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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第十九話 よし、邂逅しよう その三

 

「ミリファ、さん! これ、その、あの……!!」


「ファルナちゃん今はとにかく走って!! お願いだから!!」


 通路を駆け抜けるミリファとファルナの視界の端では魔石が光り『矢』がその形を変えていく。床や天井やベッドや肉を取り込んだ獣型や人型は今にも動き出すことだろう。そうなれば、何の力もない少女たちなど木っ端のように粉砕されるだけだ。


(首都に来る前に逃走用に買っておいた魔石が一つ残っているけど……それだけじゃあ!!)


 できることといえば、姉エリスから逃走しようとした際にも行っていた魔石を砕くことによる閃光の誘発くらいだ。器を壊すことで魔力を噴出させる目くらましだが、そもそも魔導兵器相手に目くらましが効くとは思えない。


『ガギギ……』


「っ!!」


 ついに形は整った。途端に『矢』から変異した異形の群れはその機能を存分に発揮していく。それは一瞬の出来事だった。女を喰らい、男を砕き、青年が引き裂かれ、女性が踏み潰される。


「ミリ……っ!!」


「いいから走ってよお!!」


 運が良かった、それだけだった。

 異形どもが他の人間を襲っている隙にミリファたちは通路の端まで走り抜けることができた。正面の行き止まりには窓があり、右手には階段がある。ここは最上階である三階だが、ここを使えば一階まで下りることができる。とりあえずこの場に蠢く異形どもから逃げることができる……はずだった。



『ジジ……ッ!!』



「……なんで」


 だというのに、眼下に君臨するは魔石を組み込んだ異形であった。下に繋がる階段を塞ぐようにそれは歩み寄ってくる。


「なんで、なんでなんでなんでえ!!」


 ここは最上階だ。下を塞がれてしまえば、逃げ場はなくなる。階段は通路の両端に設置されているが、もう一つを使うには異形蠢く通路を通過する必要がある。


 そんなのできるわけがない。

 ここまで到達できたのだって運が良かったからだ、誰かが貪られている隙を利用したに過ぎない。もう一度同じことなんてできるわけもない。そもそもあの時と違い、『矢』は完全に変異して、活動しているのだから。


 つまり。

 つまり。

 つまり。


「死なない……死んでたまるかあ!!」


 残されたのは正面の行き止まり、その窓を使うことだった。恐怖に足がすくむ前に勢いに任せて突撃する。その手にファルナを引っ張ったまま窓を突き破り、三階もの高さから落下していく。



 ーーー☆ーーー



 主城、その中心たる玉座の間では王妃が玉座に腰掛けていた。魔導兵器たる玉座は風の流れを制御することで専用の受信装置のみ捉えることができる特定の波を作り出し、指揮官等に支給された魔導兵器に声を伝える連絡手段とする。つまりは伝令の役目を果たすということだ。


 そんな玉座に腰掛けているのは王ではなく王妃である点にこの国のパワーバランスが見て取れる。貴族でさえ『才能』を軸としているのだから、トップたる王族はより色濃く示しているのもそう不思議なものではない。


 と、そこで。

 ドグシャッ!! と玉座の間の壁を砕き、飛び込んでくる影が一つ。二つの魔石を埋め込んだ木屑を束ねし異形、フラグメントフォーである。


 咄嗟に側近のように後ろに控えていた王が王妃を庇わんと動くが、王妃はといえば柔らかい微笑を崩しさえしていなかった。


『にひ☆ 殺しにきたよー王妃様』


「あらあら」


『にひ、にひひっ☆ 最強と名高い「女傑の血」を殺せれば、それはそれは気持ちいいんだろうなー』


「ガラクタを介さなければ殺しの一つもできない臆病者が随分とまあ……ふふ」


『うんうん、そーゆーのを踏みにじるのがいいんだって、わかってるうー☆』


 それ以上の会話はなかった。

 決着は一瞬であったがために。



 ーーー☆ーーー



 フラグメントフォーが玉座の間に突っ込んだのを見ていたガジルはといえば、五人目の侵入者の喉を手刀で飛ばしながら、どこか呆れたように息を吐いていた。


「そう簡単にやれれば、苦労はしねーっての」



 ーーー☆ーーー



 二つの魔石を組み込んだ鎧型魔導兵器、フラグメントツーを前にやはり少女騎士は嘲笑を消すことはなかった。それこそ地面に飛び込むのではと思うほど体を倒す独特のスタイルで間合いを詰め、背中に回していた長剣へと不可視のエネルギーを展開、『気剣(スラッシュ)』を叩き込む。


 フラグメントツーはといえば直撃までその場を動くことはなかった。そのまま斬撃は鎧の脇腹を正確に襲い──ガギンッ!! と受け止めた。


「なっ」


『メインディッシュは「女傑の血」くらいだと思ってたけど、「炎上暴風のエリス」なんていうご馳走が混ざってるし、騎士団長も予想以上だったし……楽しみだなー』


 お返しとばかりにフラグメントツーの両腕が潰れ、両刃の剣へと変質。魔法陣が展開され、必要な硬度や切れ味を底上げする。


 そのまま振り回した。技術も何もあったものではない挙動だというのに、そこに付加された速度が刃を必殺と変える。


「っ!!」


 受け止められたのは奇跡だった。『気剣』を纏う長剣で受けたというのに、受けた少女騎士のほうが大きく後退しているほどだ。


 ビギバギと手首が悲鳴をあげる。衝撃で筋肉が不気味に痙攣し硬直する。それでも戦闘行為を維持できはするが、今すぐに長剣を振るうことはできない。唯一の武器を束の間封じられた。


「な、ん……っ!!」


 何とか倒れることだけは阻止したが、衝撃に長剣を持つ右腕は頭上に上がっている。胴が丸裸の無防備であり、そんな分かりやすい隙をフラグメントツーは見逃すほどお人好しではなかった。


 差し込まれるは右の両刃。真っ直ぐに心臓を刺し貫かんと迫る凶刃に対して騎士は左手を差し出す。剣服へと掌底を叩き込む。もちろんこの程度で弾き飛ばせるとは思ってない。この一手は両刃の軌道をズラすと共に、両刃を支えとして身体をさばき回避行動に移るためのもの。


 だから、しかし、瞬間的に魔法陣が両刃を覆い──ボォッン!! と暴風を撒き散らした。


「が、ぁ……っ!!」


 全身を風の壁に叩かれ、宙を舞う少女騎士。ノーバウンドで何メートルも吹き飛ばされ、『女傑像』へと叩きつけられる。ビギビギッ!! と石造りの頑丈な『女傑像』に亀裂が走るほどの勢いでだ。


『にひ☆ メインディッシュばかりじゃそれはそれで胸焼けしちゃうからさー。やっぱり前菜やスープを挟まないとねー』


「ば、かに、してる……っすね」


『いやいやこれでも褒めているんだよ? なんていうか貴女ってばちょうどいい食べ応えって感じかにゃー。しかも美味しい組み合わせを連れてきてくるなんて、やるじゃん』


「くみ、合わせ?」


『あれ、親子だよねー。にひひっ☆ 子を守る親とか定番だって。もう、もうもう! ありきたりだけど、だからこそこんなにそそられるんだろうねー』


「っ!?」


 二つ目以外の鎧はどこにいった、と今更気づいた少女騎士が跳ね起きようとするが、ごぶっ!! と喉の奥からせり上がってきた血の塊が吐き出される。咳き込み、地面に手をつき、何とか立ち上がろうとして──



 目にしたのは鎧型魔導兵器の持つ剣や槍が母親を斬り裂く光景だった。気絶した娘に覆い被さるように庇うその背中を痛めつけるようにだ。



『早く起きないかなーあの子。せっかくの甘美な組み合わせだもの、最大限活かしてあげないとねー』


「何を、やってるっすかぁ!!」


『何って見ての通り楽しい楽しい殺しだよー。どこぞの騎士様が弱っちいから、「私」のような悪党が伸び伸びと楽しめます、どうもありがとーねー☆』


「ッッッ!!!!」


 限界なんてとっくに超えていた。指を動かすのだって難しいほどだったが、それでも騎士は地面を蹴っていた。フラグメントツー……なんて木っ端を無視して、ひと思いに殺すことなく剣や槍を振るって苦痛を長引かせている鎧の群れへと突っ込んだのだ。


「めんどうなこと、やってんじゃないっすよ!!」


気剣(スラッシュ)』一閃、一番近かった鎧を斬り裂き、ようやくその刃を母親から騎士へと向け直す魔導兵器へと肉薄する。


 肉体的ダメージは相当なものだ、今にも倒れたって不思議はない。だから、もう、余裕なんてなかった。とにかく暴れるしかなかったのだ。


 敵が槍を突き込んでくれば、左掌で受け止める。その際に掌を突き抜けた気もしたが、そんな些事無視して得物を捕らえられたがために生まれた瞬間的な硬直へと『気剣』を叩き込む。


 そこに別の機体が剣を袈裟に振るってきたため掌を突き抜けている槍を掴み、振り回す。魔導兵器のくせに死後硬直のように槍を握ったままの鎧ごと叩きつけ、動きを止めたところに魔石へと蹴りをぶつけ粉砕する。


 側頭部を棍棒が襲い、大鎌が脇腹に突き刺さり、ハンマーが左肩を砕くが、それら全てを隙とみなし攻撃をぶつけた直後の一瞬の硬直に返す刃で魔石を破壊していく。


「おァああああ!!」


 どうせ肉体は壊れている、もうどれだけ保つか分かったものではない。今は気力で無理矢理動かしているが、そもそも鎧型魔導兵器に立ち向かった時には既に限界は近かった。ならば、こんなのは誤差だ、気力でねじ伏せる事ができるはずだ。


 だから、通せ。

 母親も娘も救い出す、そんな『夢物語』をだ。


「ごぶ、がぶべぶぼふっ!!」


 文字通り血反吐を吐きながら、少女騎士は剣を振るう。せめてここだけは守り抜くと、『こっち』は任されたのだと、めんどうな光景を見せるんじゃないと、奥歯を噛み締める。


 そんな時だ。

 残りは半数、五体も残っていないというのに、その笑い声は彼女の鼓膜を不気味に震わせた。


『にひ☆』


「っ!?」


 後ろより滑り込むように響くはフラグメントツーからの笑い声。振るわれるは両刃の両腕。まずは右の両刃が右肩から左脇腹を抜く軌跡で放たれた。


 対して少女騎士は恥も外聞も投げ捨てて地面に飛び込んだ。転がり、距離を取り、両刃の攻撃範囲から逃れようとして──左の両刃を下方から振り上げながら、フラグメントツーが肉薄する。


「お、ああああああああ!!」


 ザンッ! と長剣を地面に突き刺し、剣服を盾のように構え、ありったけの『技術(アーツ)』を注ぎ込み、そして──呆気なく吹き散らされた。両刃は不可視のエネルギーも長剣もお構いなしだった。力づくで斬り裂き、突破し、その奥の柔らかな肉を存分に薙ぎ斬る。


 キン、と折れた長剣の刃が地面を転がる。

 ぶしゅ、と遅れて胴体を斜めに裂かれた傷口から鮮血が噴き出す。


「……まだ、っす。まだ、私はっ!」


『にひ☆ あれなーんだ?』


 しかし、そこで終わらない。

 フラグメントツーは右の両刃で指し示す。



 それは目を覚ました女の子が母親にすがりついている光景であり、それは残った鎧型魔導兵器がそんな彼女を踏みつけた光景であり、それは娘の目の前で母親の心臓に槍が突き刺された光景であった。



 しばし無音が続き。

 爆発するかのごとき絶叫が響き。

 耐えきれないと言いたげにフラグメントツーが鎧をカタカタと震わせる。


『にひ、にひひ、にひひひひひひ☆ ああ最高、きっもちいいーっ!! これこれ、殺しはこうじゃないと!! 踏みにじる快感、奪う快感、嘆き悲しむ感情の奔流にひたる快感っ。たまらない、こんなのやめられるわけないっ。ねーねーどうどう? ありきたりでベッタベタな定番だけどさーだからこそだよねー。美味しいからこそ誰もが求めて、結果定番として定着するってことなんだよねー☆』


「くそ、野郎が……」


『うんうん、心配いらないって。アフターケアもばっちりなんだから。絶望は鮮度が命、長引かせたって腐り澱むだけ。だから、うん、あれもきちんと殺してあげるからさー! にひ☆ 母親を失った絶望をいつまでも背負う必要はないんだよー死ねばもう辛くないよー。にひ、にひゃはははっ!!』


「クソ野郎がぁ!! ぶっ殺してやるっす!!」


『無理無理フラグメントごときにコテンパンな騎士様になーにができるんだか。というか? この機体を壊したって「私」には届かない的な???』


「関係ないっす! 貴様は、私が! 絶対に!! ぶっ殺すっすッッッ!!!!」


『にひ☆ うんうんいいねー甘美だねー。そうやって想いを燃やして、頑張って、足掻いて、その末に無情にも殺される。ああっ! 想像しただけで背筋がゾクゾクするう!!』


 それ以上の戯言に耳を傾ける気はなかった。

 長剣を半ばより折られ、傷口から盛大に鮮血を噴き出しながら、それでも少女騎士はフラグメントツーに挑む。その胸に燃える意思に突き動かされて。



 ーーー☆ーーー



 第四王女エカテリーナは血溜まりを見つめ、ふんと鼻で息を吐く。


「妾たちが二人がかりでしたというのに、よくもまあここまで保ったものですわ。穢らわしい存在のくせに生意気ですわね」


 それはフラグメントスリーであった。ただし第五王女ウルティアに千切り潰され、第四王女エカテリーナに斬り裂かれた肉の残骸であったが。


「門番たちは……ふん、既にオリアナ姉が安全圏まで運び出していますわね。相変わらず人脈を広げ好きに操るために腐心しているようですが、結果として王家の所有物を救えるのならば理由なんてどうでもいいですわね」


「ふひー。楽しかったー。ねーねーエカテリーナー。まだだよね、この奥には魔導兵器の『使用者』がいるんだよね? お礼をしないと、壊していいおもちゃをくれてありがとうって!!」


「心配せずとも探し出して差し上げます。おほほ、ここらで暴れている魔導兵器は動作を事前に登録した完全自動操縦ではなさそうですし、『使用者』が流す魔力の流れを辿れば感知できるはずですわ」


「で、どこにいるの???」


「……、も、もう少しなのです、ええ、あと少しなのです!!」


「えー。使えなーい」


「ウルティアっ。貴女姉に向かってなんと失礼なことを!!」


「魔法の第四王女なんて偉そうに語っておいて、これかよ」


「ウルティアあああああ!!」



 ーーー☆ーーー



「にひ☆ そろそろ潮時かにゃー」


 防壁に囲まれた首都、その近郊。小高い丘の上からわざとらしく額に手を当て、首都を眺める影が一つ。


 黒のとんがり帽子にこれまた黒のマント。典型的な魔女っ子スタイルの若い女であった。彼女こそが首都全域に魔導兵器を撒き散らし、幾多もの殺しをばら撒いた張本人である。


 モルガン=フォトンフィールド。

 あるいは魔女とでも呼ぶべき存在である。


 彼女はすべての魔導兵器を魔力と()()()()操作していた。魔導兵器を自在に操るだけでなく、どうやってか戦場の状況までも把握していた節がある。


 だからこそ、モルガンは少々不満げだった。『女傑の血』は本番にとっておくとしても、まだまだ楽しめそうな殺しが残っているというのに、魔法の第四王女エカテリーナからの探知に引っかかりかねない現状が不満で仕方なかった。


 見つかるのを恐れたのではない。

 本体を強襲されたくなかったのではない。

 せっかく楽しい殺しの計画を練っているというのに、彼女たちがここにきては熱中しすぎてうっかり殺してしまうことを嫌がっているのだ。


 そこで。

 モルガンは口の端を歓喜に歪めていた。


「にひ☆」



 直後に丘に突き刺さる炎の流星。

 それは『炎上暴風のエリス』と呼ばれる人間であった。



「見つけたわよ」


 その手はフラグメントワンの頭を掴んでいた。そのまま暴風で削り、猛火で焼き尽くす。弱点たる魔石を完全に破壊する。


「魔導兵器を自前の魔力で継続的に操ったのは失敗だったわね。お陰で魔力の流れを辿って、テメェを見つけ出すことができたんだから」


 だから、今までフラグメントワンに注がれていた微小の魔力を元に移動していたのだろう。そうして『使用者』を見つけ出した。ゆえに用済みになったガラクタを破壊したのだ。


「にひ☆ ダメダメ、わかってないねー。機械ごしでも私の手で操っていれば、それだけ鮮烈に殺しの感触を楽しめ──」


「うるさい」



 ゴッバァン!!!! とその轟音は強く大きく響き渡った。それはエリスの拳がモルガンの鼻っ面に叩き込まれた音であった。



 何度も何度も地面をバウンドするモルガンへと容赦なく暴風による追撃を仕掛け、舞い上がったところで地面から噴き出した炎が貫く。


 その間にも足の裏に炎による推進力を溜めていたエリスはそれを解放、流星のごとき勢いでモルガンへと襲いかかる。


「殺してやるって言ったはずよ、クソ野郎」


 ゴッバァン!! という再度の轟音。華奢な胸に暴風を纏い捻り貫通力を底上げした拳が叩きつけられる。

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