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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第十七話 よし、邂逅しよう その一

 

「ぶほわっ!? なんなに今のなにい!?」


 耳をつんざく破砕音に流石のぐーたら娘も惰眠から跳ね起きていた。その際にぎゅうぎゅうと抱き締められたファルナが体を震わせていたが、そんな場合ではなかった。


 ベッドの横に突き抜けているは巨大な『矢』。ワンポイントのつもりなのか、白にも黒にも見える鉱石が一つ表面に埋まっていたりする。


 その『矢』は土くれを切り出して作ったかのような大質量を持ち、オマケに建物をぶち抜いて、部屋の壁を砕き、床を貫いておきながら一欠片も欠けることがないほどの硬度を持っているときた。


 しかも、ズドンバゴンドゴンッ!! と建物を揺るがす轟音と震動は続く。おそらく似たような『矢』が連続的に宿屋を襲っているのだろう。


(やばいやばいやばい!! お姉ちゃんがいたなら何の心配もいらないけど、こんな、嘘でしょっ。首都だよ都会だよ安全面でいえば田舎な地元よりも万全なんじゃないの!? こんな意味わかんないもんがバカスカ撃ち込まれるのがまかり通るなんて、首都の治安維持能力はどうなってるのよーっ!!)


 混乱していた。

 一人だったならば、ミリファは意味もなく泣き叫んで現実逃避してその場から一歩も動けなかったはずだ。数メートルクラスの『矢』がすぐそばに撃ち込まれたのだ。ほんの少しズレていれば、ミリファの小柄な肉体なんて弾け飛んでいたはずだ。


 今更になって恐怖に身体の芯から震えが走るが──


「み、ミリファさん……」


 その声を聞いて、ガリッと犬歯で唇を噛み締めていた。恐怖を痛みで散らすつもりだったのか、口の中に鉄臭い味が広がるが、その程度でどうにかなるものでもなかった。


 それでも。

 それでも、だ。


 見栄でいい、誤解でいい、虚構でいい。この腕の中にある友達を守ることができるのであれば、生来のぐーたらも身体の芯から走る恐怖もねじ伏せる力が湧き上がるのであれば。


「大丈夫。私を誰だと思っているの? 第七王女が側仕え、ミリファちゃんだぜ!!」


 胸を張れ、気力を振り絞れ、己の感情なんて押し殺せ。二人仲良く恐怖に縛られたって二人仲良く死ぬだけだ。ならば、足掻け。己の自己満足のために誤解を招いたままにしていたのだ。それさえも利用しろ。


 ミリファならば、ファルナを救える。

 少なくともファルナの恐怖を尊敬するメイドの言葉で和らげることができるはずだ。


「ミリファさん……それ、今関係あるかな」


「何を言う。側仕えになれるメイドってのは不測の事態だろうが業務時間外だろうが華麗に活躍できるもんよ!!」


 ファルナだって分かっていたはずだ。ミリファの言葉に整合性なんてなくて、全てはファルナを慰めるためのものであると。


 それが分かったからこそ、ファルナは小さく笑うことができた。やはりミリファは尊敬に値する人間だと、改めて認識することができた。


「ほらいくよっ。大丈夫、この私がついているんだよっ。何の心配もいらないんだから!!」


 どれだけ取り繕ったってその目は濡れていたし、その声は震えていたし、立ち上がろうとしてベッドに膝から崩れ落ちたりもしていたが──ぎゅっとファルナの手を握ってくれた。それだけで十分すぎるほどに憧れに相応しいと言える。



 ーーー☆ーーー



 団長は騎士の詰所に足を踏み入れ、奥に進む。わざわざ落とし物の保管庫まで行く必要もなかった。あちらから出迎えてくれたからだ。


 ガリガリガリ、と通路の両端を削りながら迫るは額にあたる箇所に魔石を組み込んだ四足歩行の石造りの獣であった。おそらくは石造りの詰所の壁や天井を取り込んだのだろう獣は胴体から無数の剣や槍を生やしていた。いいや、おそらくは──


「落とし物保管庫の近くには武器庫もあったであるな。そこから武器を取り込んだのであるな」


 ガリッ!! と一際大きく壁を削ったかと思えば、石造りの獣が飛び出す。胴体から生やした剣や槍が指のように動き、正面に展開。刺し殺さんと迫り来る。


「ふむ」


 瞬間、獣が消えた……かと思えば、右手の壁が消失した。果たしてそれがメイスによる横薙ぎの一振りであると獣は認識できたのか。できたところでその一撃を避けられなければ意味はないのか。


 ズドンッ!! と遅れて轟音が響き、獣を形作っていた石や剣や槍、それに魔石の残骸を壁の向こうに吹き散らす。


 そこで騒ぎに気付いたのか数人の騎士が駆けつけてきた。


「団長っ。ここにいましたか! 状況は──」


「丁度良い。副団長らに伝令せよ。非番も予備戦力も全動員し、民の安全を確保せよとな」


「は? いえしかし詰所内部に最低でも50以上の敵が侵入しています!! ここの敵の殲滅にも人員を割く必要があるかとっ」


「それは我一人で十分である。今は個人の武勇よりも数を利用してより多くの民を救うのが優先されるのであるぞ。ならば敵が集中している箇所に強き者を配置すべきであろう」


「ですから、団長! いくら団長でもお一人で奴ら全部を相手にするのは困難かとっ」


「くどい! くだらん問答に時間を割き、救える命を削る気か!?」


「っ、申し訳ありません!」


「分かったならばさっさと動け!」


「りょっ、了解しましたっ」


 わざわざこの非常時に敬礼を行い、動き出す騎士たち。その無駄な動作一つにしてもそうだが、この状況下で敵が多いだのなんだのつまらない理由で戦力を割り振ろうとする思考回路に団長は小さく舌打ちをこぼす。


 その点、ノワーズ卿は話が早くて助かるのであるぞ、とこぼす団長。どちらが正しいという話でもないのだろう。現実を見て、致し方ない犠牲も出ると許容するのが長の勤めなのかもしれない。


 だけど、団長はそうは思わない。

 少なくともこの程度で人員を無駄に割り振り、民に回す分を減らす必要は絶対にない。


「迅速に片付け、我も民の救助に回らなければな」


 一歩前へ。

 極太のメイスを軽々と持ち上げ、騎士を束ねし長は詰所に蠢く魔導兵器を殲滅するために動き出す。



 ーーー☆ーーー



 ブォワッ!! と灼熱の槍が民間人を襲おうとしていた大蜘蛛にも似た魔導兵器の頭部にあたる箇所に組み込まれた魔石を貫き、そのまま溶かしていく。


 コアを破壊された魔導兵器が機能停止するのを見届けたエリスは軽く息を吐く。これで破壊した魔導兵器は10を超えていた。これだけの数の魔導兵器が暴れまわっているとは予想外であったし、これだけの数を用意できるにしてはちぐはぐな印象を受ける。


 出力自体は高性能だというのに動力源たる魔石は剥き出しであるのだ。せっかくの高性能も魔石さえ破壊するだけで機能停止しては宝の持ち腐れである。


 これが低品質な魔導兵器であれば技術がないのだと思えるのだが……。


(基本的に起動や停止等の命令は魔石に使用者の魔力を受信させて、魔力の供給を操作するもの。魔石を内部に組み込むとなると使用者の魔力を内部の魔石まで伝達する仕組みが別途必要になるものだけど……その仕組みを構築する手間を惜しんで、その分だけ短期間で多くの魔導兵器を作り出した? あれだけの高性能品を作れるんだから技術力がないってことはないはずだし、でもそこを惜しんだから弱点丸出しになってて楽に撃破できるわけで……むむ。本末転倒じゃない?)


 大蜘蛛に追われていた人たちがお礼を言ってきたので、避難を促すエリス。彼らが逃げ出したのを確認して、ひとまず思考を打ち切る。


(何はともあれやることは変わらないよね。暴れている魔導兵器を片っ端からぶっ壊す! そうすれば誰も傷つかずに済──)



 ばぢゅん、と。

 どこか滑稽なほど軽い音が響いた。



 べちゃっとエリスの頬にかかったのは生暖かい液体であった。では、そこらに転がっているのは液体を納めていた『器』であるのか。


 先ほど助けた人たちだった。彼らが()()()()弾け飛び、エリスのほうにまで残骸が飛び散ったのだろう。


 わざわざ内側から炸裂した暴風を操作して、エリスに見せつけるように飛ばしてきたのだ。


『「風の書」第三章第八節──風爆砲弾。普通は敵に圧縮空気弾をぶつける魔法だけど……にひ☆ 空気の流れを操る「風の書」第二章第三節──風流制御を使って風爆砲弾を分解してから対象に吸わせた上で肺の中で再構築なーんてこともできるんだにゃー。後は圧縮空気を解放すれば、人間爆弾いっちょあがり☆だねっ。まーこのやり方でいけるのは初級魔法である第一章から第三章までだけど。それ以上だと分解が難しいし、奇跡的に分解できても魔法としての特性を持続させるのが無理だからさー。再構築なんて夢のまた夢だよー』


 こつん、かつん、と。

 どこか硬質な足音が響く。


「テメェが今回の騒動の主犯?」


『にひ☆ 動力源はこれを含む五つに分割したフラグメントだけど、それを操っているんだから、主犯っていえば「私」だねーにゃははっ』


 それは女の声を出していた。

 それは鉄くずを集めて人の形を作ったモノだった。

 それはエリスが壊してきた魔導兵器と同じく頭部にあたる部分に魔石を組み込んでいた。


 ただし、今回のものは目でも模すように二つ組み込んでいたが。


『ああ、そうだ。これは気軽にフラグメントワンとでも呼んでくれていいよー。にひ☆ 自分を殺すものについて少しでも知っておいたほうがいいだろうしねー』


「で、テメェは何がしたいのよ?」


『何って、そりゃー戦争に決まってんじゃん』


 あまりにも自然に答えるものだから、さしものエリスも反応が遅れた。しばらくしてから、戦争? とオムツ返ししていたほどだ。


『にひ☆ そうそう戦争だよー。どうにも中原が騒がしいし、のちの世を上手く立ち回るためにもそろそろ動こっかなーって思ってる()()()()()。領土は大きいに越したことはないってことかなー』


「それとこれとがどう関係するわけ? 戦争がしたい、領土を広げたい。それだけならあたしに見せつけるようにこの人たちを殺す必要はなかったはず! どうしてこの人たちを殺したのよ!?」



『あー戦争だ領土だってのは単に理由づけっていうか後ろ盾を手にすることで事後処理やら何やら余分なものを「かの国」に押しつけるための方便でさー。ぶっちゃけ殺したいから殺しているだけだったりして。だから、ほら、せっかく綺麗に殺せたものだから誰かに見せたくてねー。理由って言えばそんなところかにゃー』



「……もういい」


 ジリッ! とエリスのバトルスーツを灼熱が覆う。猛火が燃え上がり、それを渦巻く暴風が舞い上げる。炎と風を全身に纏いし者、『炎上暴風のエリス』がゆっくりと、だが確かに拳を砕かんがばかりの勢いで握り締める。


「ぶっ殺してやる」


『どれだけこの機体を壊しても、「私」には届かないんだけどにゃー』


「うるっさいのよ、クソ野郎がァ!!」


 ボッバァ!! と踏み込みと共に足裏から噴き出た炎が爆発、バトルスーツを軸とした防具技術(アーマーアーツ)で肉体へのダメージを軽減した上で瞬間的な加速を果たす。一直線に鉄くずの人形めがけて突撃していく。



 ーーー☆ーーー



「……こいつは参ったっすね」


 女の子を肩に担ぎ、医療機関を目指していた少女騎士は足を止めていた。


「あ、あの、どうして止まって……ひっ」


 後ろから走ってきた母親はといえば、騎士と並んだ瞬間に『それ』に気付いて小さく悲鳴をあげる。



 場所は六つの区画が交差する『女傑像』の広場。

 そこには十以上の銀の鎧が中身もなく動いていたのだ。そう、頭部に組み込まれた魔石を見るに、これらも魔導兵器なのだろう。中には景気よく()()魔石を組み込んだ鎧も存在する。



「防具屋あたりから流れてきたんすかね。めんどうっすね、もーう」


「どっ、どうするんですか!?」


「『こっち』は私の担当っすからねー。迂回するのもアリかもっすけど、その子の腕バッサリ斬り落としたっすから、治療まで下手に時間をあけるとめんどうな展開になりそうっすよねー」


 腰の剣に手をかけ、少女騎士は嘲笑を浮かべ、無邪気にこう続けた。


「ちょろっと押し通るっすか」



 ーーー☆ーーー



 そして、黒ずくめたちはといえば、


「リーダーぁこいつら硬いってぇ刃が通らないってぇ!!」


「(人間相手じゃないから騙し討ちやら誘導も通用しない、と。あれ? まずくない???)」


「うるさーい! あんの炎上女に借りを作ったままでいられるかーっ!!おらくそったれども!! 突撃だーっ!!」



 ーーー☆ーーー



 第七の塔、その一階では第七王女の元をガジルが訪れていた。食事を運ぶ以外には早々やってこない彼がこの場にいるのは、


「なー姫さん。こいつも『運命』ってやつなのかね?」


「少なくともわたくしは知らされていません。あくまでわたくしの『運命』はミリファさまですから」


「なるほどなー。ちなみにこいつは風の噂で聞いたんだが──嬢ちゃん同僚のメイドとデート中らしいぜ」


 ガタンッと椅子から立ち上がった王女の反応に気を良くしたのか、ガジルは気前よくこう続けた。


「このまま嬢ちゃんが巻き込まれてくたばったら、それはそれで『運命』を回避したって言えるのかもな」


「ガジルっ」


「嬢ちゃんを助ける力なら、そこにあるじゃないか。俺は詳しいことまでは知らねーが……姫さんさえやる気になれば、嬢ちゃんは無双できるんだろ?」


「それは……でも、力があると分かれば、ミリファさまは必ずや『運命』通りに……」


「その前に死んじまったら意味ねーけどなー」


「ガジルっ!!」


 鋭い叱責ではあったが……どこか泣きそうにも見えた。ガジルは正確なものまでは知らないが、その華奢な身体に重たい『何か』を背負っているのだ。


 ……そんなの捨ててしまえ、というのがガジルの本音だった。そのためなら数秒前とは真逆のことを言うこともあるし、わざと運命からは逃れられないなどと思ってもいない挑発をして本音を引き出そうとすることもある。


「で、どうする? 騎士ども動いているだろうし、じきに鎮圧されはするだろーが、それまで嬢ちゃんが無事かどうかは分からねーぜ?」


「…………、やはりわたくしには……でも」


「ったく。後先考えずに飛び出すくらいが『らしい』ってのに、王妃様に何を吹き込まれたのやら」


 呟き、ガシガシと頭をかくガジル。

 と、その時だった。第七王女はこう告げたのだ。


「ガジル。わたくしの護衛は結構です。ミリファさまや民の救助に向かってください」


「……俺、王族の護衛専門なんだが?」


「不良騎士にとって職務放棄は日常茶飯事でしょう」


「はぁ。まあ今回はこの辺で勘弁してやるか」


 嘆息と共に踵を返すガジル。

 さてどうすれば『運命』の呪縛をぶった斬ることができるのかと考えながら。

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