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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第十四話 よし、休憩しよう

 

「殺す……」


 それはもう熱烈で情熱的な一幕であった。臨界点を超えたエリスから思いっきり抱きしめられるわ頰をぷにぷにされるわ可愛い可愛い耳元で囁いてくるわ、それはもう熱い邂逅だった。


 ちなみに件のエリスは既に立ち去った後。『ミリファのデートを見守らないとっ』なんて言っていたような気がする。


「殺す殺すぶっ殺すう!!!! あんのクソアマァ!! こっ、この私を抱きしめっ、というか可愛いって、ああそうじゃないつい最近やり合った相手の顔も覚えてないのかあ!! 覚える価値もないってかあ!! あぁ!?」


「り、リーダーぁ。落ち着いてよぉ」


「うるさいばーかっ。あんたたちにわかるの!? 宿敵に抱きしめられて可愛いだなんだふざけたこと囁かれる気持ちがっ。こっちは人質なんてつまらない手を使ってでも復讐してやるって意気込んでいるのに、そもそもあっちは覚えてすらいないんだよ!? 何よこっちは忘れたくても忘れられないのに、『炎上暴風のエリス』にとって私たちは簡単に忘れてしまえるくらいちっぽけな存在だったってわけ!?」


「(忘れられていたから、うまく騙せたって喜べばいいのに。そういうところがリーダーの短所にして長所だよね)」


「くそ、くそくそくそお!! くーやーしーいー!!」


 ついには地団駄まで踏み始めたリーダー。天使の格好をした女が騒ぎ立てているからか、変に注目を集めている気がするが、よくよく考えれば全身真っ黒とさほど変わらない注目度のような気もする。


「リーダーぁ! 過ぎたことは忘れよ? 早く『炎上暴風のエリス』のアキレス腱たる妹ちゃんを誘拐して圧倒的アドバンテージを獲得しようよぉ。そうそう、妹ちゃんさえ確保できれば、あんな目に合わなくてもよかったんだってぇ」


「っていうか、さ」


 ぴたり、と。

 動きを止めたリーダーの瞳が酷く冷めた目で仲間たちを見据える。そう、そうだ、何やら妹確保の流れに持っていってうやむやにしようとしているが、


「あんたたち、私のこと見捨てたよね?」


「「「…………、さあ誘拐するぞーっ!!」」」


「誤魔化すなーっ!!」


「待ってよぉリーダーぁ! あれは仕方ないってぇ!!」


「うるせーっ! この裏切り者どもが!! たたっ斬ってやるからなーっ!!」


「うわぁー! リーダー剣抜くのはまずいってぇ!!」


 ごっちゃんばっちゃん乱闘騒ぎな仲間たちを見つめ、ちんちくりんはそもそもの破綻を指摘していた。


「(ミリファのデートを見守るつもりのエリスの目をかいくぐって誘拐を敢行するのは無理じゃないかな?)」



 ーーー☆ーーー



 大型衣服店を出た(まさかの指と指を絡めて手を繋いでいる)ミリファとファルナはといえば、


「ねえファルナ。そういえばプランとかあるんだっけ? あるってならそっちに従うけど」


「え、えっと、私は、その、ミリファさんと遊びたかったからで、あの、具体的な案は、なくて、えっとえっと……っ!!」


「?」


 顔どころか首も腕も足までも真っ赤に染めたファルナの視線は絡み合った指に向かっていた。手を繋ぐならまだしも、これはそういうあれそれなのではないだろうか?


(ふーむ。お姉ちゃんはいつもこんな感じで手を繋いでいたんだけど、田舎の常識と都会の常識は違うのかなー?)


 疑問には思ったが、もちろん今更直す気もないミリファ。ぐーたら娘は臨機応変な対応なんて疲れることはしない。そもそもこうして外に出て遊ぶことさえ稀なのだ。格好いいところ見せれば完全な誤解による尊敬に己の力で得た尊敬を少しでも混ぜることができるのではないか、そんな邪で卑怯で自己満足でしかない感情が起点なのだから。


(……なーんかもやっとするなー)


 改めて考えてみると、どうしてこんなことをやっているのだろう。友達と遊んでいるというのに、変に格好つけて無理をする必要がどこにあるのだろうか。


 そう、友達。

 ファルナとはお互い気兼ねなく仲良くなりたいと、そう思っているはずなのに。


(うん、やめやめ。尊敬だなんだつまんないもんをこんなところまで持ち込む必要ないよね。いや勘違いを正すのはもう少し待ってほしいというかまあ解釈の違いがあるというか第七王女様が側仕えってのは嘘じゃないしっていうか、じゃなくて! よし、いつも通りいこうっ!!)


「ファルナちゃん」


「は、はいっ」


「休憩、しよっか」


「……………………、きゅう、けい?」


 ここで問題。

 デート中に休憩なる単語が飛び出した時、それは何を意味する隠語であるか。


「休憩いいいい!?」


「わっ。びっくりしたあ。なになにどうしたの?」


「どうしたのって、そんな、ええ!?」


 デート中に休憩といえば『そういうこと』なのだ。

 愛し合う恋人たちが交わるあれそれなのだ。

 その程度の知識は恋人どころか友達すらミリファがハジメテのファルナでも知っている。


 知っているからこそ頭がどうにかなってしまいそうなほどに混乱しているというのに、目の前の友達はいっそのことキョトンとしていた。


 どうしてそうも焦っているのか分からないと、不思議そうに見つめ返してくるのだ。


「むう。確かに普通とは違うかもだけどさー私は『こう』なんだもん。そりゃあ一般的とは言えないかもしれないけどさーたまにはいいじゃん、ね?」


「たまにはって、そんな、うう」


「いいじゃんいいじゃん、ぶっちゃけもう我慢できないしさー休憩しよ、ね、ねっ!?」


「う、うううううううっ!!」


 手のひらに伝わる温度が全身を満たす。耐えられないと、我慢の限界だと、どこか息が荒いミリファに詰め寄られて、さらに熱が燃え上がる。


 ファルナは頭がクラクラと浮かされているのを自覚していた。これが普通ではないことは分かりきっていた。


 出会って間もない憧れのメイドにして友達。

 それだけのはずだ。先輩からの助言は元より、友達同士で遊ぶのは楽しいだろうと思っただけなのに。


「はい決まりー休憩でーす」


「う、うあ」


 絡んだ手に導かれる。

 小柄なミリファ相手だ、振り払うことなんて簡単なはずなのに、大人しく引っ張られていくしかなかった。


 はじめて出来た友達を失いたくなかったからか、それとも……理由は分からない。分からないが、少なくとも高鳴る胸の鼓動に嫌悪の感情は乗っていなかったことだけは確かだ。



 ーーー☆ーーー



『それ』は布石にして起点にして動力炉であった。首都の至る所にばら撒かれた魔石、それだけで何もできるわけもなく、そもそも普通は何の問題もないはずの落とし物でしかなかったはずだ。


「ねーママー。あれ魔石だよねー」


「あら、こんなところにどうして魔石が? 落とし物かしら?」


「落とし物は詰所に持っていくんだよねー!」


「そうね。ふふ、偉いわジュリ」


「えへへっ」


 女の子は魔石を拾って母親に笑顔を見せる。落とした人が困っているから、落とし物は詰所まで持っていきましょうねという母親の言葉を忘れてはいないのだと、自慢するように。



 ーーー☆ーーー



(勢い余って誘っちゃったけど、どうしよっかなー。このまま宿に戻ったら、せっかくデートの極意を教えてくれたお姉ちゃんに申し訳ないし、でもらしくもなく遊び歩くなんて疲れるしなー。どこかいい休憩場所はっと)


 ぐーたら娘はどこまでいってもぐーたら娘であった。性欲よりも睡眠欲な生粋のぐーたらは早くもベッドですやすや眠りたいだけだったのだ。


 そう、言葉通りの休憩がしたいだけ。

 友達に遊びに誘われてもベッドで一日中過ごすほどのミリファがよくもここまで我慢したとも言えるのか。


 そんな時だ。

 ふとそれは目に入った。


 三階建ての宿泊施設。

(首都の中では)比較的安価な宿に足を向ける。


「ここならお姉ちゃんに(デートを早めに切り上げたことも)バレないよね。よし、入ろうか!」


「う、うああ……私、その、ほんとうに『そういうこと』、なんだ……」


「? うん。あ、ファルナちゃん的には遊びに休憩は入らないかな??? 私としてはベッドで一緒に寝るほうが楽しいくらいだけど」


「寝、寝る……はうう」


「えーっと、今更だけど、いいかな?」


「……好きに、して」


「そう? それじゃあレッツゴー!!」


 どうにかなってしまいそうだと呟くファルナ。

 いいや、もう既にどうにかなってしまっているのかもしれないが、今はまだ冷静に己を鑑みる余裕なんてどこにもなかった。



 ーーー☆ーーー



 そしてミリファたちを追いかけていたエリスはというと、ようやく見つけた妹が女の子の手を引いて宿泊施設に足を踏み入れるのを目撃してしまっていた。


「ごぶっ! ばふべぶがぶっ!? な、ん、そんな、手が早いよミリファーっ! こっちは女の子同士でデートってのも消化しきれてないのに、うわわ、いきなりお泊りイベントかよーっ!!」


 うがーっ! と咆哮を響かせるが、胸の中に燻るモヤモヤは減るどころか増え続けている。


「ミリファのばか。なにさなにさお姉ちゃんお姉ちゃんって後ろをついてきていたくせにっ。ナンダカンダで最後にはあたしの元に帰ってきてくれたくせにっ。そんなぽっと出のメイドがそんなにいいのか馬鹿野郎ーっ!!」



 ーーー☆ーーー



 そんなエリスを後ろで観察するはリーダーを中心とした数十人の集団。コスプレ衣装は買わずに戻しておいたので元の黒ずくめスタイルである。


 ……なぜかおしゃれさんは紙袋なんかを手に持っていたが。


「うわー。最近の娘って進んでるなー。何不自由ないんだろうし、完全な趣味ってことじゃん」


「姉の目の前で恋人とホテルイン。くう! 鬼畜だねえ!!」


「小金でも欲しくなったのかな???」


 がやがや騒ぐ黒ずくめどもだが、どうにも暗そうな過去が見え隠れしていたりもする。


「ふふ、ふはははは! ザマァないわね『炎上暴風のエリス』う!! この私を散々可愛がってくれた罰よ罰っ!!」


 ひゃっほーっ! と大はしゃぎなリーダーだが、そんな彼女の隣でおしゃれさんはどこかわざとらしいほどに残念そうな表情を作る。


「リーダーぁ。このままだとまずいってぇ」


「何がよ? クソ憎たらしい『炎上暴風のエリス』が打ちひしがれているのよ。こんなにハッピーなこと早々ないじゃん!!」


「流れがまずいんだよぉ」


 流れ? と首をかしげるリーダーは改めてエリスの様子を観察する。心臓を押さえ、目は虚ろで、おまけに『助けなきゃ』だの『返せ』だの『強奪してやる』だの不穏な言葉が垂れ流されていた。


「このまま妹のところに突撃されたらぁ誘拐なんて出来なくなるってぇ」


「ぐう!」


「そんなわ・け・でぇ」


 ずいっと差し出されるは先の大型衣服店の紙袋。

 その中身は──


「エンジェルミラージュちゃんの可愛さで足止めしようかぁ☆」


「ぶふっ!? な、なぜ忌まわしきコスプレ衣装がここに!?」


「えへへぇ。こんなこともあろうかと資金を大幅に切り崩して買っておいたのよぉ」


「ふ、ふざけるなーっ! そんなの着てたまるか!!」


「でもぉエンジェルミラージュというガワで誤魔化さないと正体バレるかもだしぃ、あれだけ濃厚な接点ができているリーダーが足止め役には適任だってぇ」


「ぐぐぐう!!」


 選択肢は二つに一つ。

 屈辱を回避して誘拐計画を失敗に終わらせるか、屈辱を受け入れて誘拐計画を成功に終わらせるか、二つに一つである。

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