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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第二十一話 よし、邂逅しよう その五

 

 魔女モルガン=フォトンフィールド。

 首都全域に魔導兵器を送り込み、殺戮の限りを尽くした狂人。彼女は通常三ヶ月、天才でも数週間かかるはずの魔導兵器構築をものの数秒で成し遂げるほどの『力』を持つ。その『力』が魔導兵器に特化しているならばまだ何とでもなったが……魔女と名乗る殺人鬼の真価はそんなものではない。


 そう、彼女は魔女。

 ならば、その真価は──


「にひ☆ そろそろ反撃といこうかにゃー?」


 ブォン!! と展開されるは魔法陣。

 紡がれるは第一章から第三章の初級、第四章から第六章の中級()()()()


「『風の書』第()章第一節──絶風」



 ぎゅぢゅっ、と。

 丘の半分が『消滅』した。



 エリスのすぐ左を吹き抜けた黒い風はそよ風のような風力であったはずなのに、触れた存在を均等に抹消したのだ。


 魔法は章の数が上になればなるだけ威力や効果が上がっていく。第一章から第三章が初級、第三章から第六章が中級、そして第七章から第九章が上級魔法となる。


 ──上級ともなれば地形を変えるほどの力を出力できる。そう、これこそが魔女の真価、魔法であった。


「まったくいきなり上級なんて随分と魔法が得意なようね。あたしなんて最初に魔導兵器とやり合った時から魔法を構築してるのに、未だに出来上がらないくらいなのに」


「にひ☆ 力の差は理解できたはずにゃー。それでも折れないだなんて、うんうん()()()()()()()最高のご馳走だにゃー」


 ぴくりとエリスの眉が動く。

 言いようのない感覚が走るのを自覚する。

 嫌な予感、不穏な空気、総じて言えば勘が訴えてかけてくる。それ以上魔女に喋らせてはいけないと。


「いつか食べようと『情報収集』していた甲斐があったよねー。あんなの用意してくれるなんて『演出』してくださいって頼み込んでいるようなものだよねー☆」


「なにを、言ってるのよ……っ!!」


 ブォワッ!! と猛火を暴風に乗せて放つが、魔法陣と共に水のカーテンが展開され、じゅわ!! と蒸気が噴き出る。そこまでだった。魔女モルガン=フォトンフィールドの正面に解き放たれた水の壁が炎を巻き込んだ暴風を受け止めたのだ。


 そう、受け止めたのだ。

 フラグメントワンを魔女を探し出すために生かしたまま運ぶほどの力の差を示したエリスの攻撃をいとも簡単にだ。


「そう焦らないの。ここからだって、きちんと楽しい殺しにじっくり浸ってもらうからさー!!」


 水が上空に舞い上がる。

 薄く膜を張り、その透明度を底上げし、ガラスよりもなお反射率を増幅した『景色を写す膜』を展開。その膜を複数適切な位置に用意することで各膜に景色を写し繋げて『どこか』の光景を丘の上空に展開された膜まで写し出したのだ。


 写るのは首都のある一角。

 エリスもつい最近行ったことがある、その場所。


 そう、そこはミリファとその同僚が入っていった宿泊施設であった。もっといえばその近くに件の二人が倒れていた。


「ミリファっ」


「妹なんでしょ、あれ?」


「テメェ……ッ!!」


「違う違う、あれは私が手を出したんじゃなくて、逃げるために窓から飛び降りたんだって。にひ☆ ここからだよー楽しいのはさー」


 立ち上がろうとしていた。

 逃げようとしていた。

 まだミリファは折れていない、その心は生きようと足掻いている。



 だというのに。

 ずっ……、と異形が入り込んだ。



 それは土くれで形作られた異形であった。肥大化した『複数の』腕を引きずっていた。その腕一つ一つが宿泊施設に撃ち込まれた『矢』と同じものだとまではエリスは分からなかった。分からなかったが、その危険性は十分察することができた。


「なによ、あれ……」


「フラグメントファイブだにゃー。フラグメント自体はエリスだってやり合ったと思うけど?」


「ふざけるなっ。あんなのアリ!? 一体いくつ魔石を組み込んでいるのよ、あの機体は!?」


「結構消費したからなー。今は()()()個くらい?」


「……ッッッ!?」


 一つの魔石を組み込んだ魔導兵器よりも二つの魔石を組み込んだ魔導兵器のほうが出力は上だった。単純に魔石が増えれば、その分だけ動力源たる魔力の上限が上がるからだろうが……それにしたってあんまりだ。ただでさえ何の力もないただの村娘には一つの魔石を組み込んだ魔導兵器だって脅威だというのに、二十五個などというふざけた数を抱えた異形を前にして生き残れるわけがない。


「さあ、条件追加にゃー。急がないと妹死んじゃうよ?」


「テメェええええええええッッッ!!!!」


 恐怖を苦痛を絶望を搾り出し味わい尽くしたい、そのための『演出』に大切な妹の命が捧げられる前に何としても目の前の魔女を突破し、二十五個の魔石を組み込んだ魔導兵器を粉砕しなければならない。



 ーーー☆ーーー



『にひ☆』


 ずりざりがりごり、と。

 それは数メートルクラスの腕を引きずる巨大な土くれの人形であった。数十の腕はまさしくミリファたちを襲った『矢』であり、それぞれに魔石が組み込まれている。ギラリと頭部にあたる箇所には五つの魔石が組み込んであり、無機質に彼女たちを見つめていた。


 どうしようもなかった。

 滑らかな、場違いなほど明るい声をあげる異形を前にミリファたちは動きを止めていた。目の前の異形は『矢』を撃ち込んできた下手人だ。逃げなければならない。早くしなければ殺される。そんなことは分かっていた。なのに動けない。ぴくぴくと足は震えるだけで一向に力は入らない。目からはぼろぼろと涙が流れる。視界は歪み、なのに目の前の異形の存在が強烈に刻み込まれる。


 どうしようもなかった。

 ブォン! と異形の腕の一本が横殴りに放たれた時も呆然と眺めていただけだった。いやにスローな光景。走馬灯なのだと気づくことはできたのか。


 どうしようもなかった。

 ぎゅっとファルナの身体を抱きしめたところで小柄なミリファの肉体なんて盾にもならない。仲良く吹き飛ばされるだけだ。



 だから、どうにかしたのは外側からの介入であった。

 ガギィンッ!! と半ばよりへし折れた長剣の先から出力された不可視の刃が異形の腕を受け止める。



 それは無事な箇所を見つけるほうが困難なほどにズタボロな少女であった。


 それはここまで連れ逃げてきた女の子をミリファたちへと投げ捨て、両手で握った剣を振るう存在であった。


 それは民の盾となり、民の命を守る、正真正銘の騎士であった。


 ノワーズ=サイドワーム。

 最年少天才騎士は今にも崩れ落ちそうなくせにその口元に嘲笑を浮かべ、目の前の異形を見据える。


「本当めんどうっすね。こちとらあの子供一人背負うのだっていっぱいいっぱいっすのに、二人も追加しやがってっす!!」


『にひ☆ 見捨てればよかったじゃん』


「そうっすよね。それが私『が』生き残る最善手っすよね。だけど──そんな真似できたら、苦労はしないっすよお!!」


 腕を押し返し、返す刃で不可視の刃を袈裟斬りに放つ。が、それは無数に蠢く腕の一本が受け止め、もう一本がお返しとばかりに振り回される。


「っ!!」


 一本は避けられた、追撃も不可視の刃で受け止めた、次も身体をさばくことで回避できた。そこまでだった。視界を埋め尽くす勢いで一斉に振り回された腕の壁に少女騎士の肉体が吹き飛ばされる。


「が、ばぶっ!?」


 奇しくもミリファたちのそばに転がるように。いいや、モルガンのことだ。そうなるよう『演出』したに決まっている。


『にひ☆ 追いつーいたっ』


 だから、後ろから二つの魔石を組み込んだ鎧型魔導兵器、フラグメントツーが声をかけてきた。恐怖を絞り出し、苦痛を刻み込み、絶望の底に落とし、熟成させた魂を殺すために。


『『さあ、どうする騎士様? ここからどうやって救うと言うんだにゃー???』』


「決まってるっす」


 迷うそぶりすら見せなかった。

 少女騎士は地面に手をつき、身体を起こし、投げ捨てた衝撃で両肩口の傷口が発する激痛がぶり返したのか精神的なショックのせいなのか気を失った女の子を確認。視線を動かし、抱き合う少女たちを見つめ、口を開く。


「ここは私が足止めするっすから、代わりにその子供連れて逃げてくれっす」


「え、あ?」


「呆けている暇はないっすよ。私だってそう保つとは思えないっす! 私が死んだら、次はお前らっすよっ。分かったら逃げろっす!!」


 助けがやってきた、随分と()()()()駆けつけることができたことに何者かの『演出』が見え隠れしていたが、理由はどうあれ命は繋がった。生きるためには選択するしかない。


 何を切り捨て、何を選ぶか。

 そんなの決まっていた。


(ちくしょう! ちくしょうちくしょうちくしょう!!)


「こんな状況で私たちを助けてくれた人を見殺しにできるものかあ!!」


 ミリファには何の力もない。

 ちょっとぐーたらな村娘でしかない。

 だからといって何もできないとは限らない。


 メイド服の中から取り出した白にも黒にも見える鉱石、魔石を掴み、ミリファは叫ぶ。


「みんなで逃げるのが正解に決まってるじゃん!!」


 思いきり地面に叩きつけた。

 魔石に亀裂が走り、吸着されていた魔力が破裂、閃光を放ち、そして──



 ーーー☆ーーー



 ミリファに知識はない。魔石とは衝撃を加えたら閃光を放つものとしか捉えていない。田舎で育った少女は魔導兵器なんて見たこともなかった。


 だけど、知っているかいないかは重要ではない。

 重要なことはどのような『法則』が存在するかどうかである。


 ある勉強会の一幕。

 公爵令嬢御付きのメイドはこう言った。



『魂は他の「魔力(フォトン)」と混ざると拒絶反応を起こし、最悪の場合魂が崩壊、生命活動の停止を招きます。よって魔法陣展開時に魔法を放り込めば、一直線に己が魂を狙い殺されることとなるというわけですね。そのため魔法戦闘時には魔法陣展開を最小に収めます。というか、魔法放射と共に解除するのが常識ですよね』



 魔力の源たる魂、もっといえば魔力で構築された魂は異なる魔力が混ざると拒絶反応を起こし、崩壊する。


 そう、異なる魔力を混ぜることが原因で魂が崩壊するということは、魔力だって異なる魔力を混ぜれば()()()()ということだ。


 どんな反応が起きて、どんな現象が発生するか細かいところまでは不明だが、少なくとも結果として異なる魔力同士が崩壊することだけは確かだ。


 ならば、魔石を叩きつけ吸着されていた魔力を閃光のような形で放出した場合、魔力を吸着するという特徴を持つ魔石へと異なる魔力が入り込むことになるのではないか?



 結果は以下の通り。

 閃光を浴びた魔導兵器は軒並み動きを止めた。動力源たる魔石内部の魔力が崩壊したのだから、当然の結果であるだろう。



「…………、あれ?」


 いっそミリファのほうがキョトンとしていた。目くらましになればいいくらいにしか考えていなかったというのに、なぜか異形どもが動かなくなったのだから無理もないだろう。


 ともあれ脅威は取り除いた。

 未だに首都には魔導兵器が暴れまわっているため安心はできないが、ここからは『姉』の出番である



 ーーー☆ーーー



「は? なにそれ??? 意味わからない、何よその決着っ。あれだけ『演出』したんだよ、都合よく騎士が駆けつけて、それでも呆気なく殺されて、絶望と共に蹂躙される、そうあるべきなのに。それが最高に気持ちいい展開なのに!!」


「もういいわよね」


 ゴギ、と首を鳴らし。

 エリスはどこか自慢げに表情を綻ばせ、こう告げた。


「あたしの妹は最高に格好良かった。それだけよ。というか? そういった『演出』してくれたんでしょ。ナイスよ、クソ魔女。この展開、最高に気持ちいいわ」


「……ッ!!」


 意趣返しとばかりに嘯き、猛火と暴風を操る女は静かに掌を魔女へと向ける。


「こっちもようやっと魔法が完成したしね。妹は最高に格好良く生き残り、姉はクソ野郎をぶち殺す、と。なになに著名な演出家だったわけ?」


「に、にひ☆ 調子に乗ってるねー。魔法が完成した? だから??? 私は上級魔法にまで手を伸ばした真なる魔女! 我が叡智をたかが一冒険者ギルドのエースごときが打ち破れると思っているのかにゃー!?」


 ブォン!! と展開される魔法陣。これまでで一番巨大で禍々しいその陣が繋ぐは上級へと至る領域。


「『炎の書』第八章第四節──!!」


 対しエリスもまた魔法陣を展開、紡ぐ言の葉は炎を導く道。その領域は、


「『炎の書』第三章第九節──」


 その言葉に魔女は呆れと侮蔑が止まらなかった。

 かなりの時間をかけて生まれたのがまさかの第三章。初級に位置する魔法を自慢げに持ち出してきただなんて呆れてものも言えなかった。


 結果で示そう。

 焼き尽くして終わりにしよう。

 してやったりという舐め腐った心を蹂躙し、殺してやろうではないか。


「──獄炎灼槍撃!!」


「──火炎弾」


 魔女が解き放ったのは漆黒の業火であった。上級を示す黒を爛々と輝かせる業火は勢い良く膨れ上がる。一挙に小高い丘なんて簡単に呑み込む巨大な漆黒の炎槍となりて、標的の肉体はおろか魂さえも焼き殺すために解放される。


 哀れな標的は呆気なく蒸発する。そうなるべきだ、そうあるのが当たり前だ、自然で定番で常識である……はずなのに。



 ゴッアアアアアッッッ!!!! と。

 上級魔法に匹敵するサイズの火炎の塊が漆黒の炎槍を迎え撃つ。



 見かけ倒しではない、確かに初級が上級と均衡を保っているのだ。普通ではあり得ない、だが、そう、そもそもエリスは普通であったか?


技術(アーツ)』の二重使用だけでも規格外だというのに、一つは希少属性であり、その力はフラグメントワンを敵を見つけ出す道具代わりにするほど。


 だからといって、こんなのは──


「昔から魔法ってのが苦手でね。感情が昂ぶれば暴走して漏れるし、制御可能なまでに調整、具現化するのにも時間がかかるしさ。こんなじゃじゃ馬、みんなはよくもまあすぐに召喚できるよね。まあその辺をどうにかするために『魔力技術(フォトンアーツ)』を生み出したわけだけど」


「だからどうした、私は魔女よ! 押し負けるわけがない、初級で上級を打ち負かすことなんてできるわけがない!!」


 その通りなのだろう。

 今は均衡を保っているが、じりじりと漆黒の炎槍が押し始めていた。力の差はほとんどゼロに等しいが、ほんの一歩魔女の魔法が上であった。


 だけど、忘れたか。

 かの存在の二つ名を。


「『風の書』第三章第二節──」


「は?」


 ブォン! と先の魔法陣に重ねて展開される魔法陣。

 そう、彼女は『炎上()()のエリス』。炎と風を同時に操る戦闘スタイルを得意とする女である。


「ちょっと、待ってよ」


 前述の通り、漆黒の炎槍と火炎弾との力の差はほぼゼロ。ギリギリ漆黒の炎槍が上であったために徐々に押し始めているが──そこに火炎弾と同ランクの魔法が追加されれば、どうなる?


「そんなの無茶苦茶よ、できるわけがない! 上級に匹敵する魔法を同時使用なんて魔女たる私にだって不可能なのに!!」


「テメェができるかどうかなんて知らないわよ。あたしはできる、それだけよ」


 二重に重なり合った魔法陣が眩い限りの閃光を放つ。

 合わせろと、これこそが『炎上暴風のエリス』の本当の魔法なのだと、そう示すがごとく。


「──風龍波」


 解放されるは龍の形を作る暴風であった。その暴風は膨大な熱量を秘める火炎弾を巻き上げ、酸素を存分に取り込ませ、更なる勢いで炎上させる。そうして発生した温度変化が生み出す空気の爆発さえも暴風で巻き込み、相乗的に威力を底上げする。


 その牙が。

 漆黒の炎槍へと突き立てられる!!


「混合魔法──焼き砕け、炎上暴風龍」



 まさに圧倒であった。

 その牙は魔女の槍を軽々と噛み砕き、舞い上げ、漆黒さえも取り込んでいく。



「に、にひ、にひひひひひ☆ まだ、まだよ! ()()()えッッッ!!!!」


 それは不可視の『圧』であった。

 ある種の強制力、魔法の制御権を簒奪する見えざる手であった。


 それこそが魔女の奥の手だったのだろう。

 それとも数多の魔導兵器を生み出し操っていた原因たる力であったのか。


 関係なかった。押し潰した。

 一瞬、炎上暴風龍の動きが止まりはしたが、エリスが少し力を込めるだけで燃え盛る風の龍は勢い良く魔女目掛けて猛進する。


「は。はは……にひゃはははははははあッ!!」


 もういいだろうと突きつけるように、龍のアギトが魔女を呑み込んだ。炎が肉を焼き、風が骨を砕く。巻き上げ、焼き尽くし、削り飛ばし、灰さえも残さずその存在を抹消する。


「っづ!!」


 ゴッアッッッ!!!! とそのままでは半分残っていた丘どころかここら一帯を吹き飛ばしかねないほどに炎風龍には膨大なエネルギーが蓄積していたために、エリスは矛先を上空に変更。燃え盛る風の龍が天高く昇っていく。


「終わっ、た……わね」


 ガクンッ! と膝から地面に崩れ落ちるエリス。

 彼女は魔法の制御が苦手である。普通の人間であれば持っているべき生存本能、つまりは限界値。これ以上魂から魔力を絞り出せば、魂の維持にも関わる生命を繋ぐラインが壊れているのだ。ゆえに魂から引き出すことができる魔力の上限が振り切っており、だからこそありったけの魔力を注ぎ込むことで強大な魔法を具現化できる。


 代わりに一発魔法を放つだけで生死の境を彷徨うことも珍しくない。


(頑張って調整したつもりだったけど……やばいわね。結構危ないかも)


 淀む意識の中、しかし後悔はなかった。

 満足すらしていた。

 そうして意識を手放す寸前のことだった。


「エリスっ」


 天使の声を聞いた気がした。



 ーーー☆ーーー



「お、魔導兵器止まったみてーだな。誰かが『使用者』仕留めてくれたのかね?」


 ミリファたちを建物の陰から見つめる男がいた。不真面目そうな顔をした騎士、つまりはガジルである。


 二十以上の魔石を組み込んだ魔導兵器がミリファたちを襲う寸前に彼は駆けつけていた。少女騎士が魔導兵器の注目を集めてくれていたため、その隙を狙って二機の魔導兵器を破壊するつもりだったが、ミリファが上手いこと対処してくれたようだと息を吐く。


 そんな彼の後ろには魔導兵器の残骸が転がっていた。外に出てきたガラクタがミリファたちを襲う前に対処した結果であり、宿泊施設の中から魔法で狙撃を仕掛けようとしていた機体も彼は()()()()()()()()()コアを破壊していた。この程度の間合いなら問題はなかった。


 そう、通常の魔導兵器ならどうとでもなったが、鎧型や二十以上も魔石を組み込んだ機体と正面から激突していれば、勝てるかどうか以前に戦闘の余波でミリファたちが死ぬ可能性が高かった。


 だからこそ不意打ちを仕掛け迅速に片付けようとしていたが……成功率は低かったと言っていい。そういった面から考えても、先のミリファの行動はありがたかった。守りに駆けつけたのに余波で死んでましたなんて結果にならずに済んだがために。


「今回はなんとかなった、と。まーまだまだ始まったばかりなんだがな。これ以上の災厄とその災厄に立ち向かう『運命』とやらをどうにかしねーとだなんて先が思いやられることで」

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