に君臨している国王の思考を読むことで事前に察知することもできたのかもしれないが。


 結果として気づけたのは事態が動いたから。

 致命的に終わった後であった。


「死者の魂の操作……? まさか魔女モルガン=フォトンフィールドが生きているわけ!?」


「そんなわけないっす! 確かに奴の魂は拒絶反応と共に霧散したっす!!」


 そう答えるノワーズだが、その表情には隠しようがない怯えが走っていた。


 理由は不明だが、死者の魂を操る『力』がヘグリア国軍本陣にて観測された。あれだけの猛威をもう一度相手する力などどこにも残っていない。


 そもそもアリシア国軍の主力はほとんどが壊滅している。


 王妃は瀕死の重傷。どうやら騎士が回収、治癒を施しているようだが、生きるか死ぬかは運に任せるしかないだろう。


 第五王女ウルティアは血液の大量摂取による『何か』の急速増幅によって無理に力を発揮、その結果少しでも力を使えば『砕け』死ぬほど。


 ノワーズ=サイドワームは第五王女よりも酷く、『技術(アーツ)』と肉体のリミッター解除によって目に見える範囲も見えない範囲も反動で『砕ける』寸前である。放っておいてもいつ死ぬか分からないほどに。


 エリスは魂を燃やし削ったことで体内のタンパク質が茹で上がるほどの高熱が出るという理解できる範囲での被害が確認されている。その『奥』がどうなっているかは不明だが、通常の損傷よりも重度の被害が出ていることは確かだ。もちろんこれ以上の力の行使は魂の崩壊による死を招く。


 残りは鳳凰騎士団団長や第四王女だろうが、彼女たちは彼女たちで主戦力が抜けた穴を埋めるようにかろうじて戦線を維持している。かろうじて、という冠がつくくらいであるし、近いうちに数の暴力に押し込まれて突破されることだろう。


「こうなったらもう一度……ぶぐっ、べぐばぶっ!!」


「ばか、こらエリスっ! これ以上貴女に何ができるってのよ!!」


「でも……でもっ!!」


 何やら焦燥が感じられた。

 リーダーはそれを迫る敵に怯えてのものだと判断した。だが、違う。エリスにとって己が命よりも優先すべき項目は一つしかない。


 つまり、姉は妹のために立ち上がろうとしていた。例え魂が爆ぜたとしても、()()()()()()最悪の選択肢を提示されることを避けるために。



 ーーー☆ーーー



 その時。

 第五王女ウルティアの胸に開いた風穴を手で塞いでいたミリファはキョトンとしていた。エリスたちのような実力者であれば事態の深刻さを実感できるのだろうが、何の力もない村娘だとイマイチ実感できていなかった。


「ウルティア様、なんか光ってるけど、あれなに?」


「あー……やっばいなー」


 ぶぢゅべちゅっ! と全身から血を噴き出しながら、立ち上がろうと動くウルティア。その行動にミリファは驚き、とりあえず抱きついて身動きを封じた。


 ……ピクピクと指を動かすのが限度であったため、どちらにしても立ち上がるのは無理だっただろうが。


「もおウルティア様駄目だって! こんな怪我で立ち上がろうとしないでよ!!」


「だって……」


「だってじゃない! 大体私なんかを跳ね除けることもできないのに、何ができるの!? ほら、よくわからないけど敵が来るってんなら騎士さんたちに任せればいいじゃん」


「アハッ☆ ……ごぶべぶっ! そこらの騎士じゃ瞬殺かなー」


「マジで!? え、え、そんなに力の差があるの!?」


「さっきの死肉と同等……かと思ったけど、これは違うかなー」


「弱いんだ、ね、ね、そうだよね!?」


「あの魔女がここで使っていた魂がたぶん二百前後、ウルティアたちにぶつけたのが五百以上。合計七百くらいの魂を操ってたみたいだけどさー」


 たましい??? と首を傾げるミリファだが、少なくとも先ほどの怪物の力が『七百』という単位に支えられていたことくらいは理解できただろう。


 だから。

 口調を意識していつも通りに整えているウルティアが、それでも表情や声色に『怯え』を滲ませていた、その正体は想像を絶するものだった。



「ヘグリア国軍本陣付近で溢れている魂の総数は『四十九万』だよー。桁が違いすぎるよねー……本当に、さ」



 ーーー☆ーーー



 アリシア国の首都に出向き、黒獣騎士団団長に勝負を挑み、殺害された四天将軍の女がいた。


 言い換えれば国王にスキルを『献上』した女である。


 彼女のスキルの名は『能力増幅』。

 己または己の能力で支配下に置いているもののエネルギーを『二乗』するスキルである。


(スキル『魔力隷属』は一度に七百ほどの魂を支配するのが限界みたいだが、それはあくまでスキル『魔力隷属』の上限だ、魔女モルガン=フォトンフィールドの限界値でしかない。そこに『能力増幅』を付加すれば、七百の二乗で四十九万の魂のエネルギーを支配することができる──だけではない。あくまでスキル『能力増幅』はエネルギーの増幅方式だ。七百を元手に四十九万まで()()()()だけなんだ。つまり! 四十九万もの魂分のエネルギーを絞り出すために使用される魂の数は七百だけ。両軍合わせて()()()()被害が出ているみたいだし、俺が使える魂の総数は五百万を軽く超えるだろうよ!!)


 戦死者の数などどうでもよかった。

 そんなものは犠牲のうちに入りすらしなかった。


 死ねば死ぬだけそのスキルは国王へと『献上』される。死ねば死ぬだけ国王が使用できる魂の数は増える。


 戦力的には変わらないどころか、むしろ増大しているような有様であった。


 四十九万。

 たかが七百の魂だけでアリシア国軍に甚大な被害を出し、エリスやノワーズやウルティアが限界以上まで摩耗しなければ倒せなかったのだとするなら──圧倒的な数の前にアリシア国軍は成すすべなく粉砕されることだろう。


「終わりだ、アリシア国う!!」


 放たれるは四十九万もの魂のエネルギー。

 白にも黒にも見える莫大なエネルギーが地面を抉り抹消し、ヘグリア国軍もアリシア国軍も関係なく蒸発させながら、真っ直ぐにアリシア国軍本陣へと殺到する。



 ーーー☆ーーー



 決断の時はもうすぐそこに。

 四十九万もの魂が本陣めがけて迫っているのだから。


 今この場で破滅を受け入れるか、足掻き未来に極大の破滅を解き放つか、二つに一つであった。


 だから、第七王女セルフィー=アリシア=ヴァーミリオンは一つを選ぶ。広い視野で判断できない、愚かで哀れで無能で──目の前の命を救う、そんな選択を。


「ミリファさま、ごめんなさい」


「セルフィー様?」


 ミリファが視線を横に向けると顔をぐちゃぐちゃに歪めたセルフィーが立っていた。


 迫る膨大なエネルギーが生み出す破滅を見据え、ギュッと両拳を握り締めていた。


「わたくしは嫌です。間違いだとわかっていても。ずっとずっと拒絶しておいて、大切な人たちの命が左右されると分かった途端に掌を返す最悪の選択だとしても。この選択が将来的に多くの犠牲者を出すと分かっていても、それでも嫌なんです。ウルティアお姉様やお母様や他の皆さんや──何よりミリファさまに死んでほしくないんです」


 だから。


「もしも()()()()()()()戦うことであれをどうにかできるとするなら。その力に手を出すことが将来的に多くの犠牲者を出すとしたら。ミリファさまはどうしたいですか?」


 多くを語る時間はない。

 全ては『運命』に足を踏み入れた時に理解できることだろう。


 それこそ詐欺の手口と同じだった。セルフィー自身、『運命』から逃れるつもりだったためにミリファに多くを伝えていなかったのが仇となっている。


 矢面に立つ少女がその選択の重さを理解していない。それでも、そう、それでもセルフィーは出るはずのなかった犠牲を許容できなかった。


 だから。

 だから。

 だから。


「そんなのとっくの昔に選んでいるよ、セルフィー様」


 噛み付くように叫び出そうとしたファルナを手で制して、心配そうにこちらを見つめるウルティアに笑いかけるミリファ。


『答え』はとっくに出ていた。

 ならば後は貫くだけだ。



「多くの犠牲者なんて知らない。お姉ちゃんやウルティア様やファルナちゃん──そしてセルフィー様を守れるなら。こんな私にできることがあるなら! 何だってやってやる!!」



 この選択は大局的に見て間違いと判断すべきものなのだろう。瀕死の一人を生かすために数十の人間を殺し、その臓器や四肢を使い一人を救うような、えげつない救済が詰まっているのだろう。


 それでもいい、と。

 大切な人に死んでほしくない、と。


 そう願うからこそ第七王女は手を伸ばした。そんな王女の手を掴み、側仕えのメイドは最後まで笑っていた。



 直後の出来事だ。

 ゴッバァァァッッッ!!!! と本陣を四十九万もの魂が生み出す閃光が呑み込んだ。

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