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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第四十二話 よし、戦争しよう その九

 

 アリシア国、首都。

 主城の正門付近は静寂に包まれていた。門番の二人が周辺民衆の避難を促してくれたためだ。



 そして。

 地面に転がる女が一人。



『四天将軍』の一角というだけあって骨がある敵であった。黒獣騎士団団長の二の腕や脇腹やふくらはぎが骨が見えるほどに抉られるくらいには。


 己の力、または己の能力で支配下に置いているもののエネルギーを『二乗』するスキル『能力増幅』は確かに厄介だった。四天将軍の一角らしい規格外のスキルだったと言えるだろう。


 ……最もその『前』の戦闘で少女騎士から受けたダメージがなければ、ここまで手こずることもなかっただが。


「ったく、四天ともあろう者が情けないもんだ。ちっとばっか六十八回ほど()()()くらいで死ぬなんてよ」


 スキル『幻影侵略』。

 攻撃を受けてダメージを負うという一連の流れ『まで』の幻覚を叩き込む、回避迎撃回復全て不可の強制損傷スキルである。


 肉体的ダメージはゼロのまま、しかし死ぬほどの苦痛だけをダイレクトに人格に刻むこのスキルにかかれば、生きながらに死の痛みを与え続けることができる。何度だって、精神が壊れるまでだ。


 結果、女は無傷で『死んでいた』。

 肉体的には問題なくとも、精神が致命的に壊れているのだ。


「……『剣術技術(ソードアーツ)限界突破(ブレイクオーバー)』、か。高望みしすぎていたから現実教えてやるつもりだったんだがなあ。つい楽しくなっちまって焚きつけすぎたもんだ。くそ、あそこまでの『天才』だったなんて予想外だっつーの」


 脳裏に浮かぶは眼帯の男に勝って『しまった』少女騎士の姿だった。あれだけの才、きちんと時間をかけて磨いてやればいずれは歴代の団長を超える騎士となるのも夢ではないのだが……あんなものに手を出しては、その前に朽ち果ててしまうだろう。


「『何を』消費しているかも判明してねえ『技術(アーツ)』のリミッターを解除するとか自殺行為にもほどかあるっての分かってんのかね? それが『何を』どこまで削ってんのか誰にも分かんねえんだぞ?」


 エリスであれば生存本能が壊れているがために魂から魔力が崩壊するまで漏れてしまうということが分かっている。ならば限界値も把握できる。自壊する前に踏みとどまることもできるのだ。


 しかしノワーズは違う。そもそも人間のみが使える『技術』を支えるエネルギーの正体も、そのエネルギーの源が何であるのかも、判明していないのだ。それでも『技術』は使える、それこそ人間が腕を動かすように体内で何がどうなっているのか完全に把握せずとも『そういうもの』であると理解していれば、動作そのものは行えるように。つまり『そういうもの』といった漠然とした感覚のみでリミッターの解除まで到達しているために、限界値なんて分かってないのだ。


 いつ、どこで、限界を迎えるのか。

 何が壊れてしまうのか。

 限界値を知らぬまま、しかし誰かを救うために『今すぐ』力を欲したためにノワーズ=サイドワームは禁忌の領域まで手を伸ばした。掴むことができるほどの『才能』の持ち主であった。


 だから、


「『天才』は俺なんかの想像を超える、と。そう期待するしかねえよなあ」


 ザン、と腰から引き抜いた長剣で四天の女の心臓を貫き、肉体的にも殺しながら、眼帯の男はそう呟いていた。



 ーーー☆ーーー



 エリス。

 ノワーズ=サイドワーム。

 共に人間を構築する上で大切な『何か』を削り、消費することで第九章魔法に匹敵する力を出力する真なる怪物。四天将軍など足元にも及ばないその暴虐があれば、ヘグリア国軍など敵ではなかっただろう。ともすれば単騎でだって相手できたかもしれない。


 ただ一人。

 かの国が雇った死肉の魔女さえいなければ。


「後は私に任せて民間人は逃げるっす」


「は? ちんたら遅れてやってきた騎士ごときが何様??? あんたにあいつを殺す力があるわけ?」


「力のあるなしは関係ないっす。私は騎士っすから。民間人を守るのが仕事っす」


「ご立派なことで。そんな根拠ない精神論に託して、逃げ出して、背中を撃ち抜かれるのは勘弁よ」


「言うっすね」


「妹の命がかかってるもの。例え神様が何とかするとほざいたって鼻で笑うでしょうね」



 ゴッ!! と空気の流れが変わる。

 漆黒の暴風が吹き荒れる。



「にひ☆ 呑気に会話を楽しむ暇があるとでも思ったかにゃー!? 『風の書』第九章第八節──風塵黒渦!!」


 ギュッボォッッッ!!!! と。

 光を歪めるほどの漆黒の『渦』が生まれる。

 まるで沸騰するように地面がめくり上がり、『渦』の中に吸い込まれていく。


 差し出された死肉の左手に集まるは大気。渦潮や竜巻といった渦巻く現象、その究極。その中心ではチリや土が圧縮、凝縮され蒸発していた。


 光さえも呑み込む死の『渦』。

 対してエリスの対応は単純だった。



 己から率先して飛び込んだ。

 その『渦』がミリファやリーダーを呑み込む前に粉砕するために。



「『水の書』第九章第四節──零点突破」


 世界が、変わる。

 ヒュッゴッ!! と吹き荒れる漆黒の『吹雪』。エリスの後方より具現化、炸裂するは絶対零度のその先に到達した『吹雪』。物理現象では実現できない、つまりは既存の法則を超越した魔法の極致。


 これぞ究極に至る鍵。

 魔法の最奥、第九章魔法。物質の運動を零とする氷結の領域が後方より迫る中、しかしエリスは目の前の『渦』を見据える。


 光さえも呑み込む究極の吸引力。

 万物圧縮抹消する漆黒の『渦』めがけてその拳を叩き込む。



 ゴッガァッッッ!!!! と猛烈な光が弾けた。魂を燃やし生まれた圧倒的な熱量が『渦』の中で暴れ回り、噴き出すように漏れたのだ。



「にひ☆ だけどそれだけじゃ──」


 さらに暴風が炸裂。

『渦』とは逆回転に荒れ狂う横殴りの竜巻が『渦』へと干渉、その回転速度を落とし──ついに紅蓮の咆哮が響き渡った。


 猛火が破裂し『渦』を砕く。

 だが、その時には死肉の魔女は後方に飛び退いており、エリスの背中に迫るは地面を凍らし砕き()()『吹雪』。



「騎士の目の前で何度も好きにできると思ったら大間違いっす!!」



 ズゾァ!!!! と振り抜かれる一閃。

気剣(スラッシュ)』。基本的な『技術(アーツ)』ではあるが、その威力は決して『気剣』が生み出せるものではなかった。


 首都で魔導兵器と闘っていた時と()()移動速度、技能であるというのに、不可視のエネルギーの量だけが桁外れに跳ね上がっている。


 絶対零度のその先。

 物理現象を超越した領域を一刀にて両断した力の正体は『剣術技術(ソードアーツ)限界突破(ブレイクオーバー)』。解析不能の『何か』のリミッターを解除した禁忌の力である。


「……ありがと」


「礼を言う必要はないっす、ただの通常業務っすよ」


「なにそれ格好つけてるわけ?」


「まさか、上司の口癖っすよ。最低限の業務は果たして当然ってことっすね」


「そう」


 一つ息を吐き、エリスは自分を守るように前に出る騎士の背中を見つめる。


「勝手にすればいいんじゃない? あたしも勝手にするしさ」


「避難する気はないってことっすか」


「当然」


 大きく一歩前に踏み出し、隣に並ぶ民間人を横目で見て、少女騎士はいつも通りの嘲笑を浮かべる。


「仕方ないっすから、守ってやるっすよ」


「妹のために精々頑張ってよね」


 炎風纏う女と眼帯の少女騎士はそれ以上口を開くことはなかった。やるべきは一つ、目の前の魔女を殲滅すること。


 ならば、果たせ。

 死力を尽くして、立ち塞がる『死』を粉砕せよ。



 ーーー☆ーーー



「えり、エリースっ! ちょっとは周りを気にしろーっ!!」


 もう何が何だか分からなかった。

 リーダーはスラムでの暮らしで知らず知らずのうちに身についた命の危機『だけ』は高精度で察知する感覚を頼りにエリスの妹やその同僚や王女を連れて安全圏に移動を繰り返していた。


 第九章魔法がどうのと聞こえるが、意味なんてさっぱりである。炎や水や風や土がこれまで以上に理解不能な暴虐を振るっているから、とにかく逃げるしかなかった。


 と。

 その時だ。


「……やばい」


 背筋に走る悪寒。

 直後に巨大な獣を模した土系統魔法が破壊され、その破片がリーダーたちめがけて落ちてくる。回避は……そもそもサイズが大きすぎて、どう足掻いても避けられそうにない。


「やばい!!」


 直後。

 ズッゾァ!! と迸る()()()()が土獣の破片をぶち抜いた。


 真っ二つに割れた破片がリーダーたちを避けるように落下したかと思うと──だだんっ!! とリーダーたちを囲むように降り立つ複数の銀の人影。



 つまりは白露騎士団。

 エリスの妨害という任務は失敗に終わったため、新たな命令が下されるまでは()()()()()()()と判断、騎士の務めを果たすために駆けつけたのだ。



「やっと……」


 その一人にして頂点。

 至る所が引き千切れ、溶けたフルアーマーの女が震えていた。耐えきれないと言いたげに両手を広げ、天を仰ぎ、そして咆哮が迸る。


「やっと騎士らしいことができたぞおおおお!! 民間人が戦っているのを見守るだけだったり、妹のために奔走している民間人に剣を向けたりしなくていいんだ、いいやもうやらない、やってられるかああああ!! 私は、騎士だ! 王妃様の命令だろうが知ったことか、胸を張って騎士だと言えるくらい格好つけてやるんだあああああああああああ!!!!」


 色々あったのだろう。

 ここはそっとしておくのが優しさである。



 ーーー☆ーーー



(なによ、これは……?)


 死肉に冷や汗を流す機能はない。どこぞの女王ではないので死体の操作にそこまで高度な付加価値はつけられない。原理は単純。魔導兵器擬きと同じく魔法で生きているように動かしているだけ。水に適度な柔らかさを付加して筋肉のように全身に張り巡らせ、風で外から補強しているだけなのだから。


 ギラリと胸に埋め込まれた魔石が光る。魔女の魂が内蔵された核、それ以外にも七十二に及ぶ魔石が死肉の中に詰まっていた。



 その中の魂のストックも凄まじい勢いで減っていく。エリスとノワーズ、二人の怪物の相手をするだけでだ。



(追い、詰められている?)


 第九章魔法。

 対軍魔法、大量破壊兵器、地形崩壊術式。呼び名はそれぞれだが、共通するのは『個』ではなく『集団』や『領域』に対して使用されるといった意味合いが含まれていることだ。そう、決して『個』を想定して生み出されたものではないのだ。


 それほどに強大な魔法だ、会得できる者は限られている。モルガンなどは人の身のままでは不可能であったから、より高次元たる魔女へと昇華したほどに。


 そこまでして、しかし『普通にやっては』魔女単体で第九章魔法は使用できない。魔力が足りないために、こうして死者の魂で埋め合わせる必要があるのだ。



 そこまでして具現化される究極に至る秘奥を猛火や暴風、斬撃が真正面から薙ぎ払っていく。



(にひ、にひひっ! 予想外、ああ確かに予想外よねー! ここまでとは思っていなかった、このままじゃ魔石のストック分を使い切っても殺しきれないかもしれない。認める、そこは認めてやるにゃー)


 この間にもガリガリとストック分の魂は削れていく。六十、五十、四十、三十、いいや二十を切りつつある。


 だが、そう、だが勝機はある。

 少女騎士が『何を』捨ててあれほどの力を絞り出しているかは不明だが、エリスの力の正体はすでに判明している。


 魂の消費。

 炎上暴風龍並み、あるいは以上の破壊力を引き出してきたのだ。その魂が崩壊、消滅するのは時間の問題である。


 そう、限界は近い。

 そしてエリスを崩せば、第九章魔法による力押しで少女騎士を殺すこともできる。


(でも、にひ☆ 手は残っているのよねー)


 なるほど、ストック分では足りないかもしれない。このまま押し切られる可能性だって十分あるだろう。



 が、ここから五百以上の魂を追加すれば?

 それほどの物量があれば、確実にエリスの魂を削り殺すことができる。



 つまりはアリシア国軍中央を進軍する高濃度魔力集合体。武力の第五王女ウルティア=アリシア=ヴァーミリオンを倒した戦力を呼び出せば、戦局は大きく傾くことだろう。


 さあ、今こそ恐怖を苦痛を絶望を与える時。

 エリスとノワーズ、二人ならば勝てると思い込んでいるところに極大の暴虐を叩き込み、より充実した殺しを刻み込んでやろうではないか。



 ーーー☆ーーー



 ぐっぢゅうっっっ!!!! と。

 戦争を大きく左右する一手が示された。


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